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ランプを片手に異世界へ  作者: 烈斗
巨大魚幻獣(バハムート)の鎧(アーマー)
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第二百八十一話・水のベールを打ち破れ



魔海人海賊団を束ねる女……船長のエレイン。

彼女の種族は長寿で何千年も前からその姿が変わることなく存在している。

そう……魔王軍が栄えていたあの時代から……。


かつてエレインは七人の魔王の一人、嫉妬の罪を司る魔王レヴィアタンの忠実な側近だった。


レヴィアタン軍は領土拡大の為、半魚人(マーマン)達と争いを繰り広げていた。

だが英雄メイツが巨大魚幻獣(バハムート)(アーマー)を身に纏い、形成が逆転した。

メイツの渾身の一太刀を浴び、深傷を負わされたレヴィアタンは撤退を余儀なくされた。


その怪我が原因で本調子が取り戻せぬままリトと勇者ジャスミンによって他の魔王共々倒され、永久に封印されてしまった。

残されたエレインは部下を引き連れ、レヴィアタン軍を再興させるべく海賊船を出航させ、途方もない旅に出た。

数千年間、果てしない大海原を渡り続け、大勢のならず者達をかき集めたが肝心のレヴィアタン復活の手立ては見つからなかった。

代わりにエレインは古代亀の島を発見し、そこで忌々しい英雄メイツが着用していたとされる巨大魚幻獣(バハムート)(アーマー)が封印されていることを知る。

主の復活を諦め、エレインは自分自身がレヴィアタンの遺志を継ぐと決めた。

その為に巨大魚幻獣(バハムート)(アーマー)の秘めたりし強大な力を求めているのだ。




「マジかよ……あの女……そんな昔から……」


シーザーの話を聞き、ラゴンは驚きを隠せなかった。

魔海人海賊団は魔王軍と深い繋がりがあったのだ。


「それに見ろ、船長のあの強さを……あいつらでは決して船長には勝てない」


そう言いながらシーザーは泉の方に目をやった。




泉の付近ではエレインがたった一人でマルク達を手玉に取っていた。

車椅子から動くまでもなく多人数を翻弄している。

伊達に数千年も海を渡っていない。


「はぁ……はぁ……」

「じり貧だね……こりゃ…… 」


エレインを包む水のベールは如何なる攻撃をも防ぐ為、マルク達は魔力を消耗する一方だった。


「アッハッハ、楽勝ねぇ」


余裕綽々な様子で高笑いをするエレイン。

マルク達は拳を握り、悔しさを露にした。


「ちきしょお、人魚(マーメイド)の癖になんて化け物なんだ…… !」

人魚(マーメイド)……? 心外ね」


突然エレインの顔から笑みが消え、不機嫌になっていった。


「私を下等な種族と一緒にしないで!…… そうだ、良い機会だから見せてあげるわ、私の真の力をね」


エレインは狂気に満ちた表情になると咳払いをし、唐突に歌を歌い始めた。

この世のものとは思えない美しい音色……のはずだがマルク達は一斉に耳を塞ぎ、苦痛に耐えられずのたうち回った。


「うわぁぁぁ !!!」

「苦しいぃぃぃぃ !」

「なんなんですのこれぇぇぇ !!!」


この場にいる全員、エレインの歌声を聴き、苦痛に顔を歪めながら絶叫した。

特にルーシーはエルフ族故に聴覚が優れており、それが仇となった。

人一倍耳が敏感なルーシーにとって想像を絶する地獄だったようで人が変わったように発狂し、目があらぬ方向を向き、涎を垂らしながら気を失った。


「る、ルーシー……! しっかりしろ !」

「元魔王軍幹部が何倒れてるんですの !」


マルクとレヴィが呼び掛けるも、ルーシーは目を覚ますことは無かった。


「うっ……気持ち悪い……何なんだ……あんなに美しい歌なのに……」

「まるで脳を直接切り刻まれるようなそんな感覚ね……」


幸いにも遠くで隠れていたマキリとメラは体調不良に陥っただけでそこまでダメージは無かった。

どうやらエレインの歌を聴いた者は脳に直接ダメージを受けてしまうようだ。


「まさか……彼女の種族は……セイレーン !」


セイレーン……半人半魚の怪物で美しい歌声で船乗りを惑わせ、遭難させると言われている。


「私の美しい歌を聴きながらあの世に逝きなさい」


気持ち良さそうに歌い続けるエレイン。

最早洞窟内は彼女一人のステージだ。

観客を全員地獄に引きずり込む悪夢のコンサート……。


「くそったれ……その耳障りな歌、やめさせてやらぁ…… !」


マルクだけは激痛に耐えながら、何とか根性で立ち上がった。


「マルク、無茶だ! それ以上無理をすれば体が持たねえ !」


今にも倒れそうなマルクを心配し、マキリは遠くから叫んだ。


「兄貴……心配すんな……こんなもん、いくらでも乗り越えてきた……うおおおおお !!!」


マルクは獣のように雄叫びを上げ、がむしゃらに突っ走り、エレインに至近距離まで踏み込み、間合いを詰めることに成功した。


(この男……私の歌を聴きながら突っ込んでくるなんて……なんて無謀な…… !)


