第二百八十二話・リヴァイアサン
泉から姿を現した巨大な青い竜。
そこにはかつて美しい凛とした美少女としての面影は無かった。
青い竜は水面から首だけを露にしていた。
全身を青い鱗に覆われ、蛇のように長い首を持ち、ワニのような凶悪な顔付きをしていた。
「船長……! そのお姿は…… !」
シーザーが取り乱した様子で青い竜の元へ駆け寄った。
「おい、どういうことだ !」
「あの人は船長だ……恐らく、海の怪物リヴァイアサンをカードから召喚し、自らの体を取り込ませたのだろう…… !」
シーザーの重苦しい表情が事態の深刻さを物語っていた。
リヴァイアサン……魔王レヴィアタンと対をなす強大な力を持った海の魔物だ。
レヴィアタンと違うのは理性を持たず、本能の赴くままに破壊をする凶暴な化け物ということだ。
「う……絶体絶命ですわ…… !」
「マルクやルーシーも戦える状態じゃないですし……」
「ここは一旦逃げるしかないゾ」
目の前のリヴァイアサンという巨大な竜を前にレヴィ達はすっかり怖じ気づき、戦意を失いかけていた。
「このままでは船長はリヴァイアサンの力に自我を呑み込まれてしまう…… !」
そう言ったシーザーの拳が震えているのが分かった。
「お前、船長を救いたいのか ?」
「当たり前だ !」
ラゴンの問いかけに対し、シーザーは強い口調で答えた。
「あの人は俺に居場所をくれた……俺にとって恩人なんだ……見捨てることは出来ない、お前には分からないだろうがな」
シーザーは船長への思いを吐露した。
「成る程……無理矢理海賊にさせられたってわけじゃねえんだな……」
ラゴンはシーザーの肩をポンと叩いた。
「だったら一緒に船長助けようぜ !」
「ラゴン……」
ラゴンとシーザーは互いに頷き、リヴァイアサンに目を向けた。
「マルク、ルーシー……お前達は休んでいろ……メラちゃん、メリッサさん、この二人を頼む、もう一度向こうへ隠れていてくれ」
「マキリさん……大丈夫なんですか ?」
マキリは動けないマルクとルーシーをメラ達に託し、避難を促した。
「少しは兄貴らしいことしねえとな……あの怪物は俺が止める……少しの間だったけど海賊だったしな !」
マキリはそう言うと戦闘体勢に入り、地を繰り上げ、リヴァイアサンに向かって走り出した。
メラとメリッサは倒れているマルクとルーシーを連れて後方へ避難した。
「マルクの兄貴……ルーシー姉ちゃん……ゆっくり休んでくれ……後は俺がやる !」
グレンは神器を握り、覚悟を決めるとマキリに続いてリヴァイアサンに向かっていった。
「俺達も行くぜ !」
「ああ !」
ラゴンとシーザーも先陣を切ったマキリに続き、リヴァイアサンに突撃した。
リヴァイアサンは耳が引き裂かれる程の咆哮を上げ、威嚇をする。
「レヴィさん、俺らはどうするんですか ?」
ライナーは不安そうにしながらレヴィに判断を委ねた。
「こ、こうなったらヤケですわ !私達であの竜の動きを止めますわよ !」
「「おー !」」
悪魔三銃士も一度は狼狽えたもののリヴァイアサンを止める為に勇気を振り絞りサポート役を果たす為に立ち上がった。
マキリ、グレン、ラゴン、シーザー、悪魔三銃士……種族も立場もバラバラな彼らが協力し、巨大な敵に果敢に挑む。
今度こそ最後の戦いになるだろう。
「うおおおおお !」
「ぬぁぁぁぁぁぁ !」
グレンとマキリはリヴァイアサンに接近し、高くジャンプすると雷を帯びた剣と剣のように鋭く研ぎ澄まされたヒレを振り上げ、リヴァイアサンの頭部を素早く切りつける。
刃が当たる度に金属音が鳴り、火花が飛び散った。
「竜王火炎 !」
「海竜水流 !」
遠距離からラゴンとシーザーによる、炎と水のブレスが放たれ、マキリ達を援護する。
攻撃が命中し、爆煙に包まれながらリヴァイアサンは思わずのけ反り、苦しそうに呻き声を上げた。
微々たるものだが確実にダメージが入っているようだ。
シュルルルルル
毒が塗りたくられたレヴィの鞭とライナーの包帯がリヴァイアサンの首の周りに巻き付いた。
苦しそうにしながら拘束から逃れようと暴れるリヴァイアサン。
だが鞭に塗られた毒が身体中に染み込み、体の自由を奪う。
「効いてますわ……」
「次はオイラだゾ !」
サイゴはその辺に転がっていた自分の身長の倍はある巨大な岩を持ち上げ、リヴァイアサンに向けて思い切り投げ飛ばした。
数十トンはある巨大な岩がリヴァイアサンの頭部に直撃し、悲鳴を上げながら吐血した。
大量の血で泉は赤く染まっていく。。
「よし、この調子だぜ !」
「一気に畳み掛けるぞ !」
大人数による絶え間なく繰り出される怒濤の攻撃により、リヴァイアサンは反撃する暇すら与えられなかった。
マキリは弟と同じように腰を低く落とし、両腕のヒレを擦らせ、三日月状の水の刃を放った。
「鬼落雷 !」
グレンは剣を握った腕を天へと突き上げ、
空を引き裂くような勢いでリヴァイアサンの頭上に落雷を直撃させた。
ズバババババ
放たれた水の刃により硬い鱗を切り裂かれ、落雷で全身が感電し、リヴァイアサンは激痛に喘ぎ、大ダメージを負った。
やがてリヴァイアサンはガクッと力なく首が垂れた。
「よし !どんなもんだ !」
勝ちを確信し、ガッツポーズを決めるグレン。
「いや……まだだ……」
だがシーザーは神妙な面持ちでリヴァイアサンの方を見つめた。
「船長の切り札は……そんなやわじゃない……何せ、魔王レヴィアタンと双璧をなす竜だからな……」
シーザーの予感は的中した。
リヴァイアサンは大きな瞼をかっ開くと再び起き上がった。
今まで無抵抗だったのは、虫けらを一掃する為の魔力をチャージしていたからだ。
「ちっ……やっぱり一筋縄ではいかないか」
グレンとマキリは息を切らしながらも構えを取った。
だがリヴァイアサンの様子が先程と違う。
シュウウウウウウウ
リヴァイアサンは巨大な口を見せつけるかのようにゆっくり開き、その歪に生え並んだ鋭い歯を剥き出しにした。
そして喉の奥から水を押し上げ、首をぐるんと捻りながら高出力の水のブレスを勢い良く放出し、その場にいる全員を薙ぎ払った。
「「「「ぐわぁぁぁぁぁぁぁ !!!」」」」
マキリ達は逃げる間もなくリヴァイアサンの放った水のブレスを喰らい、土煙を巻き上げながら呆気なく吹っ飛ばされた。
極限まで高められた魔力による水のブレスの威力は凄まじく、マキリを始め、この場にいる者のほぼ全てがたった一撃で戦闘不能にされた。
「なんて……化け……物……だ……」
「船……長……目を……覚まして……くだ……さい……」
巨大な竜を前に這いつくばるしかないマキリ達。
あまりにも絶望的な力の差を前に彼等は対抗手段を失ってしまった……。
「う……皆……」
「マルク…… !」
そんな中、岩盤に隠れていたマルクが意識を取り戻した。
To Be Continued




