第三百十一話・襲来、七つの災厄
新生魔王軍の襲撃を受けてから数日が経過した。
統率官であるミーデとその召喚獣・ヘビーを倒したことで魔王軍は撤退し、戦いに勝利したが、犠牲も多く出た。
私達を匿ったことで目をつけられ、傷ついた竜族達……。
それに、トレイギアに敗れ、連れ去られたヴェルザード……。
彼の安否が心配で食事も喉を通らなかった。
エルサは彼を救えなかった己を責め、リリィは笑わなくなった。
皆それぞれ傷を抱えながら、それでも前を向こうとしている。
私達は竜族の皆さんの看病をしつつ、破壊された民家の復興に精を出していた。
家を作り直す為、私は森に入って巨大な樹木を斬り倒していた。
以前よりも魔力を制御出来るようになり、簡単に樹木を斬り倒せるようになっていた。
「お見事です、主」
ランプの中でリトは褒め称えてくれた。
でも私は体を動かしながらも心のモヤモヤが取れずにいた。
ヴェルザードのこともあるけど、ペルシアのこともだ。
私のせいで彼女は暴走し、リリィ達を傷付けてしまった。
魔王城に囚われたあの時、どうすれば正解だったのか、今も分からない。
「少しは休んだらどうだ、ワカッチ」
リコが後ろから声をかけてきた。
彼女もヘビーに痛めつけられたが、比較的軽傷で済んだ為、こうして率先して働いている。
「リコちゃん……」
「運ぶの手伝うぜ」
「ありがとう、リコちゃん」
私とリコはお互い木材を運びながら里を目指して歩いていた。
「なあ……ワカッチ……アタシもっと強くなりてえよ」
暫く歩いているとリコはポツリと心情を吐露した。
「里が滅茶滅茶になったってのに、結局アタシは何も出来なかった……あの象の化け物に手も足も出なかった……里を任されたリーダーだってのに、これじゃ兄貴に合わせる顔がねえよ……」
リコは辛そうな表情を浮かべていた。
「リコちゃん……大丈夫だよ……リコちゃんならもっと強くなれるよ」
私は笑顔を浮かべ、落ち込むリコに励ましの言葉をかけた。
「私もミーデっていう悪魔に酷い目に遭わされて、それがトラウマになった……だけど、何とか恐怖を乗り越えて、ミーデに勝つことが出来た……だからリコちゃんも乗り越えられると思うの」
「ワカッチ……ありがとよ……優しさが胸に染みるぜ」
リコは目に浮かんだ涙を腕で拭った。
そうだ……落ち込んでる場合じゃない……早く里を元通りにして、ヴェルザードを助けに行かなくちゃ……私は胸に誓い、前を向くことにした。
「会いたかったぞ、イフリートの召喚士よ……」
突然、辺りが闇に閉ざされたかのように暗くなり、森がざわめき出したかと思えば七人の集団が私達の前に姿を現した。
「…… !」
七人の放つ威圧感は異質で今まで出会った人達とは次元が違っていた。
私もリコも硬直し、恐怖を感じてその場で動けなくなった。
「七大罪魔王……」
小刻みに振動するランプの中からリトの震える声が聞こえた。
リトの尋常じゃない反応を見るに、ただ事じゃない事態が起こっているのは確かだった。
「魔王サタン……肉体を取り戻したようですね……」
リトは事実を受け入れられない様子で弱々しく呟いた。
最悪な展開だ。
まさかミーデの奴……魔王の復活に成功してたなんて……。
以前サタンとは魔界で戦ったことがあったがあの時は肉体を失っており、魔獣の骨を合体させて巨大化していた。
どうやって復活させたのかまでは考えてる余裕は無かった。
「似ている、かつて俺達に刃向かった伝説の勇者に似ているな……まあ雰囲気はだいぶ冴えないようだが」
金髪の青年は私の顔をじろじろ見つめながらリーダーらしき男……サタンに言った。
「だがこの娘こそ……忌まわしき魔人を使役する危険分子だ……油断はならんぞ」
「じゃあとっととぶっ殺そうよ」
無邪気に笑いながらサタンに呼び掛けるポニーテールの少女……レヴィアタン。
七人共目眩がする程の殺気を放っていた。
一人で一人恐るべき力を秘めている。
私は命の危険を感じた。
「主……ここは私に任せてください」
リトはランプの注ぎ口から勢いよく飛び出し、実体化した。
「リト……」
「相変わらずのようだな、イフリート……」
今回はリトだけじゃなく、後に続いてフレアも実体化した。
「貴様一人では不安だろう、今回は私も参戦する」
リトとフレアは庇うように私とリコを後ろに下がらせた。
「リコさん、貴女は里に戻ってこの事態を皆に伝えて下さい」
リトは振り返りながらリコに指示を出した。
「ふ、ふざけんじゃねえ、アタシも戦うぞ !」
「貴女では無駄死にします! 相手は魔王が七人なんですよ !」
反発するリコに対してリトは物凄い剣幕で怒鳴り、黙らせた。
リトがここまで怒るのは珍しかった。
「ちっ……分かったよ……ワカッチ、無事でいてくれよ…… !」
リコは申し訳なさそうにうつ向きながら翼を広げ、一目散に飛び去っていった。
「追わなくていいの ?」
「是非僕の愛人の一人に加えてあげたかったんだけどね」
中性的な美青年のアスモデウスは残念そうにしていた。
「まあ、雑魚は放っておいてもよかろう……まずはイフリート……ついでに不死鳥、貴様らをこの世から消してやる」
サタンは邪悪な笑みを浮かべ、マントを翻した。
殺意は更に膨れ上がって行く。
リトとフレアは身構え、緊張感に包まれていった。
「フレアさん……勝てるだなんて思わないで下さいね……あくまで時間稼ぎですから」
「まさか魔王七人に出くわすなんて、長生きはするものじゃないな」
リトとフレアは息を吸い込むと、七人の魔王達に向かって走り出した。
遂に復活を遂げた七大罪魔王……。
未だかつてない圧倒的な絶望が私達に牙を向く。
To Be Continued




