第二十九話・白い翼の歌姫
「今日はここまでだ !」
「はぁ……はぁ……」
今日はエルサの元で剣の稽古をした。
みっちりとしごかれ、大量の汗を撒き散らしながら私は大の字に倒れた。
エルサの的確かつ厳しい教えのお陰でだいぶ強くなった気がした。
最初の頃より木刀を使いこなせるようにはなってきたと思う。勿論エルサには遠く及ばないが……。
稽古が終わり、私は家に帰るため広場を歩いていた。
「はぁ~疲れた~……」
「お疲れ様です、主」
「お陰で身体中バッキバキですよ~……」
リトはくたくたになった私を労ってくれた。
「主が強くなれば、契約している私も連動し、パワーアップすることが出来ます。主はもっと強くなるべきです」
「そ、そういう仕組みなんですか……」
私はリトと他愛ない会話をしていた。
すると広場が騒がしいことに気付いた。
「何だろう……また怪我人?……」
「いや、どうやら違うようですよ」
私は人だかりの方へ寄ってみた。
そこでは、白く綺麗な翼を広げた女の子が歌を歌っていた。
「綺麗……」
私も思わず魅入ってしまった。白い翼の女の子の歌声は優しく、透き通っていた。
町の人々は皆耳を済ませながら目を閉じ聴いていた。
まさにプロ歌手並みの歌唱力……。
やがて、女の子は歌い終えた。
「え~、皆様~ご静聴頂き~ありがとうございました~ !」
女の子はお礼を言うと頭を下げた。
町の人々は一斉に彼女に群がり、彼女の足元に置かれたケースに硬貨を次々に落としていった。まるで異世界版路上ライブだ。
「あ、あの…… !またいつでも遊びに来て下さい !応援するんで !」
その中には堅固な山猫も混じっていた。彼らは女の子と握手を交わした。その姿は騎士団なのにもはやただのファン。
「どうもありがとう~」
女の子は満面の笑みを浮かべた。
やがて町の人々が居なくなり、残ったのは私だけになった。
「やった~今日はこんなに貰った~今夜は家族皆でご馳走だ~」
女の子はケースにぎっしり詰まった硬貨を眺め、嬉しそうにしていた。
「あのー……」
私は彼女に話しかけてみた
「なーに~ ?わぁ~、可愛らしい女の子だ~」
彼女はマイペースな喋り方だった。大人びた容姿で子供っぽい天然な性格をしていた。
「とても綺麗な歌声でした。素晴らしかったです、どうぞ」
私は三枚の硬貨を彼女に渡した。
「ほんとうに~ ?ありがと~」
彼女は嬉しそうに受け取った。
「私~鳥人のミライって言うんだ~宜しく~」
鳥人……。体の半分が鳥である種族のことだ。
「私はワカバって言います。えーと……無限の結束の騎士をやってます……」
「あー !聞いたことあるー!確かー、えーと~……忘れちゃった~ゴメンね~」
どうやらマイペースな子のようだ。
私とミライは握手を交わした。
「歌、上手なんですね」
「えへへ~、私、歌だけは得意なんだ~、うち貧乏だから、こうして皆の前で歌ってお金を稼いでるんだ~」
「そうなんだ、大変なんですね……」
「おまけに私おバカだから、難しいこと覚えられないの~、鳥人って皆頭弱いんだよね~何て言うんだっけ、えーっと~鳥~」
「鳥頭ですか ?」
リトが余計なことを口走った。
「そうそう鳥頭~ってえー !ランプが喋った~ !」
ミライはびっくり仰天した。
誰だってそうなる。
「私は主に使える最強の召喚獣……魔人のリトです」
「普段はランプの中にいるんですけど、いざというときに出て来て戦ってくれるんです」
「へぇ~すっご~い」
ミライは感心していた。
「で~、何の話してたっけ~」
「鳥頭がどうのこうの……です」
「あーそうそう~ワカバちゃん頭良い~ !」
本当に忘れっぽいんだなこの子……。
「ねえワカバちゃん~……あの~……私と友達になってくれる~ ?」
「ええ、良いですよ、私で良ければ」
ミライはパーっと目を輝かせた。
「ほんと~ !?ありがと~ !人間の町に来てみたけど友達出来るかどうか不安だったんだ~これからも宜しくね~」
「ええ、此方こそ宜しくお願いします」
私とミライは友達になった。
ミライは嬉しさのあまり私に抱きついた。ミライの翼が私を包み込んだ。とても柔らかく、良い匂いがした。
「じゃあ、また近いうちに遊びに来るからね~」
「はい、いつでも待ってますよ」
「ばいば~い~」
そういうとミライは翼を広げ、空高く飛んでいった。
私はいつまでも空を見上げ、見送っていた。
「流石主です。見ず知らずの娘に話し掛け、友達になるとは……成長なさいましたねぇ」
「ま、まあね……」
自分でも不思議だった。
以前の私だったら人見知りで初対面の人に話し掛け、友達になるなんて出来なかった。
「皆と出会ったからかなぁ……」
リトにヴェルザード、リリィにエルサ、マルク……。
キャラの濃い人達との出会いで、内気だった私も少しずつではあるが、何か変わっていったのかもしれない。
「ま、悪くないですね……」
その時ぐぅ~とお腹の音が鳴った。
「あ、主のお腹、随分良い音でしたねぇ」
「乙女に向かって何てこと言うんですか !」
「アハハ、それよりも早くお家に帰りましょう、リリィさんの料理が待ってますよ」
「そうですね」
私は家に向かって走り出した。
しかしこの後、厄介な事件に巻き込まれることに、この時の私は想像もしていなかった。
To Be Continued




