第二百七十八話・竜族の確執
シーザーの正体……それは誇り高い竜族にして海の暴君、シーサーペントだった。
かつては竜の里にてラゴンと共に切磋琢磨した仲だったがある日を境に失踪し、行方知れずとなっていた。
その後海賊に入り、副船長にまで登り詰めたなど誰も予想出来なかった。
「これが……シーサーペント……ラゴンやメリッサと同じ、竜族だと……」
一同はシーザーの放つ圧倒的な威圧感を前に震え上がった。
今まで戦った幹部達とは桁が違うと……。
「上等だ、やってやるぜ !」
マルクはさっき蹴られた痛みを堪えながら立ち上がり、腰を低く落として踏ん張りながら口を大きく開いた。
「魚人水砲 !」
マルクは強烈な水のブレスを吐き、シーザーに浴びせようとした。
「竜巻激槍 !」
「鬼電磁砲 !」
「猛毒波ですわ !」
マルクに続き、ルーシー、グレン、レヴィも遠距離からの総攻撃を仕掛けた。
水、風、雷、毒……混ざり合った複数の属性がシーザーに集中砲火を浴びせる。
「やったか…… !?」
だが、シーザーは微動だにせず、全ての攻撃を体全体で受けきった。
掠り傷一つもつかずに……。
「マジかよ…… !」
シーサーペント……硬い竜の鱗が鎧となり、如何なる攻撃をも防いだのだ。
一同は唖然とした。
「こんなものか……心底がっかりだな」
シーザーは退屈そうに服についた埃を払った。
「うふふ……誰もシーザーには敵わないわよ、このアタシが直々にスカウトしたんだもの、さーて、鎧を我が物とする為、儀式を再開するわよ」
クスクスと子供のように嘲笑いながらエレインは鎧の方を見つめ、儀式を始めた。
「クソ……こいつに構ってる暇はねえのに…… !」
「俺がやる」
皆の心が折れかける中、ラゴンが名乗りを上げ、前に出た。
二人の竜族が睨み合い、ピリピリと空気が張り詰められた。
「ラゴン……」
「勝てるか勝てないかは問題じゃねえ、これは意地の問題だぜ」
普段の強敵を前にしたワクワク感と無邪気さは鳴りを潜め、ラゴンは真剣な表情でシーザーを見据えた。
「久しぶりだな、シーザー」
「相変わらず戦闘バカみたいだな、ラゴン」
ラゴンと対峙した瞬間、シーザーの雰囲気が少し変化した。
かつての親友を前にして懐かしさを感じたのか、態度が柔らかくなった。
「お前、突然里を抜けたと思ったら、こんな海賊なんかに入ったのかよ」
「里に籠ってると、目の前の世界がどんどん小さくなるんだ……旅の途中で船長と出会って、海賊になって、俺の世界は広がった……果てしない大海原のようにな」
悠々と今の境遇について語るシーザー。
「お前こそ噂で聞いたぞ、誇り高い竜族が人間共に屈し、正義の騎士になったってな、とんだ笑い話だぞ、大昔は人間を喰らう天災を形どった存在と畏れられていたってのに……」
シーザーは嘲笑いながらラゴンの現在を侮辱した。
「お陰で俺も世界が広がったぜ、敗北を糧に更に強くなり、様々な強敵達とも出会えた……俺はこれからもどんどん強くなるぜ」
「ふん、お前の戯れ言など聞く価値もない……昔からお前が気に食わなかった……どれだけ修行しても、常にお前に一歩先を越されてた……だが今は違う……海賊となった今の俺は、お前よりも強い !」
シーザーは魔力を高め、青いオーラで全身を包み込んだ。
その影響で洞窟全体が震動した。
「お前らは手を出すなよ、こいつは俺がやるからな、さっさとあの女を止めてこい !」
ラゴンはマルク達に指示を出した。
一人でシーザーに挑む気だ。
「待って! 俺達が束になっても敵わなかった奴をどうしてアンタ一人で倒せるんだよ !」
グレンが驚いた様子でラゴンに問い掛ける。
「強さとか理屈じゃねえんだ……記憶だ、こいつとの戦いは体が覚えてるんだ !」
ラゴンは気合いを入れると一瞬で人間態からドラゴニュートの姿に変貌した。
禍々しい二本の鋭い角に牙、鎧のような鱗に覆われた巨大な翼と逞しい尻尾……まさにシーサーペントと対をなす存在だった。
「良い機会だ……証明してやる……どちらが竜族最強なのかを !」
「俺が勝ったらくだらねえ海賊ごっこを辞めて爬虫の騎士団に入ってもらうからな !」
ドンッ
二人の男の因縁の戦いの火蓋が切って落とされた。
シーザーとラゴンは同時に地面を蹴り、動き出した。
剣のように黒く鋭い鉤爪を振り上げ、互いの皮膚を切り裂く。
激しく立ち回る度に土埃が舞い上がった。
「ラゴン……勝ってね……」
メリッサは二人の戦いを見つめ、ラゴンの勝利を信じながら胸に手を置いた。
「ここはラゴンに任せて、俺達はあの船長を止めるぞ !」
「分かった !」
メリッサとメラと手負いのマキリは巨大な岩石を盾にし、身を潜めた。
マルク、ルーシー、グレン、レヴィ、ライナー、サイゴは一直線に泉の方へ走り、エレインに向かっていった。
「全く……これじゃ儀式が終わらないわね、仕方ない、アタシ一人であいつら潰してあげる」
エレインはイライラを露にしながら儀式を中断した。
クルッと振り返り、邪悪な笑みを浮かべ、向かってくるマルク達をゴミを見るような冷ややかな目で見つめた。
彼女からは底知れぬ沼のような魔力が秘められていた。
「魚人水刃 !」
「鬼電刃 !」
「空刃 !」
「毒弾丸 !」
マルクの放つ両腕のヒレを擦り、水平に向けて放つ水の波状光線、グレンの電撃を纏った刃の衝撃波、ルーシーの空を裂く風の斬撃、レヴィの鞭から繰り出される毒の弾丸……
遠距離からの総攻撃がエレインに振りかかる。
「オラッ !オラも行くゾ !」
サイゴもだめ押しとばかりにその辺に転がっていた岩石をぶつける。
チュドドドド
容赦ない集中砲火を浴びるエレイン。
並の人間や魔族なら耐えられずに死滅するだろう……だがエレインはそうはならなかった。
「うふふ……さっきも見たわよ? 学習しない子達ね、一斉に攻撃しとけば良いなんて思ってない ?」
煙が晴れると、ピンピンしながら無傷のエレインが姿を現した。
流石は曲者揃いの海賊達を纏め上げる長というだけあってか、彼女の肢体には傷一つつかなかった。
「どうしてって顔してるわね、良いわ、カラクリを教えて上げる」
エレインはシーザーのような強固な鱗を持っていない。
ではどうやって一斉光線から彼女を守ったかと言うと、正体は彼女の全身を包む青く煌めく光の輪だった。
「水防護輪……この青い光の輪が神秘のベールを作り出し、鎧のような役割を果たすのよ」
得意気に語るエレイン。
マルク達は立ち止まり、ぐぬぬと拳を震わせることしか出来なかった。
「あのドラゴニュートも、アンタ達も、ここが墓場になるのよ」
憎たらしく口角をつり上げ、エレインは悪魔のような笑みを浮かべた。
To Be Continued




