第二百七十九話・ラゴンvsシーザー
シーザーは孤児だった。
物心ついた時から親はいなかった。
浜辺で打ち捨てられていた所をラゴラスに拾われ、竜の里で育てられることになった。
里には他の竜族達が居たが、孤独だったシーザーは彼らに馴染めなかった。
気を許すことが出来ず、自分で壁を作ってしまうのだ。
そんなシーザーだが唯一心を許せる親友が出来た。自分を救ってくれた恩人の息子、ラゴンだ。
だが、どれだけ経っても心の何処かに埋まらない寂しさを感じていた。
どの竜族にも、血の繋がった家族がいる。
でも自分にはいない。
それが羨ましかった。
ラゴラス村長も結局は自分の息子が優先だった。
自分を見てほしい、認めてほしいとシーザーは必死に修行し、強くなった。
だがラゴンには後一歩及ばなかった。
一度も勝てたことが無い。
他の仲間も皆ラゴンを称賛する。
やがてシーザーは内に秘めた劣等感を肥大化させていった。
「はっ !」
「うおりゃ !」
時は現代へと移る。
ラゴンとシーザーは洞窟の奥地で激闘を繰り広げていた。
鋭い爪を振り下ろし、互いの皮膚を傷付けた。
切り裂かれる度に硬い鱗が剥がれ、血と汗と共に宙を舞った。
「どうした……副船長なんて大層な座につきながら、こんなもんかよ !」
ラゴンは勢い良く尻を向け、鉄塔のように頑丈な尻尾を振り回した。
シーザーもそれに対抗し、同じく尻尾を大きく振り上げる。
ズシィィンッ
ハンマーのように重い二つの尻尾がぶつかり、振動と共に痛みが互いの全身に伝わってくる。
「パワーは俺の方が上だぜ !」
「ほざくな !」
ラゴンとシーザーは一旦距離を取った。
「はぁぁぁぁ !!!」
シーザーはナイフのように鋭い牙が生え並んだ口から強力な水の塊を何発も放った。
ラゴンは大きな翼を広げると広い洞窟の中を縦横無尽に飛び回り、水の弾丸を避け続けた。
だが後少しという所で一発の水の弾丸が直撃し、打ち落とされてしまった。
「ぐわっ !」
勢い良く落下し、地面に叩き付けられるラゴン。
仰向けの状態から起き上がろうとするが急かさずシーザーが馬乗りになり、ラゴンの動きを封じた。
「お前とは実力の差がつきすぎてしまったようだな !」
ドガッ ドガッ ドガッ ドガッ
馬乗りの状態でシーザーは無抵抗のラゴンの顔面を一方的に殴り続けた。
殴る度にシーザーの拳に赤い液体が付着した。
「ずっとお前をこの手で倒したかった……夢が叶いそうで嬉しいぞ !」
シーザーは手を止めることなく、執念深く拳を振り下ろし続けた。
ガシッ
ラゴンは何発かもらってから、顔面に直撃する寸前でシーザーの腕を掴んだ。
「うっ…… !」
「流石は何年も海賊やってただけあるな……昔よりも全然強いぜ……」
鼻血が垂れ、顔面が赤く腫れ上がりながらラゴンはニヤリと笑い、足でシーザーを蹴り飛ばした。
シーザーは勢い良く吹っ飛ばされ、そのまま宙を舞い、地面に叩き落とされた。
「がはっ !?」
ラゴンは顔についた血を拳で拭い、ゆらりと立ち上がった。
「だがな、勝つのは俺だ! 」
ヒビが入る程大地を力強く踏み締め、腰を落とし、翼を大きく広げながらラゴンは大技を放つ予備動作を始めた。
ラゴンの体温が急激に上昇し、マグマのように燃え上がっていった。
「ふん……まだ思い違いをしているようだな……」
シーザーもゆっくりと立ち上がった。
その顔はどこか嬉しそうだった。
深く息を吸い込むと全身に力を込め、ラゴンと同じように技を発動させようとした。
サファイアのように青白く煌めいたオーラが身を包み、全身が青く発光した。
「竜人火炎放射 !」
「海竜水激砲 !」
チュドドドド
岩をも溶かす究極の炎と大地すら抉る水のエネルギーが激しく衝突した。
二つの強大な力が互いを飲み込もうとしながら拮抗した。
だが徐々にシーザーの力が強まり、ラゴンの放った炎を押し返そうとしていった。
「くっ……ぐおわぁぁぁぁぁぁぁ !」
抵抗虚しく水のエネルギーに強引に押し返され、ラゴンはそのまま岩盤まで叩き付けられた。
背後の岩盤は衝撃に耐えられずに強大なクレーターが出来た。
ラゴンは激痛に耐えかね、目を血走らせながら血を吐き、その場で膝をついた。
「ハッハッハ! 遂にお前に勝ったぞ !」
シーザーはこれまでの冷静さが消え失せ、かつてのライバルに勝利した喜びを抑えきれず、高笑いをした。
「まだだぜ……俺は……これまで沢山の敵と戦ってきた……何度も敗北も経験した……その度に俺は強くなっていったんだ……」
シーザーの大技をまともに喰らい、全身を岩盤に打ち付け、立ってるのもやっとなはずにも関わらず、ラゴンは再び立ち上がった。
その様子を見て、シーザーからは喜びが消え、真顔に戻っていった。
「ラゴン……お前は竜族の中でも生粋の戦い好きだった……誰よりも強い奴との戦いを望んだ……俺のことなんて目も暮れずにな……」
シーザーは小さな声でブツブツ呟きながらラゴンに近づいていった。
「海賊に入ったのは……里という小さな世界に閉じ籠るのではなく、広い世界に出て刺激を受け、未知の強さを手に入れる為だ……強大魚幻獣の鎧にはそれだけの可能性が秘められている……」
シーザーはラゴンに至近距離まで近付くと、太刀のように伸びた爪を振り上げた。
「例え悪の道を歩むことになろうとも、俺はお前を倒し、究極の強さを手に入れる! 里の連中を見返してやるんだ !」
シーザーは喉が裂けんばかりに叫ぶと鬼気迫る表情でその鋭く研ぎ澄まされた爪を振り下ろした。
だがその瞬間、ラゴンの周囲で爆発が起こり、シーザーは突然の爆風に押し返され、吹っ飛ばされてしまった。
「何…… !?」
シーザーは大地を滑りながら何とか踏ん張った。
顔を見上げると、そこには驚くべき光景が映っていた。
To Be Continued




