第二百九十四話・新生魔王軍襲来
竜の里に着いてから一晩経ち、夜明けが訪れた。
穏やかな朝の光が里中を包み込む。
ヴェルザードは落ち着かなかったのか、珍しく早起きし、外に出ると朝の日差しを体一杯に浴びていた。
「静かだな……昨日までの出来事が嘘みてえだ…… 」
感傷に浸っている所へ、ヒュウもやって来た。
「ヒュウ…… !」
「覚えてるかヴェル……前にお前を里に連れていこうとした時のことを」
ヒュウは過去の事を思い出しながら少し恥ずかしそうに言った。
「ああ、竜族が戦争を仕掛けるからその前に俺だけを連れていこうとしたやつだろ」
ヴェルザードはクスッと笑いながら答えた。
かつてヒュウはヴェルザードを誘い、竜の里へ連れていこうとした。
だがヴェルザードは断り、ヒュウは力ずくで連れ出そうと実力行使に出て両者は激闘を繰り広げた。
「まさかお前を里に連れて来る日が来るとはな」
「人生何が起こるか分からねえぜ」
子供の頃と変わらぬ親友同士の他愛ないい会話……。
二人は昇る朝日を眺めながら笑い合った。
やがてヒュウの顔から笑顔が消え、寂しさ表情に変わった。
「……ヴェル、辛いだろ……人間に迫害されて……結局あいつらは昔から何も変わらねえ……」
「そうでもないさ、今の俺は1人じゃねえ、それにろくでもない人間にも、良い奴はいる」
ヴェルザードは思いの外晴れやかに言った。
ヒュウが思ってる以上にヴェルザードは吹っ切れていた。
「あの人間の女か……お前の趣味もわかんねえな」
「そ、そういう意味じゃねえし…… !」
ヒュウは少し安堵し、ヴェルザードをからかった。
ヴェルザードは頬を赤らめながら否定した。
「なあ、ヴェルザード……魔王軍との戦いが終わったら、ここに住んでも良いんだぜ」
ヒュウは唐突に話を切り出した。
あの頃とは違い、住民達から迫害を受けたヴェルザードを思っての提案だ。
ヴェルザードは少し考えた後、フッと笑った。
「有難い話だが、気持ちだけ受け取っておくよ」
「おいおい、今度はお前だけじゃねえ、お前の仲間全員を」
「俺達大所帯なんだから、一気に里に来たら困るだろ、それに他にもメンバーはいるし」
これ以上彼等に甘えるわけにはいかない。
ヴェルザードの決意が固いことを知り、ヒュウはこれ以上は言わなかった。
「分かったよ、強制はしないぜ……」
残念そうにしながらも何処かホッとした様子だった。
昔のヴェルザードは危なっかしかった。
でも今は違う、ヴェルザード自身も強くなったし、何より仲間がいる。
「だが困ったことがあればいつでも頼ってくれよ、俺は何があってもお前の味方だ」
「ああ、宜しく頼むぜ、親友」
ヴェルザードとヒュウは互いに拳をコツンと合わせた。
その瞬間、バサバサと小型の竜達が慌ただしく翼を羽ばたかせ、二人の目の前を飛び去っていった。
まるで何かから逃げるように……。
「な、何だ !?」
「様子かおかしいのは確かのようだぜ…… !」
動物達が異常行動を取るのは災いの前触れだと言われている。
竜の里に何か異変が起ころうとしていた。
チュドオオオオン
突然爆発音が里中に響き渡った。
里を守っていた外壁が何者かに破壊された。
このままでは魔物達が里に侵入してしまう。
「おい、大丈夫か !」
爆発音に叩き起こされ、リコを始め、多くの竜族の戦士達が駆けつけた。
勿論、無限の結束もだ。
「ヒュウさん、何があったんだ !」
「分からねえ、小型竜達が荒れ狂ったと思ったら、突然爆発が…… !」
外にいたヒュウとヴェルザードはリコ達に状況を説明した。
「リト……何が起こったか分かりますか…… ?」
周囲はただならぬ事態を前にざわめき、緊張感に包まれた。
私はランプの中のリトに問い掛けてみた。
「恐らく、何者かが外壁を破壊したのでしょう、我々が竜の里にいることを知って、乗り込むつもりなんですよ」
「そんな…… !」
里を囲む外壁は特殊な鉱石で造られている。
魔獣でも簡単に砕くことは出来ない。
それが出来るのは恐らく、魔王軍しかいない……。
「おい見ろ !」
リコが崩れた外壁に向かって指を差した。
高級そうな鎧に身を固め、武器を携えた魔族達が続々と里へと侵入して来た。
「外壁を破壊したのはお前らだな !」
竜族の1人が声を叫ぶ。
魔族達は竜族相手に臆することなく、堂々としながら不敵な笑みを浮かべていた。
「こいつらが噂に聞く新生魔王軍か……」
ゴルゴが冷静になりながら呟く。
一度は壊滅した魔王軍だが、短期間のうちにここまで軍としての力を取り戻していたことに私は驚きを隠せなかった。
「まさか里ごと襲撃することになるとはな、ミーデも大胆なやつだ」
1人の小柄な少年が魔族達の間を通りながら現れた。
鋭い目付きをし、他の魔族と異質で冷酷な雰囲気を漂わせていた。
あの人はただ者じゃない……長い間戦いに身を投じてきた私は直感で理解した。
「全くだ、だが滅多な機会ではないぞ、希少な竜族をこの手で狩れるのだからな」
少年の隣ににもう1人の男が並び立った。
身長は少年の数倍はある巨漢で筋肉質なスキンヘッドの男……。
耳の形状と肌の色を見るに、ゴブリン族のようだ。
コロナとクロスはこのゴブリン族の男に見覚えがあるらしく、身震いしていた。
そして私も、彼と会ったことがある……。
ゴブリン達を束ねる王、ゴブリンロードだ。
「あいつ……生きてたのか……」
「しかも暴走してない……」
以前洞窟で戦った時は自我を失い、獣の如く大暴れしていたが、グレン達の奮闘により倒された。
かのように思えたが、どうやら生き延びて自我を取り戻したようだ。
その証拠に今のゴブリンロードは知的で落ち着いていた。
これが本性だとでも言うのか……。
「ククク、竜の里の皆さん、そして市民達に追われて里の者達に匿われている愚かな騎士団の皆さん、ご機嫌よう」
魔族達の列の奥から不気味な笑い声が聞こえた。
男は列の最後尾の向こうで王様のようにふんぞり返っていた。
現魔王軍を指揮し、私と深い因縁を持つ男……ミーデだ。
ミーデは魔族達の列の中を通り、私達の前に姿を現した。
「……この時を待ちわびていましたよ……」
To Be Continued




