第二十四話・水の魔獣
私達はヴィオ村長の家に招かれ、話を聞くことになった。
「いやはや、本当に申し訳ない。うちのマルクが皆様にご迷惑をかけたようで」
ヴィオ村長は頭を深々と下げた。
「ホラ !アンタも謝りなさい !」
「ど……どうもすみませんっした……」
メラに尻を叩かれ、マルクも不本意ながら頭を下げた。
「いや、過ぎたことはもういいんです。それよりも……」
「はい。我が村に災いをもたらさんとする魔獣について、お話をしましょう」
ヴィオ村長は深く深呼吸をした。
「皆さんは、数千年前に起きた古の大戦をご存じですか ?」
「はい。人間、魔族、竜族、獣人族などが引き起こした大規模な戦いのことですね」
エルサはスラスラと答えた。
「俺達 吸血鬼の先祖も大戦のせいで数を減らし、散り散りになっちまったからな」
「ご主人様……」
吸血鬼であるヴェルザードやリリィにとっても他人事では無かったようだ。
「その大戦の時、水の魔獣を自在に操る力を持つ半魚人の英雄がおりました。彼の名はメイツ。私の先祖です」
「メイツ…… ?」
ヴィオ村長は話を続けた。
「メイツは魔獣を操り、大規模な大戦の中を戦い抜きました。
やがて戦いが終わり、平和が訪れると、この力は平和な世には不要だと自らの手で湖の底に魔獣を封印しました。そして決して封印を破らぬよう皆に言い残しました。それ以来、我々子孫は代々湖を見守り続けているのです……」
とても信じられない話だった。断片的に語られたこの世界で起きた戦争の話。余程根深いものなのだろう……。
「だが最近、何者かがその封印を解いてしまったのです」
「何ですって !?」
ヴィオ村長は辛そうな表情を浮かべた。
「復活した魔獣は湖で暴れ、お陰で魚が獲れなくなってしまったのです。村の者の何人かも魔獣に襲われ……このままでは我々の村は滅んでしまうでしょう……お願いします !どうか、私達をお助け下さい !」
「村長……」
ヴィオ村長は涙を流しながら頭を地面に擦り付けた。
「ケッ !くだらねえ !やっぱり魔獣なんか俺一人で充分だぜ !」
「マルク !」
マルクがイライラしながら勢い良く立ち上がった。
「そんな余所者どもなんかあてにしなくたってなぁ、この俺が魔獣をぶっ倒して刺身にしてやるよ !」
「アンタこの人に負けてたくせに何偉そうなこと言ってんのよ !」
メラはヴェルザードを指差した。
「馬鹿 !俺は負けてねえ !拮抗してただろうが !お前が止めなきゃ俺が勝ってたんだ !」
この人、思ったより子供っぽいなぁ……。
「ちっ…… !とにかく俺はお前らなんかに頼らねえからな !」
そういうとマルクはズカズカと出ていってしまった。
「皆さんごめんなさい !」
メラは私達に頭を下げ、後を追いかけた。
「いやいい。それにしてもあのマルクという男、やたらとムキになっているようですが……」
「はい……。マルクは幼い頃両親を亡くし、私が親代わりとなって育ててきました。
マルクには少し年の離れた兄マキリがおりました。マキリは強く、誰からも頼られる存在でした。マルクも兄を慕っていました。
……そんなある日、マキリは突然村から消えてしまいました。村の支えを失ってしまい、マルクは兄の代わりになろうと、必死に強くなろうと修行を重ねました……」
「なるほど……それであれだけの強さを……」
マルクが他所の力を頑なに拒む理由。それは、自分が兄の代わりになって村を守るためだった。
「ですが……魔獣は決してマルク一人の手に負えるものではありません……どうか」
「分かってますよ」
私はヴィオ村長の所に近付いた。
「私達が力を合わせ、この村を魔獣から守って見せます」
ヴィオ村長は深々と頭を下げた。
その小さく今にも折れそうな体は震えていた。
「宜しく……頼みます……」
俺は思わずヴィオ村長の家を飛び出した。
どいつもこいつも、プライドってもんがねえのか !
あいつらに、俺の何が分かる…この村は、俺の手で守らなきゃ意味がないんだ……。
俺は一人ブツブツ呟きながら歩いていた。
「マルクー !」
メラが追いかけてきた。メラは昔から俺の世話を焼く腐れ縁で結ばれた幼馴染だ。
「アンタ…どこ行くつもりなのよ」
「決まってんだろ、魔獣を倒しに行くんだよ」
「一人で行くなんて無茶よ、あの人達と協力して……」
「うるせえ !」
俺はカッとなり、思わず怒鳴ってしまった……。
「……もしかして……お兄さんのこと…… ?」
「……俺は強くなって、この村を守る……兄貴と約束したんだ……」
「マルクはお兄さんとは違う !無理して同じにならなくても……」
「お前に何がわかるんだ !親の顔すら覚えてねえ……そんな俺の唯一の拠り所は兄貴だけだったんだ……。だが兄貴はもういねえ……最後に残ったのは……あの日交わした兄貴との約束……それだけだ…… !それしかないんだ…… !」
「マルク……」
その時、遠くの方から唸り声が響いた。
「この声……魔獣 ?」
「ちっ、腹すかせて暴れるサインみてえだな !」
俺は直ぐ様湖の方角へ走った。
今度こそ俺が魔獣を倒し、兄貴のようになる !
誰の手も借りずにな !
「ちょっと……マルクー !!!」
To Be Continued