エレインは内心驚きはしたが構わず歌い続けた。

彼女を守るベールがある限り、誰も彼女に手を出すことはできない。


魚人無限連斬(フィッシャーインフィニティブレイド) !!!」


ズバッ ズバッ ズバババッ


マルクは限界まで加速し、目にも止まらぬ速さで鋭利なヒレを振るい、連撃を叩き込んだ。

だが彼女を覆う見えないバリアーがマルクのヒレの攻撃を阻む。


(何なのこの男……何で平然と歌を聴かされながら攻撃が出来るの…… ?)


バリアーに守られながらもエレインの心に次第に焦りが見え始めた。

まるでゾンビのようにマルクは攻撃の手を緩めず、バリアーを切り続けた。


「マルクの兄貴……歌が平気なのか……」

「俺達なんて動くことも出来ないってのに……」


地べたに這いつくばり、一生懸命耳を塞ぎながらグレン達は疑問を抱いた。

いくら根性でもあの脳を破壊する程の特殊な音波を聴き続けながら活動するのは不可能だ。


「お前らの目は節穴だゾ、良く見るゾ」

「何なんすかその言い方は……って……ん ?」


サイゴはその巨大な単眼でマルクの方を見据えた。

彼は人一倍高い視力を持ち、遠くにいる小さな虫をも判別できる。


「あっ…… !」


マルクの耳の穴が小さな石で塞がれていた。


「あいつ……音を遮断していますよ…… !」

「考えましたわね……」


脳筋かと思われていたマルクの意外な秘策に感心するレヴィ。

だが完全に聴こえなくなったわけではない。

あくまで効果を半減したに過ぎない。


「ふん……どんな細工を施したのか知らないけど、いつまで持つかしらね !」


マルクの腕に限界がき始めた。

両腕は痛々しく赤く腫れ上がり、ヒレの刃もボロボロだ。


「それはこっちのセリフだぜ……てめえのバリアーがなぁ !」


いつの間にかエレインを守るバリアーに微かにヒビが入ってるのが見えた。

マルクは闇雲に切り続けていたわけではない。

雨垂れのような小さな雫でも長い時間をなけて落とし続ければ石にも穴が開くようにひたすらに一点集中してバリアーを切り刻んでいたのだ。


(無駄よ…… ! アタシの水防護輪(アクアプロテクションリング)が破られるはずがない !)


マルクの凄まじい執念に怖じ気づき、余裕が消えたエレインは不安をかき消すように更に声を張り上げて熱唱した。


「ぬおらぁぁぁぁぁぁ !!!」


パリィィィン


マルクは全身に力を込め、最後の一太刀を浴びせた。

その瞬間、遂にエレインのバリアーはガラスのように音を立てて砕け散った。


「そんな…… !」


エレインは驚きのあまり、咄嗟に口を抑え、歌うことをやめてしまった。


「一矢報いたらぁぁぁぁぁ !」


ドゴォッ


マルクは石のように固く拳を握り、エレインの顔面に強烈なパンチを叩き込んだ。


「ぶっ !?」


鼻から大量の血を流し、顔が醜く歪みながらエレインはそのまま勢いで泉の方へ殴り飛ばされ、ブクブクと泡を立てながら沈んでいった。


「はぁ……はぁ……」


ドサッ


ヒレがボロボロになるまでバリアーを切り続けたマルクは限界を迎え、その場で崩れ落ちた。


「マルク !」


後ろの岩場で隠れていたマキリとメラが急いでマルクの元へ駆け寄り、抱き起こした。


「兄貴……」


マルクは二人の顔を見上げ、不器用に微笑んだ。

メラとマキリは何も言えず、ただ無言で微笑み返した。


「船長エレインも倒れて、海賊団は壊滅だな !」


マルク達の戦いを見届け、胡座をかきながらラゴンはシーザーに語りかけた。


「いや、まだだ」

「え ?」


だがシーザーは深刻な面持ちで泉を見つめた。


「船長がそう簡単にやられるはずがない……あの人のことだ……切り札を隠しているはずだ……」

「切り札…… ?」


その瞬間、ドボォォォンと泉の中心に巨大な穴が開き、勢い良く水飛沫がシャワーのように舞った。


「何だ…… !?」


休む間もなく全員は警戒体勢に入った。

ピリピリとした緊張感が再び洞窟内全体を包み込む。

やがて泉の水面に巨大な影が浮かび上がった。

水飛沫を上げながら水面からゆっくりと顔を出し、規格外の長い首を露にした。


グシャァァァァァァ


現れたのはエレイン……ではなく、濃い青色の鱗に覆われた首長竜のような禍々しい巨大な竜だった。

洞窟中に響く程の咆哮を上げると涎を垂らし、正気ではない凶暴な目付きでマルク達を見下ろした。


「船長……まさかあの禁忌のカードを使われたのですね…… !」


To Be Continued

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