第三百三話・ペルシア親衛隊、大暴れ
混沌を極める竜の里を巻き込んだ新生魔王軍との戦いも、各地で決着がついていった。
エルサvsゴブラは辛くもエルサの勝利に終わったが、一方でヴェルザードがトレイギアに敗北し、捕縛されてしまった。
リトは同じ召喚獣であるヘビーと今も互角に渡り合っている。
そしてペルシアの張った結界の中でも戦いは激化していた。
外界と遮断された特殊な空間に閉じ込められたリリィ達四人はペルシアの用意した手練れの四人衆 ペルシア親衛隊相手に苦戦を強いられていた。
「デカ女ーあははーこっちだよー」
「ちょっとー ! 待ちなさーい !」
小人のように小さい体を持つ無邪気な妖精のフィンは蝿のように素早くリリィの飛び回り、彼女を翻弄した。
リリィは特注のフライパンを必死に振り回し、フィンを叩き落とそうとするも空振りに終わった。
「はぁ……はぁ……小さすぎて……狙いが定まらないです……」
自由に飛び回るフィンを捕らえられず、疲労で息が上がるリリィ。
その時、彼女は異変に気がついた。
「何ですか……これ……体が……重い……」
リリィは突然の体調不良に襲われ、フライパンを放り捨てて倒れてしまった。
体が石のように重く、動けない。
フィンは勝ち誇ったかのように彼女の頭に止まった。
「まさか……これは……」
「へつへっへ、今頃気付いたかバーカ !」
リリィを嘲笑うフィン。
彼はただ闇雲に飛び回っていたわけではない。
気付かれぬよう彼女の周囲に鱗粉を撒き散らしていたのだ。
フィンの全身から放たれる鱗粉を浴びた者は体が痺れて動けなくなる。
リリィはまんまとフィンの罠にはまってしまった。
「はぁ !」
「どうしました、この程度ですか」
リリィが倒れている頃、クロスはケットシーのトールと一騎討ちを繰り広げていた。
トールは親衛隊の中でも冷静で紳士的な男で剣術にも長けていた。
「ホラホラ、動きが鈍いですよ」
丁寧な口調で煽っていくトール。
小柄な体躯を生かし、素早く剣を振るってクロスを追い詰める。
クロスは両腕に生えた黒い翼を硬質化させ、必死に華麗な剣技に対抗していた。
「くそ……ここで負けるものか !黒羽根乱針 !」
クロスは翼を羽ばたかせ、無数の羽根の弾丸を飛ばしてトールを牽制した。
だがトールは踊るように剣を滑らかに振り回し、羽根を弾き落としていく。
「そんな小細工は無駄です、三流のやり方……そしてこれが……」
ズバッ
トールは一呼吸置くと剣を構え、一瞬でクロスとの距離を詰め、一撃で切りつけた。
クロスは吐血し、膝をつきながら崩れ落ちていった。
トールは剣を振って刃についた血を払った。
「所詮は使い魔……この私に勝てるはずがないのです」
次々と仲間が倒れていく中、コロナとミライもそれぞれの相手に苦戦していた。
コロナはカボチャを頭に被った小太りの男、ジャックオランタンのクラッカーを、ミライは派手な衣装に身を包んだ道化師ワイドと対峙していた。
「こんな可愛い子を相手に出来るなんてついてるんだな !」
息を切らしながら興奮し、クラッカーはコロナに向かって小さなあめ玉を何個か投げつけた。
あめ玉は当たると爆発するように出来ていた。
「きゃっ !」
地面に落下したあめ玉は砂埃を巻き起こしながら爆発し、コロナを怯ませた。
「う……こんなのに……私は負けない……」
コロナは覚悟を決めると杖を高くかざした。
「大地の光 !」
杖の先端がオレンジの光を放った瞬間、彼女の足元からオレンジの光が地を這いながらクラッカーに迫っていった。
「地属性の技はえげつないんだなぁぁぁ !」
オレンジの光をまともに浴びてクラッカーは盛大に煙を巻き起こしながら爆発した。
「でも効かないんだなぁ~」
無論この程度で倒れるわけもなく、クラッカーは何事も無かったかのように煙の中、堂々と立っていた。
「魔女と言ってもまだまだ子供……オイラの敵じゃないんだなぁ~」
クラッカーはそう言うとポケットから大きなキャンディを取り出した。
「魔法ってのはもっとこう使うんだなぁ~」
クラッカーはキャンディを一振りすると先端から虹色に輝く光が放たれ、コロナを狙った。
「きゃああああ !」
ドカァァァァン
ふざけた格好をしているが彼は難易度の高い魔法を操れる実力者だった。
コロナは咄嗟に水のバリアーを張ったが防ぎ切れず、敢えなく倒れてしまった。
「うそ~私だけになっちゃった~」
1人取り残されたミライは取り乱しながら狭い空間を飛び回っていた。
道化師のワイドは不気味に笑いながらじわじわと彼女の退路を塞いでいった。
「ぷぷぷ~焦りは禁物だよ~」
子供のように無邪気に笑いながらワイドはミライの背後に回り込み、華麗に蹴りを入れて叩き落とした。
