第三百十話・七大罪魔王
ミーデの身体に乗り移った魔王サタンは一足早く魔界に帰還した。
サタンは脇目も振らず魔界の地下深くまで潜り込み、巨大な結晶がそびえ立つ最深部までやってきた。
結晶はピンク色の妖しい光を放っていた。
「待たせたな、我が同胞達よ……」
サタンは巨大な結晶にそっと手を触れた。
「ククク……遂にこの時が来た……ミーデよ、貴様には感謝しているぞ、お陰で思ったより早く復活が果たせそうだ」
サタンは高笑いをすると結晶から離れ、大きく両腕を広げた。
「さあ、今こそ忌まわしき勇者の封印を解くがいい !我が偽りの肉体よ、鍵となれ !」
サタンは声高に叫ぶと全身が紫色に発光し、妖しげな光を放った。
身体宙を覆う禍々しいオーラが激しく燃え上がる。
「ぐわぁぁぁぁぁ !!!」
苦しそうに呻くサタン。
結晶に向かって彼の身体からオーラが吸い込まれていく。
「ぬう……ぬがぁぁぁぁぁぁ !!!」
オーラだけではない。
心なしかサタン=ミーデの肉体にも変化が表れ始めた。
全身から生気を奪われ、みるみるうちに痩せ細り、筋肉は収縮し、やつれていった。
髪の色も艶がかった黒から雪のような白へと染まってゆく。
「がっ……はぁ……はぁ……」
巨大な結晶はミーデの肉体から余すことなくエネルギーを吸い尽くした。
身体中のエネルギーを殆ど奪われ、ミーデは老人のようにボロボロな姿に変わり果て、そのまま白目を向いて崩れ落ちていった。
ミーデはピクリとも動かず、まるで脱け殻のように横たわっていた。
ピキピキ……
その時、巨大な結晶に変化が訪れた。
音を立ててヒビが入り、やがてそれは全体へと広がっていき、最終的に真っ二つに割れ、爆発しながら粉々に砕け散った。
「あ……ああ……」
しゃがれた声で呻き声を上げながら這いつくばっていたミーデは朦朧とする中で顔を見上げると、眼前には七人の集団が立っていた。
「ククク……数千ぶりだな、同胞達よ」
中心にいるのは禍々しい黒い甲冑を身に纏い、マントを羽織った男……サタンだ。
サタンの手にはかつて魂を移していた魔剣が握られていた。
「魔王……様……」
ミーデは目に涙を浮かべながら歓喜した。
待ちに待った魔王サタンの復活をこの目に焼き付けることが出来たのだ。
サタン本来の姿を拝むのはこれが初めてだった。
「ようやく長い眠りから目覚めたぜ……随分時間がかかったようだな、サタン」
サタンの隣で金髪で黒い羽を生やした美青年が皮肉っぽくぼやいた。
彼の名は傲慢のルシファー。
かつては天界で名を馳せた大天使の一人だったが罪を犯し、下界に落とされ、堕天したとされる。
「まあまあ良いじゃない、それよりも会いたかったわ、ルシファー」
目を輝かせながらポニーテールをした華奢な少女がルシファーの腕を絡めようとする。
彼女は嫉妬のレヴィアタン。
かつてエレイン率いる魔海人海賊団の面子を従えていたこともある。
水を自在に操ることが出来る。
ルシファーは嫌そうに彼女を引き離した。
「しかし、我々七大罪魔王がこんな地底深くに何千年も閉じ込められるなんて一生の深くだな」
鷲のような頭をした上半身裸で細身の青年が辺りを見回しながら呟いた。
彼は強欲のマモン。
世界中に眠るありとあらゆる財宝を集めるのが好きな男だ。
「ねー、アタシお腹空いたんだけどー、早くご飯食べに行こうよ」
黒いドレスを身に纏い、虫のような羽を背中に生やした妙齢な女が子供のように駄々をこねた。
彼女は暴食のベルゼブブ。
スリムな体型に似合わず食欲旺盛である。
「君は元気そうでいいね、僕はまだ眠い……後1500年は寝てたいよ……」
目を擦りながら眠そうに小柄な少女が呟いた。
羊のように丸まった角を生やし、白くモフモフした毛皮で作られた衣を纏っているこの娘は怠惰のベルフェゴール。
「しかし数千年も経ってしまったのかい……僕が愛したレディー達はとっくにお星様になってるか輪廻転生してしまってるだろうね……まあいい、また新しくレディーを見つけてやるさ」
厚化粧でV系バンドマンのような容姿の美形の青年は天井を見上げながら自分の世界に入り込んでいた。
彼の名は色欲のアスモデウス。
見て分かる通り、無類の女好きだ。
恐れていた事態が遂に起こってしまった。
ミーデによって、悠久の眠りについていた七人の魔王が復活してしまった。
「所でサタン、そこに転がってるのは何だ ?」
ルシファーは転がっていた見てを足で雑につついた。
「この男は我に忠誠を誓っていた最高悪魔だ……我ら七人の魔王を復活させる為、色々尽力させてやったのだ」
サタンはニヤニヤしながら説明した。
彼の狙いはミーデに魔剣サタンを握らせ、定期的に剣を媒体にして魔力を送り、ミーデの魔力を高めさせることだった。
やがてミーデの力が最高峰に達し、神器全ての魔力に相当するまで成長させた後、この肉体が干からびるまで結晶の封印を解く為の生け贄に捧げさせたというわけだ。
「自分を慕う部下を利用してボロ雑巾になるまで使い潰したってわけ? 相変わらず容赦ないのね、サタンって」
あまりに冷酷で無慈悲なサタンに対してレヴィアタンは苦言を呈した。
「何とでも言うがいい……我にとって部下とは駒……いくらでも集められる……こやつも満足だろう……死の瞬間まで我に仕えられて……」
サタンは邪悪な笑みを浮かべるとミーデの懐からヘビーの眠るランプを押収し、用済みと言わんばかりにミーデを蹴り飛ばした。
「奴は我らを甦らせる為の触媒になり、全ての力を使い果たした……後数日もすれば息絶えるだろう……ご苦労だったな、それまで残りの生を謳歌するがいい……」
サタンはそれだけ吐き捨てると地下を出ようと歩き出した。
「何処へ向かうんだいサタン」
不思議そうにアスモデウスが尋ねる。
「まずは我に屈辱を与えた忌まわしき魔人・イフリートに挨拶しに行かねばな……目覚めたばかりで悪いが付き合ってもらうぞ」
「イフリートか……奴には深い恨みがあるぜ」
「準備運動としてイフリートに報復するってわけか」
「僕はまだ眠い……スヤスヤ」
「こら、寝るんじゃないよ! アンタは一度寝たら中々起きないんだから」
「さあ、久々の下界よ、派手に楽しむわよ !」
七人の魔王は地上に出ると、竜の里を目指して一斉に飛び立った。
かつて彼等を封印したリトに復讐する為に……。
彼等魔王達の復活により、運命は大きく変わり、この世界は激動の時代を迎えることとなった。
To Be Continued
 




