第二百七十一話・酒乱のクラーケン
危険な魔物が滅多に入ることのないこの島で唯一安全なエリア、渓流にてルーシー達は一人の男と出くわした。
その男は下品な風貌で酒瓶を片手に持ち、鼻が折れ曲がる程の酒気を放っていた。
ルーシー達は男に対して嫌悪感を露にした。
「うっ……何このおっさん酒臭い……」
ルーシー達は中年男の周囲から放たれる酒臭い臭いに耐えかね、鼻を摘まんだ。
「船長の命令だぜ、悪く思うなよ? それにしても、良い女ばっかだなぁ、酒の肴には持ってこいだぜ」
男はニヤニヤ薄気味悪い笑みを浮かべながらルーシー達を舐め回すようにジロジロ見つめていた。
「この男、やらしい目で私達を見ていますわ !」
レヴィは腕で胸を隠しながら男を睨み付けた。
「あー……ごめん、オイラ幼女には興味ないんで」
「幼女じゃありませんわよ !」
男は突然真顔になって言った。
どうやら13歳未満は対象外らしく、レヴィを子供と判断した。
レヴィは実年齢に反して子供扱いされたことにモヤモヤしたまま悔しそうに拳を握った。
「ルーシー……」
「大丈夫、僕に任せて」
ルーシーはメラを後ろに下がらせ、刃を男に向けた。
「僕は無限の結束のルーシー、あんたは何て言うの ?」
ルーシーの呼び掛けに対して男は歯を剥き出しにしながら笑顔を浮かべた。
「オイラは「魔海人海賊団」のクライだぜ、お手柔らかに頼むぜ~」
クライは下卑た笑い声を上げながら酒瓶を放り捨て、腰に携えた剣を抜いた。
「さあ、始めようか」
ルーシーは川を渡りながら剣を振り上げ、クライに向かっていった。
「私も加勢致しますわよ !」
レヴィは棘々しく禍々しい色の鞭をとりだし、クライ目掛けて叩きつけた。
「よっ! ほっ !」
クライは酔っぱらいとは思えない程素早い身のこなしと鋭い太刀筋でルーシーとレヴィの二人がかりの攻撃を軽くいなした。
「こいつ……酔っぱらいのくせに…… !」
ルーシーは歯軋りし、苛立ちを露にした。
「へっへっ、可愛い娘ちゃん達と剣術勝負、悪くないねぇ~」
クライはその下品な風貌に反して達人レベルの剣士だった。
余裕の態度を見せ、二人を追い込んでいく。
「ふん、僕もまだまだ本気じゃないけどね !」
「私もですわ !」
ルーシーは呼吸を整えると全身に風を纏い、魔力を解放した。
レヴィも禍々しい紫色のオーラを纏い始めた。
「元魔王軍と」
「現魔王軍の力、見せて差し上げますわよ !」
キィンッ シュピィゥン
ルーシーとレヴィは身体能力を向上させ、先程とは比べ物にならないくらい加速し、クライに斬撃を叩き込んだ。
「おっ……動きが速くなったなぁ……」
形成は逆転し、今度はクライの方が徐々に追い込まれていった。
被弾こそしないものの、二人の攻撃を剣で防ぐので手一杯で、一歩ずつ後退りしていった。
「う……流石にヤバいねぇ」
気がつけばクライは背後の滝に背中が当たるギリギリまで追い詰められていた。
「神月疾風 !」
「毒鞭 !」
ルーシーとレヴィの渾身の一撃が炸裂しようとした瞬間……。
「待て !」
クライは両手を前に突き出して叫び、二人を制止させた。
あまりの気迫にルーシーとレヴィは思わずその手を止めてしまった。
「なんだよ、命乞いのつもりか ?」
「情けないですわね」
ルーシーとレヴィは突然のクライの行為を鼻で笑った。
「そう言っていられるのも今のうちだ……後ろを見ろ !」
クライが指差す方向を見ると、そこには烏賊の足のような長く巨大な触手に捕らわれたメラの姿があった。
「うっ……くっ……」
「メラちゃん !」
ルーシーはあられもないメラの姿を目の当たりにし、思わず叫んだ。
メラは全身をぬめぬめした触手に強く締め付けられ、苦しそうに呻いていた。
「へっへっへ、動けばこの娘の命の保証はないぜ ?」
下衆な笑みを浮かべるクライ。
実はルーシーとレヴィと戦っている最中に水に浸かっていた下半身を利用し、密かに触手を泳がせ、後方で見守っていたメラを後ろから捕らえたのだ。
「オイラの種族は「クラーケン」! オイラの下半身は十本の烏賊の足なんだぜ !」
「くっ……」
ルーシーはメラを人質に取られ、悔しそうに剣を鞘に納めた。
「ルーシー……ダメよ…… !」
「そうですわ、敵を前に武器を捨てるなんて、相手の思う壺ですわよ !」
二人が止める間もなく、ルーシーは剣を鞘に納め、戦闘体勢を解いた。
「解ってるじゃあねえか…… !」
シュルルルルル
「きゃっ」「あっ…… !」
クライの無数の足がルーシーとレヴィを拘束した。
全身に触手が絡み付き、完全に身動きが取れなくなった。
「ハッハッハ!壮観だぜ~ !」
上機嫌に高笑いしながら酒瓶を拾い、酒を浴びるように飲むクライ。
ルーシー、レヴィは悔しそうにクライを睨み付けた。
「そんな怖い顔したってちーっとも怖くないぜ~? 暫くはこのまま楽しもうかな~」
触手に縛られ、どれだけ力を入れても抜け出すことが出来ない。
クラーケンの触手は捕らえた獲物を簡単に逃さない凄まじい怪力を誇る。
グググ
「あっ…… !」
「うぅ……」
触手による締め付けは時間が経つ度に強まり、ルーシー達を苦しめていた。
顔を真っ赤にしながら苦痛に顔を歪めていく。
「うっ……私のせいで……足を引っ張っちゃった……何とかしないと……」
罪悪感に苛まれながらも、メラはこの状況を打破しようと思考を張り巡らせた。
幸いにもクライは勝利を確信し、油断しきっている。
果たしてメラはクライの触手から脱出することが出来るのか……。
To Be Continued




