第二百六十話・マザー撃破!
リトとジン……。
かつては精霊の森にて互いに切磋琢磨した仲だったが魔王の悪意によって二人の絆は引き裂かれてしまった。
数千年ぶりに再会した二人は、感傷に浸る間もなく、襲い来るマザー相手に共闘をし始めた。
戦いの流れは大きく変わり始めた。
かつて最強の精霊コンビと謳われた二人は長年のブランクを感じさせぬコンビネーションを見せ、マザーを圧倒した。
「「うおおおおおおおお !!!」」
リトとジンは真正面からマザーとぶつかり、目にも止まらぬパンチを連続で叩き込んだ。
マザーの巨体では虫けらのように小さな二人の攻撃をかわすことが出来ず、正面から受け続けるしか無かった。
絶え間なく繰り出されるパンチの嵐により、マザーの頭部はベコベコに凹み、いくつものクレーターが出来ていった。
「火炎拳 !」
「強風拳 !」
リトは拳を赤く燃え上がらせ、ジンは風を拳に纏わせ、魔力を一点に集中させ、大きく振り上げて切れのある重い一撃を喰らわせた。
ドオオオオオン
地震が起こったかのような轟音を轟かせ、全身に鋭い衝撃が走りながらマザーの巨体はあっさりと吹っ飛び、巨大な樹木に叩きつけられた。
「はぁ……はぁ……」
私は体力を使い果たし、疲弊しきっていた為、樹木にもたれながらリトとジンの戦いを見守っていた。
「すごい……これが……リトとジンの力……」
数千年もほぼ絶縁状態だったとは思えない息の合ったコンビプレイを目の当たりにし、私はホッと胸を撫で下ろした。
倒れ込んだマザーが必死に起き上がろうとしているのをリトとジンは待ちながら会話をしていた。
「お前、どんな特訓してそんな力手に入れたんだよ」
「それは企業秘密です」
ジンの質問に対してリトは涼しい顔で受け流した。
「そういういけ好かない所は相変わらずだな」
膨れっ面をするジンを見て、リトはクスッと微笑んだ。
「貴方も昔とは比べ物にならないくらいに強くなりましたね、数千年もの間、ずっと厳しい修行に耐えてきたのが分かります……流石ですよジン」
「べ、別に大したことじゃねえよ」
リトに褒められ、柄にもなく照れ隠しをするジン。
そんな雑談をしているうちに、マザーは完全に起き上がり、再び臨戦体勢に入った。
「どうやらまだやる気のようですね」
「俺らもまだまだ暴れ足りねえぜ !」
リトとジンは互いの顔を見合わすと腰を屈め、拳を握り、足腰に力を入れ始めた。
「赤色放射 !」
「白色放射 !」
二人は全身に力を込め、沸き立つようにそれぞれ赤と白のオーラを身に纏った。
二人を包み込み、樹木をも越える程に肥大化するオーラを前にしてマザーは威圧され、少しずつ後退りした。
「ジンさん、一気に片を付けますよ」
「言われなくてもやってやるぜ」
ジンとリトは互いの目を見ながら頷くと同時に大地を強く蹴り、助走をつけると風を切り裂きながら加速し、マザーに突撃していった。
マザーは負けじと木々を薙ぎ倒しながら脚を上げて大地を踏み鳴らし、リトとジン目掛けてその巨体を前進させた。
リトは加速してマザーの背中に回り込み、上空から火の弾丸を高速で数十発浴びせた。
「指撃火炎弾 !」
チュドドドドドド
数えきれぬ程の弾丸を浴びせられ、爆煙に襲われたマザーは耐えきれずに苦しそうに呻き、進撃を止めた。
「てやぁぁぁぁぁぁ」
ジンは風を切るようにマザーに突進しながら手にエネルギーを集中させ、白く発光させた。
「突風洋刀 !」
ズバァッ
風を纏った手刀を勢い良く振り下ろし、空間を引き裂くような斬撃を放った。
斬撃はマザーの頑丈な体を鋭く切り裂き、緑色の体液を撒き散らした。
マザーは激痛に喘ぎ、甲高く声にならない悲鳴を上げた。
頑丈かと思われていたマザーだったが実は今までの戦闘で着実にダメージが蓄積されていた。
疲弊し、涎を垂らしながらぐったりとした様子のマザー。
甲殻も羽根もボロボロで焦げ痕が生々しく残っていた。
長かった触角も片方が消滅し、片足も粉砕されていた。
追い詰められたマザーはその場で動きを止め、全身を小刻みに震わせ、腹端に突起した産卵器官を突き出し、卵を産もうとしていた。
ああやって蟲の魔獣達を無限に増殖させていたのだ。
「まずいぜ、また魔獣が大量発生しちまう !」
産卵器官から白く巨大な球体……所謂魔獣の卵が次々と産み落とされていく。
「させませんよ !」
リトは人差し指から火の弾丸を放ち、白い球体を粉砕した。
砕けた白い破片と液体が辺り一面に散乱する。
「ジンさん、こうなったら一撃で仕留めますよ」
「ああ !魔力を最大限に高めやる !」
二人は片腕を突き出し、手のひらを広げて魔力を高めながら標準をマザーに合わせた。
「超高熱大砲 !」
「暴風射撃 !」
ビビビビビビ
高出力の太い熱線と猛烈な竜巻が同時に放たれ、無防備のマザーを直撃した。
強力な大技の集中砲火を浴び、全身を燃え上がらせながら怨念のこもった断末魔を上げ、マザーは跡形もなく爆散した。
「はぁ……はぁ……」
魔力を消耗し、汗にまみれながら肩で呼吸をする二人。
マザーが完全に駆逐されたことで蟲の魔獣が新たに産まれることも無くなり、精霊の森に侵入することも無くなった。
事件は無事に解決された。
「……良かったぁ……」
私は安心し、よろめきながらも起き上がると二人の元に駆け寄ろうとした。
「では私はこれにて……」
リトはジンにそう言い残すと背を向け、静かに立ち去ろうとした。
ドガァッ
突然ジンはリトの肩を掴んで無理矢理振り向かせ、頬を思い切り殴った。
リトは咄嗟のことに反応できず、殴り飛ばされ、滑るように地面を転がった。
「な、何をするんですか !」
「じ、ジンさん !?」
頬を押さえながら横たわるリトに近付き、ジンは怖い顔で睨みながら見下ろした。
「何全部解決した風に見せかけて勝手に帰ろうとしてるんだよ、まだ終わっちゃいねえよ」
ジンはそう言うと指をポキポキと鳴らし始めた。
「万が一お前と再会したら、一発ぶん殴ってやろうと思ってたんだ、立てよ……数千年分の落とし前、ここでつけさせてもらうぜ」
マザーは倒されたが、まだリトとジンの因縁に決着がついていなかった。
果たしてジンの真意とは……。
To Be Continued




