第二百七十四話・渦潮の怪物
マルクは怒りに身を任せ、カリブに渾身の一撃を叩き込むも、頑丈な体を持つカリブには通用しなかった。
逆に大きな隙が生まれ、窮地に陥ってしまった。
兄を侮辱された怒りに身を任せたことが仇になったようだ。
「くっ……」
「アンタよく見たら美味しそうだねえ、今度は吸収したら飛ばさずに消化してやろうかねえ」
カリブは涎を垂らしながら邪悪に満ちた声色で囁いた。
「包帯捕獲 !」
次の瞬間、白い包帯が触手のように伸び、マルクの腰に巻き付いた。
ライナーが強く引っ張り、マルクを近くまで引き寄せた。
ギリギリの所でカリブから離れることに成功した。
「ふう……危なかったです……」
ほっとして額の汗を拭うライナー。
マルクは腰に巻きついた包帯を引きちぎった。
「助かったぜ、ミイラ男」
「ライナーですよ」
漫才のようなやり取りをしている二人を尻目にサイゴはカリブを睨み付けていた。
「ち、惜しいね……もう少しで半魚人を補食出来たものを……まあ良い……まずは徹底的に痛みつけてやろうじゃないか」
カリブは憎らしげに言うと空中で浮遊をし、三人を見下ろした。
「それにしても、半魚人達の他に二人も侵入者が増えるなんて驚きだねぇ、一体何なんだい ?」
「ぼ、僕らは伝説の鎧を探すよう命令されてここに来たんですよ !」
カリブの問いかけにライナーが答えた。
「成る程……つまりアンタらもあたしらの敵ってわけだねえ、じゃ、遠慮なく纏めて潰させてもらうよ !」
カリブは魔力を高め、戦闘体勢に入った。
「魚人水砲 !」
殺気を感じたマルクは口から高出力の水の衝撃波を放ち、カリブに直撃させた。
並大抵の敵は耐えきれず撃沈する程の威力を誇る。
だが、カリブはものともしない所か、逆に吸収してしまった。
「嘘でしょ !?」
「アタシに水は逆効果なんだよ !」
カリブは大きく息を吸い込み、腹がはち切れんばかりに膨張した。
「激渦流 !」
巨大な口を開き、水と竜巻が合わさった強力な渦潮が解き放たれ、マルク達を襲った。
「うおおおおお !」
サイゴは持ち前の怪力でその辺に生えていた巨大なヤシの木を引っこ抜き、迫り来る
渦潮に向かって振り下ろし、迎え撃った。
チュドオオオオン
ヤシの木は跡形もなく砕け散ったが、何とか三人は直撃を避けることが出来た。
「ほう……やるね……」
感心した様子のカリブ。
「ナイスですよサイゴ !」
「やるじゃねえか、助かったぜ !」
だがまだ安心するのは早かった。
休む間も無く、カリブは口から巨大な水の弾丸を何度も放ち、天から降り注がせた。
マルク達は散らばり、落ちてくる水の弾丸の中を逃げ回った。
「どうしたんだい! もう打つ手無しかい ?」
一切攻撃の手を緩めることなく容赦なく三人を追い詰めるカリブ。
彼女にとって三人は袋の中のネズミと同様……退屈しのぎのおもちゃに過ぎなかった。
「くそったれが……調子に乗りやがって…… !」
「でも俺ら、遠距離攻撃技なんて持ってないから近付くことも出来ないっすよ ?」
ライナーは弱気な発言をした。
カリブは宙に浮き、迂闊に近寄ることが出来ない。
更に強靭な皮膚はどんな物理攻撃も通用しないし、遠くに離れようとすると大口を開けて吸い込もうとしてくる……一切の隙のない厄介な強敵だ。
「水砲弾 !」
チュドオオオオン
特大の水の塊が大地に向かって投下された。
地面が抉れる程の威力を誇り、激しい爆発音が鳴り響いた。
直撃こそ避けたものの、衝撃で三人は吹っ飛ばされてしまった。
「「「うわぁぁぁぁぁ !!!」」」
マルクは近くの岩壁に思いきり叩き付けられた。
ライナーもサイゴもヤシの木に激突し、背中を強打した。
「くそ……なんて破壊力だ…… 」
マルクは痛みを堪えながらも何とか立ち上がり、歯軋りさせながら天を仰いだ。
巨大な球体は空中を悠々自適に浮遊し、虫けらを見るような目でこちらを見下ろす。
「あのババア……好き放題しやがって……」
「あんな化け物勝てるわけないですよ……! 逃げましょうよ !」
ライナーはすっかり弱気になり、今にも逃げたくて仕方がなかった。
「馬鹿野郎! 兄貴を馬鹿にされて、黙ってられるかよ! それにこいつを野放しにしとくとグレン達も危ないからな !」
マルクは頑なに逃げようとはしなかった。
「でもどうやって倒すんだゾ ?」
「それは……お前……あれだよ…… 」
サイゴに尋ねられて、マルクは何も思い付かず、答えることが出来なかった。
マルクは基本脳筋で策を練るより正面からぶつかるタイプなのだ。
「せめて奴の動きを止められたらな……」
マルクが呟くとライナーはふと妙案を思い付いた。
「動きを止める……それなら良い方法がありますよ !」
ライナーはサイゴとマルクにそっと耳打ちした。
「成る程……だけどお前ら本当に大丈夫か
?」
「100%とはいきませんが、やるしかないですよ」
「任せるゾ」
ライナーとサイゴは微かに笑みを浮かべ、互いの拳を合わせた。
二人にとって信頼の証だ。
「何を企んでるか知らんが、虫けらが今更作戦考えた所で無駄だよ !」
相変わらず上空という安全地帯で浮遊し、地上の虫けらを見下すカリブ。
マルク、ライナー、サイゴは天を仰ぎ、余裕の態度を崩さないカリブをキッと睨み付けた。
果たしてライナーの考えた作戦は上手く行くのか……。
To Be Continued