「ぐわっ !」
地べたでうつ伏せになって倒れるミライ。
得意の飛行能力もこの狭い空間の中では何の役にも立たない。
ワイドは余裕そうに躍りながらミライに近付いた。
「う~舐めないでよ~ !」
ミライは不意に近付いたワイドに向かってサマーソルトキックを決め、顎を蹴り上げた。
ワイドは不意打ちを喰らい、仰向けに倒れて頭を強打した。
「今だ! 銀の翼~ !」
ミライは翼を銀色に硬化させると低空飛行し、ワイドに突撃して鋭利な翼で切り裂いた。
血を流し、悲鳴を上げるワイド。
だがその顔は不気味なまでに笑っていた。
「いい線行ってたけど惜しいねぇ~」
崩れ落ちるワイド。
だがそれは跡形もなく消失した。
不思議そうに辺りを見回すミライ。
そんな彼女の頭上に何者かが足を乗っけていた。
「だ、誰~ ?」
「僕だよーん、ベロベロバア~」
ワイドは身代わりに分身体を用意し、それをミライに攻撃させていた。
彼女の頭に乗りながらワイドはケラケラと腹を抱えていた。
「ず、ずる~い !」
「残念だけど、ゲームは終わりだよ、僕もうあーきた」
ワイドはにこやかな笑顔で彼女の首を両足で挟み、そのままグルンと回転しながら地面に叩きつけた。
衝撃が全身を襲い、失神するミライ。
こうして四人は親衛隊によって全滅した。
「う……この人達……強い……です」
地べたに這いつくばるリリィを見下ろしながらペルシアは勝ち誇った様子で近寄った。
「お見事です皆さん、帰ったらご褒美をあげましょう」
ペルシアは手を合わせながら微笑んだ。
親衛隊の四人は歓喜の声を上げた。
「さ、ミーデ様に言われた無限の結束の四人は捕らえました……その前に、復讐をする必要がありますね」
ペルシアは倒れるリリィの目の前でしゃがむと乱暴に髪を引っ張り上げた。
「ひっ…… !」
「貴女は私から大切な人を奪った……絶対に許しません……貴女だけはこの手で地獄を見せてあげます、二度と笑顔になれないようにね……」
リリィに顔を近付けさせ、極悪な笑みを浮かべるペルシア。
その様子を目の当たりにし、四人は震え上がっていた。
「お願い……リリィお姉ちゃんに……酷いことしないで……」
「や、やるなら私にやってよ~……」
親衛隊に捕縛されながらコロナとミライは必死に懇願するも、ペルシアは聞く耳を持たない。
「貴女達には何の恨みもありません……あくまで仕事の一貫としてその命利用させてもらうだけです……ですがこの女だけは話は別です、決して楽には死なせませんよ」
ペルシアのリリィへの憎しみは最早誰にも止められなかった。
「さて、どうしましょうかね……まずはその可愛い顔をズタズタに引き裂いて醜くして差し上げますか……」
黒い魔力を手のひらで溢れさせながら腕をゆっくりと振り上げるペルシア。
だがリリィは恐れているようには見えず、落ち着いていた。
「悲しい人ですね……私を無惨に殺した所で、ワカバちゃんは貴女のものにはならないです……」
「何ですって……」
ペルシアは静かなトーンで怒りを露にし、リリィの胸ぐらを掴む。
「貴女だって分かってるはずです……こんなやり方でワカバちゃんを手に入れられる訳がないって……」
「黙りなさい !」
リリィはなおも話を続けた。
ペルシアはだだっ子のように癇癪を起こし、カキ消すように当たり散らす。
親衛隊達も心配になってきた。
「貴女に何が分かるんですか! 魔界で一人ぼっちだった私にとって……初めて出来た友達だったんですよ !」
滅多に私情を挟まない彼女だったが、感情を剥き出しにしてリリィを責め立てた。
「可哀想な人ですね……本当の友達のことを何一つ知らない……だから簡単に傷付けようとするんです……」
「黙れぇぇぇぇぇぇぇ !」
尚も喋り続けるリリィに堪忍袋の緒が切れたのか、ペルシアは怒りのあまりリリィに向かって特大のエネルギー弾を放とうとしていた。
「ペルシア様! おやめ下さい !」
部下のトールが必死に止めようとする。
ここで殺しては意味が無いからだ。
だがペルシアは興奮のあまり、そんなことはお構い無しだった。
「ワカバちゃん…… !」
リリィは目を瞑り、彼女の名前を心の中で呟いた。
そしてペルシアがエネルギー弾を放とうとした瞬間……結界が崩れる音が聞こえた。
「な、何ですか…… !?」
正気を取り戻したペルシアとその部下達は辺りを見回した。
すると張られていた結界が嘘のように消えて無くなり、元の景色が広がっていた。
「何で……? 私の結界はそう簡単には解けないはず……なのに……」
驚きを隠せず戸惑うペルシア。
その彼女の前に一人の少女が現れた。
「あ、貴女は……」
To Be Continued




