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ランプを片手に異世界へ  作者: 烈斗
新生魔王軍進撃編
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第三百一話・その名はトレイギア



町外れにあるのどかで平穏な小さな村に二人の少年が住んでいた。

1人は優しさと正義感を持った少年、ダン。

もう1人は臆病だが冒険に憧れている少年、トレイギアだ。

トレイギアはどういうわけか他の人間と少し違い、自らの腕を剣のように変形させる力を持っていた。

村人達から気味悪がられ、周囲から孤立していたトレイギアにとって、ダンだけが唯一心を許せる友だった。


やがてトレイギアとダンは村を飛び出し、冒険者を目指して都会のギルドに入った。

トレイギアは周囲に怪しまれないよう、自らの能力を封印した。

最初は駆け出しだったが、少しずつクエストをこなし、同じ志を持った仲間にも恵まれた。


だが順風満帆な日々はそう長くは続かなかった。

ある日、仲間四人でクエストに出掛けた時に事件は起こった。

危険度Aクラスのモンスターの討伐に手こずっていたダン達。

トレイギアは仲間を守る為、今まで隠してきた力を解放してしまう。

肉体を変質させ、人ならざる異形の姿へとなり、パーティーを戦慄させた。

結果としてモンスターは倒せたが、その強大すぎる力はあっという間に未熟なトレイギアの自我を飲み込み、怪物へと仕立て上げてしまった。

暴走したトレイギアは見境無く暴れ、ダンの言葉も届かなかった。

ダン以外の二人はトレイギアを人ではなくモンスターと認識し、躊躇なく攻撃した。


「やめろ! やめてくれ! トレイギアは……俺の親友なんだ !」


ダンの必死の叫びも虚しく、他のパーティーメンバーの手によってトレイギアは討伐された。

仲間達はそんな化け物など最初からパーティーにはいなかったと切り捨て、去っていった。


「トレイギア……」


誰もいなくなった荒野……。

ダンは呆然としながら血だらけになって倒れているトレイギアを抱き起こした。

致命傷を負い、息も絶え絶えだ。


「ダ……ダン……」

「おい……しっかりしろ…… !」


トレイギアは光を失った瞳でダンに微笑みかけた。


「僕は……人間じゃないから……皆とは……違うから……いつか……こうなるんじゃないかって……思ってた……」

「違う……お前は……俺と同じ人間だ……! 俺にとって……たった1人の友達だ…… !」


ダンは大粒の涙を流しながらトレイギアに語りかけた。


「ダン……君は……幸せになるんだよ……」


それだけを言い残し、トレイギアはダンの腕の中で息絶えた。


「う……わぁぁぁぁぁぁぁぁ !!!」


トレイギアという少年は人とは違う異形の者だという理由で周りから恐れられ、孤独を理解されず、挙げ句に命を落とした。


その後、人間という存在に失望したダンはトレイギアの亡骸から血液を採取し、自らの体内に取り込み、人であることをやめた。

そして親友を忘れないよう、ダンという名前も捨て、トレイギアの名を継いだ。

元々未熟だった彼と違い、高い潜在能力を持っていた為、異形の力を完全に制御可能にした。

元来の正義感や優しさはいつの日か消え去り、冷酷で無慈悲な性格へとなっていった。

日の光を浴びて生きることを許されず、闇の世界で過ごすうち、混血種と呼ばれる親友と同じ境遇を持った若者達に慕われるようになり、やがて人々を恐怖へと陥れる存在、闇ギルド・混沌(カオス)反逆者(トレイター)を結成した。




「こうして誕生したのがこの俺、トレイギアだ」


トレイギアは語り終え、ゆっくりと瞼を閉じた。

彼の目的は自分達を理解しようとしない愚かな人間や純血種を力によって屈服させ、親友の命を奪ったこの世界に復讐することだった。


「人間をやめてわかったことがある……人は自分と少しでも違う生き物を恐れ、排除しようとする……弱い者を見下して暴力でなぶり、強い者には媚びへつらうか罠に陥れようとする……救いようがなさすぎるではないか !」


トレイギアは怒りの混じった笑い声を上げた。


「トレイギアを殺した連中も決して悪では無かった……無知で臆病なだけだった……だからこそ質が悪い! 理解しようとすれば、あいつが死ぬことも無かったんだ !」


冷静なトレイギアは親友との日々を思い出しながら柄にもなく感情を荒げた。


「……ま、気持ちは分からんでもねえがな……」

「何だと ?」

「俺も昔人間に迫害されたことはあるし、今回もあれだけ必死こいて戦った俺達を住民達はあっさりと見捨て、売ろうとしやがった……」


ヴェルザードは悲しげな表情を浮かべながら自嘲した。


「それならば何故人間を恨まない、何故俺達と敵対する……」

「勝手なことばっか言うなよ……俺だって人間は嫌いだ、今もな……だけど、嫌いだからってわざわざ傷つけようとは思わねえ……それだけだ」


ヴェルザードは微かに笑みを浮かべながら答えた。


「ふん……境遇は同じでも理解に苦しむな……まあ良い……俺はこの世界に拒まれた混血種達の思いを背負っている……野望を果たすまでは倒れるわけにはいかない……」


トレイギアは拳を握り、力み始めた。


「まだ何か隠してるのか…… ?」

「亡き友が残してくれた力の全てを引き出すのさ……はぁぁぁぁぁぁ !」


力強い雄叫びを上げるトレイギア。

全身に禍々しい紫のスパークを走らせ、邪悪なオーラを燃え上がらせた。

その影響は強く、大気がピリピリとうねり、気候は荒れ狂う程だった。


「はあっ !」


トレイギアの肉体に大きな変化が起こった。

げっそりと肉を削ぎ落とし、病的なまでにスリムな体型になり、禍々しい骸骨のような鎧に覆われ、貫禄のある異形の姿へとなった。

トレイギアの中に眠る混血種の力を全て引き出したフルパワー形態だ。


「はぁ……はぁ……」


トレイギアは呼吸を荒げながらヴェルザードを睨み付けた。

この姿を見て無事だった者は皆無……。

まさしく地獄へと誘う死神そのものだった。


「亡き友トレイギアよ……お前の力、貸してもらうぞ !」


トレイギアはそう叫ぶとヴェルザードに向かって豹のように猛然と襲い掛かった。


To Be Continued

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