第二十五話・湖の支配者
私達は魔獣との戦いに備える為、ヴィオ村長の家でゆっくり羽を伸ばしていた。
「さて、魔獣討伐に向けて、作戦会議を行いたいのだが……何かあるか ?」
エルサが皆に問いかける。
「その……魔獣って、水属性なんだろ ?」
ヴェルザードは何故か苦い顔をしながら問い掛けた。
「そのはずだが、何か問題でも ?」
「いや……何でもない……」
ヴェルザードは何かを隠してるようだった。
「私は炎属性ですからね、相性が悪いですよ」
「リトでも厳しいんですか ?」
「いえいえ、私の方が格上ですからそれはあり得ません。ただ圧勝は難しいでしょうなぁ。気持ちよく無双したかったんですが……」
「そ、そうですか……」
リトにとっては余裕だったようで、私は苦笑した。
「あの……ヴィオ村長、水の魔獣について、何か知ってることはありませんか ?」
私はヴィオ村長に尋ねた。
「うーむ……私もメイツの末裔とはいえ、魔獣の姿は見たこともありませんからなぁ……言い伝えでは巨大な魚のような姿をしているとか……」
村長は首をかしげた。
その時、ドタドタとメラが血相を変えて戻ってきた。
「大変 !!!マルクが !」
「マルクに何かあったのか !?」
「一人で魔獣を倒しに湖に行っちゃったの…… !あたし……止められなくて……」
メラは目に涙を浮かべていた。
「ちっ、あの野郎、一人で美味しいとこ持ってく気か……そうはさせねえよ」
ヴェルザードは頭をくしゃくしゃに掻きながら勢い良く立ち上がった。
「ご主人様 !」
「俺は天下の吸血鬼だ、魔獣ごとき捻り潰してやる」
「私も行きます。何があろうともご主人様のお傍にいる……それがメイドである私の勤めです !」
「勝手にしろ」
ヴェルザードとリリィはやる気満々だった。でもリリィって戦えたっけ……。
「作戦会議は中断だ !今は一刻を争う。すぐに湖に向かうぞ !」
「は、はい !」
私達は急いで魔獣の眠る湖に向かった。
湖はメラが案内してくれた。
青く澄み渡る景色が何処までも広がっていた。
こんな美しい湖の中に凶悪な魔獣が潜んでいるなんて、とても信じられない。
「ここです。魔獣は数千年もの間、この湖の奥深くに封印されていました」
「だが何者かが封印を解いたと……」
魔獣の封印を解く……心当たりがないわけじゃない。まさかとは思うが、あの男か…… ?
「あ !あれは何ですか !?」
リリィが突然指を指した。
湖に魚のヒレのようなものが見え、素早く泳いでいた。
その姿はまるで鮫のようだった。
「まさかあれが魔獣…?いや、それにしては小さいな」
ヒレは水中に潜り、姿を消した。
しばらくすると湖はゴポゴポと大きな泡を膨らませ、やがて巨大な魚のようなものが顔を出した。勢いで水飛沫が飛び散った。
「なっ何だ !?」
私達は水飛沫を滝のように浴びた。
ヴェルザードは何故か遠くに離れていたので濡れずにすんでいた。
「危なかったぜ……」
「ヴェルってもしかして、水苦手なんですか…… ?」
「うっ…… !」
ヴェルザードは冷や汗をかいていた。
図星のようだ。
「主、あれが魔獣のようですよ !」
湖に現れた水の魔獣。鮫のように鋭い牙を生やし、竜のように堅そうな鱗を身に纏い、首を回しながら咆哮を上げた。
「見た目からして強そうだな、油断出来んぞ !」
エルサは剣を構えた。魔獣は私達をじっと見渡していた。
その時、湖から男が飛び出し、魔獣の顔面を豪快に殴った。
「マルク !」
メラが叫んだ。
「こいつは俺の獲物だぁぁぁぁぁ !!!」
マルクは血を流し、全身傷だらけだった。
水中で魔獣と激闘を演じたのだろう。
「魚人二斬撃!!!」
空中に飛んだマルクは両腕をクロスさせ、肘のヒレで魔獣の体を切り刻もうとした。だが硬い鱗がそれを防いだ。かすり傷一つつかなかったようだ。
「そんな……!俺のヒレで斬れないだと…… !」
魔獣はニヤリと笑うと口を大きく開け、マルクに向かって水のブレスを噴射した。
マルクは直撃を受け、陸地まで吹っ飛ばされた。
「ウワァァァァァァ !!!」
「マルク !!!」
メラは見ていられず、両手で目を覆った。
「世話の焼ける !」
ヴェルザードが高くジャンプをし、吹っ飛ばされたマルクを寸での所でキャッチした。
「うっ…… !」
だが飛び散った水飛沫がヴェルザードの体にかかった。
ヴェルザードは激痛が走り、苦痛に顔を歪めていた。
マルクはダメージを負い、気を失っていたが命に別状は無かった。
魔獣はなおも尾ひれを振り回し、激しく湖の中で暴れていた。
「まずは大人しくさせなければいけませんね、あの技を使いますか」
ランプの中のリトが赤色放射を使おうとした。
「待ってください !ここは私が何とかします !」
リリィはリトを制止させると魔獣の前に出た。
「うっ……リリィ!何をしてる、戻れ !」
「リリィ !逃げてください !」
私とヴェルザードは必死に呼び止めた。
魔獣は小さな少女に狙いをつけ、ゆっくりと近寄った。
リリィは深く深呼吸をすると……。
キュイイイイイイイィィィィン !!!
リリィは大きく口を開け、甲高い音を発した。その高過ぎる音は窓を引っ掻く音の何十倍も不快で私達は思わず耳を塞いだ。
魔獣は音に敏感だったのか、急に大人しくなり、静かに水中に潜り、去って行った。
「今のは私の特技・超音撃です。さ、今のうちに村に戻りましょう !」
リリィが魔獣を追い払ってくれた。
まさかあんな能力があるなんて……。
思えば彼女は蝙蝠だった。
私達は傷だらけのマルクを救出すると、急いで半魚人の村に戻った。
To Be Continued




