第二百七十五話・三人揃えば文殊の知恵
ここは何処までも続く漆黒の闇に閉ざされた洞窟の内部……。
重苦しい湿気が漂い、水中に潜ったかのような圧迫感が洞窟内を覆う。
そんな洞窟の奥深くを伝説の秘宝を求め、歩き続ける者達がいた。
一人は美しい女性で下半身が水色に輝く魚の鱗に覆われた尾になっており、陸地での歩行が困難なのか、車椅子に乗っていた。
もう一人は凛々しい雰囲気の青年で彼女の従者らしく、彼女の座った車椅子を押しながら歩いていた。
「何やら外が騒がしいですね」
一人の美しい女の座った車椅子を押しなが青年が落ち着いた口調で呟いた。
「カリブが侵入者を追い払っているんだわ、それにしてもやかましいわね、もっと静かに戦ってほしいわ」
車椅子に乗った女性は振り返りながら呆れた様子で言った。
「船長、もうすぐたどり着きますよ、伝説の鎧が眠る在処に……」
青年は遠くを見据えながら言った。
「いよいよね、あたしの願いが成就のね」
女性は可愛らしく両手を重ね、無邪気に心を踊らせていた。
その二人の後を密かにつけている者もいた。
(船長エレインに副船長のシーザー……思わずついてきちまったけど、あいつらやっぱ伝説の鎧を探してるのか……)
岩場に上手く隠れていたのはカリブによって飛ばされたはずのマキリだった。
たまたま洞窟の入り口前に飛ばされたマキリは魔物から逃れる為に洞窟に入った。
そこで二人の存在に気が付き、尾行したのだ。
(ここなら安全かと思いきや、まさか船長達がいるとはな……他に海賊はいなさそうだし、見つからないように後をつけなきゃな……)
マキリは引き続き息を殺し、船長達の後を追った。
下手に逃げ回るより逆に後をつけた方が安全だと判断したからだ。
一方外ではマルク達がカリブを相手に大立ち回りをしていた。
三人はライナーの考えた作戦を実行した。
「捕縛網 !」
シュルルルルル
ライナーは全身に巻かれた包帯を蜘蛛の巣のように張り巡らせ、カリブの巨体をがんじがらめに拘束した。
「そんなもの、効かないねぇ !」
カリブは拘束をものともせず、更に上空に上昇してライナーごと引っ張ろうとした。
ライナー程度ではカリブとの力比べに勝てるわけもなく、あっさりとカリブに引っ張られ、足が地面を離れようとしていた。
「おっと !」
だが寸での所でサイゴがライナーを背後から離れないように羽交い締めにし、どっしりと足腰に力を込めて踏ん張った。
サイゴの怪力ならカリブを抑え込むのに充分だった。
「ありがとうございます !」
「一人より二人だゾ」
ライナーとサイゴは歯を食い縛り、綱引きのように彼女を逃さぬよう必死に引力に抵抗して足を踏みしめ、彼女の動きを封じた。
互いの力が拮抗し、カリブは空中で浮遊したままもがくが拘束から抜け出せなかった。
「くっ……こんなもの、長くは持たないよ !」
カリブは苛立ちを覚えながら上へ上へと二人ごと引っ張ろうとする。
徐々にカリブの全身に巻き付かれた包帯が破れかけてきた。
「終わりだよ !」
「いや……まだです !」
ライナーが叫ぶといつの間にか力を蓄えたマルクが物凄い勢いで走り込み、サイゴの頭を踏み台にし、高くジャンプした。
「半魚人 !?」
ライナーとサイゴがカリブを抑え込んでいる間、マルクは気を集中させ、精神を研ぎ澄ませていた。
青いオーラを身に纏い、マルクはカリブに急接近していった。
「一気に決めるぜ! 魚人断頭斬 !」
マルクは十字に組んだ両腕のヒレを擦らせ、巨大な三日月状の水の衝撃波を放った。
時間をかけて魔力を溜めた為、通常の「魚人水刃」の数倍の切れ味を誇る、マルクのとっておきだ。
ズバアッ
「や、やめ…… !」
巨大な三日月状の水刃により、カリブは真っ二つに全身を綺麗に切り裂かれた。
強靭な肉体を武器にし、物理攻撃や遠距離攻撃も通用しなかったが切断系の技には弱かったようだ。
断面から大量の血を噴き出させ、カリブは空中で大爆発を起こした。
「くう……ぐわっ !?」
爆発の余波に巻き込まれ、マルクは凄まじい勢いで吹っ飛ばされ、地面に叩き付けられそうになったが、ライナーが包帯を触手のように伸ばし、マルクを無事キャッチした。
「さ、サンキュー……助かったぜ……」
「それよりもあのおばさんはどうなったゾ ?死んだかゾ ?」
綺麗に真っ二つにされ、普通は生きてるはずがない。
だが煙が晴れるとそこにはグルグル回しながら仰向けに倒れているカリブの姿があった。
どういうわけか人間の姿に戻り、真っ二つどころか目立った外傷も無かった。
カリブディスの姿で受けた傷や怪我は人間態には
影響がないようだ。
「ふう……何とか倒したようだな……」
マルクは魔力を消耗し、息を切らしながら呟いた。
「と、取り敢えず危機は脱したようですね……」
「思ったより早く終わったゾ」
ライナーもサイゴもそっと胸を撫で下ろした。
何とか幹部の一人、カリブを撃破することは出来たが、まだ全てが終わったわけではない。
カリブは船長以外の人間が洞窟に入るのを防ぐ為、洞窟の外で見張りをやっていた。
恐らく洞窟の中には船長や副船長等と言った海賊のツートップが残っている。
そして洞窟の奥深くに伝説の鎧が眠っていると……。
「洞窟には入らねえ方が良いのか……」
「うーん……船長クラスとは戦いたくないですし……」
「多分洞窟の中に伝説の鎧がある気がするけど……」
ライナーもサイゴも洞窟に入るのに消極的だった。
確かに今の戦力で船長クラスと出くわすのは危険だ。
おまけにカリブとの戦闘で消耗しきっている。
わざわざ危険を冒す必要はない、伝説の鎧よりも仲間探しを優先すべき……。
「おーい !」
そう三人の中で纏まろうとしていた時、人の呼ぶ声が聞こえた。
「お前らは…… !」
To Be Continued




