第二百五十八話・G軍団
私とジンの前に突如として襲来した、おぞましい虫型の魔獣の群れ。
熊ほどの大きさで一匹一匹の力は大したことは無いが、恐るべきはその数だった。
ジンと私は必死に襲い来る魔獣達を倒したが、いくら倒してもきりがなく、増殖は留まることを知らない。
「空刃 !」
ズバッ
「疾風手刀 !」
ザシュッ
私の剣による斬撃とジンの風を纏った手刀が魔獣達を次々に真っ二つにしていく。
断面から緑色の液体が辺り一面に飛び散り、いくつもの魔獣の残骸が転がった。
気持ち悪い……。
「ハッハッハ、てんで大したねえな…… !」
長い時間相当の数を相手にし、ジンは息を切らしながらも虚勢を張ってみせた。
だが魔獣達は尽きることなくゾロゾロと数を増やし続けた。
「たく、しつけえんだよ……いい加減諦めろよ !」
ジンは手のひらから小さな旋風を発生させた。
「突風洋刀 !」
ズバァァァッ
薙ぎ払うように風を纏った腕を振り下ろし、魔獣達を一掃した。
緑色の薄気味悪い体液が雨のように降りかかった。
「はぁ……はぁ……」
流石のジンも魔力と体力を消耗し、疲労を隠せなくなり、息切れしながら膝をついた。
私は急いでジンの傍に駆け寄った。
「ジンさん、大丈夫ですか !?」
「ふん、まだ余裕だぜ……それにしても、今日はおかしいな……てんで減る様子がねえ……」
どれだけ数を減らそうと魔獣は湯水のごとく無限に湧き出てくる。
このまま戦っても無駄に消耗して自滅するだけだ。
終わりの見えない洞窟に迷い込んだようだ。
だけどきっと何処かに魔獣を操る黒幕が居るかも知れない。
「ジンさんは逃げてください、後は私が戦いますから」
「ふざけんな、人間の女を見捨てるなんてプライドが許さねえよ! それに、ここで俺が倒れたら森への侵入を許しちまうだろ……皆のパーティーを邪魔させやしねえ !」
ジンは深呼吸をしながらフラフラと立ち上がった。
魔獣達はそんなジンを嘲笑うかのように羽音を立てて飛び掛かってきた。
「うっ !」
体力の少ないジンでは対処しきれず、魔獣の突撃をもろに喰らい、吹っ飛ばされてしまった。
泥にまみれながら地面を勢い良く転がるジン。
これを機に魔獣達は一斉に倒れるジンに群がった。
「ぐわぁぁぁ、やめろぉ !」
「ジンさん! 今助けます !」
魔獣の群れに襲われ、袋の鼠状態でもがくジンを助けに私は剣を振り上げ、走り出そうとした。
だが背後から魔獣の突撃を喰らい、私は滑るように転び、剣を落としてしまった。
「きゃあっ !?」
「主 !」
倒れ込む私に魔獣の毒牙が迫る。
お互い体力を消耗し、抵抗する力も残っておらず、魔獣達に蹂躙されるしか無かった。
私は急いでランプを取り出そうと懐をまさぐった。
だが魔獣が前肢を振り上げ、私を貫こうとする。
駄目だ、速すぎて間に合わない……。
焦って手元が狂い、上手く取り出せない。
絶体絶命のその時…… !
キュイイイイイイン
鼓膜をつんざくような高音の音波が森全体に響き渡り、魔獣達は一斉に苦しみ出した。
間違いない、この超音波はリリィだ !
「私もいるよ~ !」
ミライは翼を広げ、急降下しながら私を襲おうとしていた魔獣に激突し、粉々に粉砕した。
「リリィちゃん、ミライちゃん…… !」
私は二人に支えられ、何とか起き上がった。
「ごめんなさい……ワカバちゃん一人に危険な目に遭わせてしまって……」
「でも私達が来たからには安心だよ~」
リリィとミライはにっこりと笑顔を浮かべた。
「そうだ、ジンさんが…… !」
私はハッとなってジンの方を見た。
するとジンを覆っていた魔獣達はキレイさっぱり居なくなっていた。
「何だよ……ゆっくりパーティーしてりゃ良かったのによ……」
「強がり言ってるんじゃないわよ」
「私達が来なければ貴方は魔獣の餌食になっていましたよ」
ジンを救ったのはサラとリアだった。
得意の樹の属性魔法と水の魔法で魔獣達を一掃したのだ。
実は蟲の魔獣が襲来した時、手のひら程の大きさの妖精が目撃し、急いでリア達に危機を知らせたのだ。
パーティーは中止となり、大至急ジン達の救援に向かったというわけだ。
「結界の劣化がここまで酷いことになってるとは……」
「気をつけろ、こいつら、無限に湧き出てくるぜ……流石の俺もこの様だ」
「分かってるわ、精霊界の戦士として、これ以上蟲共に森を汚させるわけにはいかないわ !」
サラとリアはジンを下がらせるとなおも増え続ける魔獣に勇敢に立ち向かっていった。
「洗浄波 !」
サラは水から巨大な波を作り出し、魔獣達の群れに向かって洗い流すように叩きつけた。
巨大な波に溺れ、無様に流されていく魔獣達。
「巨大樹木拳 !」
リアは怪獣の足のように巨大な樹木を操り、大地を揺るがしながら魔獣達を踏み潰した。
べちゃっと原型が残らぬ程に潰され、体液がじわじわと流れた。
「すごい……これが精霊の力……」
「感心してる場合か、私も戦わせろ」
呆けていたフレアの声を聞いて正気に戻り、ランプを懐から取り出してフレアを召喚した。
赤い炎のオーラを纏いながら威風堂々と現れ、魔獣達を怯えさせる。
「フレアさん、このまま魔獣を倒し続けても意味がありません」
「分かっている、親玉がいるんだろ ?」
フレアは遠くを見据えながら言った。
どうやら向こうには永遠に魔獣を生み出し続ける元凶が控えているみたいだ。
「私達で魔獣達を食い止める、貴様は遠くで高みの見物を決めている元凶を潰してこい」
「フレアさん……わかりました、必ず倒して見せます、皆さんは魔獣達を頼みました !」
「任せて下さい !」
「信じて待ってるよ~」
リリィとミライは真っ直ぐな目で私を見つめた。
「ちょっと待て、俺も行く」
リア達の後ろに下がり、休憩していたジンは立ち上がると私の隣に並び立った。
「元々この森を守るのは俺の役目だぜ、俺にもやらせろ」
「ジンさん……」
ジンの体力は完全には戻ってはいなかったが、それでも十分に戦えるだけの余力は残っていた。
ゴキゴキと音を鳴らしながら肩を回すジン。
私も落ちていた剣を拾い、ゆっくりと構える。
「今度こそ、守ってみせる……」
「はい…… !」
無限に湧く魔獣共を仲間達に任せ、私とジンは魔獣の死骸がいくつも転がる道を真っ直ぐに突き進んだ。
To Be Continued




