表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ランプを片手に異世界へ  作者: 烈斗
精霊の森編
257/400

第二百五十五話・残酷な友との別れ



焼け野原と化した精霊の森で二人の男が激突した。

一人は魔王に魂を売った魔人リト、もう一人は風の精霊ジン。

焼け焦げた臭いが充満する中、二人は壮絶な殴り合いを繰り広げた。


「ふざけんなよリト! あの時……必ず無事に戻ってくるって約束したじゃねえかよ ! 何で魔王に屈してんだよ !」


ジンは感情を剥き出しにし、リトに怒りをぶつけながら何度も殴りつける。

だが、魔王に力を与えられ、邪悪な力に目覚めたリトはジンの思いを踏みにじるように一蹴する。


ドガッ


「うわっ !」


無情にも蹴り飛ばされ、ジンは泥だらけになりながら地面を転がった。


「はぁ……はぁ……ちきしょう……」


ボロボロになりながらも気力で立ち上がるジン……。


「ははっ……ちょっと前までは俺達互角だったってのに……暫く会わねえうちに随分と追い越されちまったみてえだな……」


顔についた泥を拳で拭い、ジンは乾いた笑い声を上げ、精一杯の強がりを見せた。


「なぁ……俺達最強コンビは……どんな奴が相手だろうと負けないんじゃなかったのかよ……」


ジンは拳を強く握り、周囲に風を巻き起こした。


「この……大馬鹿野郎がぁぁぁぁぁ !」


ジンは手のひらから風の衝撃波、「突風砲(ガストシューティング)」を放ち、リトに浴びせた。

つんざくような風の剣がリトを襲う。

だがリトは黒いオーラを発生させ、自らの体を包み込ませ、風の衝撃波を防いだ。


「くっ……うおおおおおおお !」


渾身の一撃も効かず、後退りするジンだったがすぐに気を取り直し、拳に風の魔力を纏わせ、リトに飛び掛かった。


火炎拳(フレイムナックル)


静かなトーンで呟くと、冷酷にもリトは炎を纏い、固く握った拳を振り下ろし、ジンを返り討ちにした。


「がはっ !?」


顔面を殴打し、鼻血を噴き出させながらジンは吹っ飛ばされ、仰向けに叩きつけられた。


「うっ……ち……ちきしょお…… !」


もう起き上がる力すら残っていなかった。

懸命なジンの訴えも凍りついたリトの心には一切届かなかった。


「もうこの森は終わりです……貴方達精霊は……滅びゆく運命なのです……」


ゴミを見るような目で倒れているジンを見下し、リトは非情に吐き捨てた。

ジンの目から悔し涙が溢れる。


「本当に……もう……戻れないのかよ……」


周辺が炎に飲まれる中、リトはジンに近付き、手をかざした。

その手には赤々と火が灯っていた。


「さようなら……」


その瞬間、謎の光の波が放たれ、リトを押し出した。

不意を突かれ、リトは派手に吹っ飛ばされた。


「はぁ……はぁ……貴方は……」


寸での所でジンを救ったのは精霊女王だった。

この頃は幼女ではなく、大人びた妙齢の女性のような姿をしていた。


「立てるか、ジン……」


精霊女王は倒れているジンを抱き起こし、肩を貸した。


「リト……お前はもう精霊ではない……闇に堕ちた魔人イフリートだ」


精霊女王は鋭く睨み付けながら冷たく厳しい言葉をリトに浴びせた。


「…………」


リトは無言のまま人差し指を突き出し、銃口を精霊女王に向けた。


「精霊女王様……」

「しっかり掴まっていろ……」


精霊女王はそう言うとジンの腕を握りながら加速し、燃え盛る森の中を魔物を轢き殺さんばかりの凄まじい速度で駆け抜けた。

多くの避難民がいるまだ無事な森に逃げる為だ。

リトも負けじとスピードを上げ、精霊女王を追いかけた。

かまいたちが通りすぎるような、壮絶な追いかけっこの果て、魔力を消耗しながらもなんとか燃え盛る森を抜け、比較的被害の少ない新たな森へ突入し、逃げ切る事が出来た。


「皆の者、心配をかけたな……」

「精霊女王様、ジン! ご無事でしたか !」


リアを始め、生き残った精霊達は心の底から安堵し、精霊女王とジンの元へ駆け寄った。

リトも森の中へ侵入しようとしたが、結界に邪魔され、入り口まで押し出されてしまった。


「…………」


だがここで諦めるリトでは無かった。

空中に浮遊して空から森を見下ろすと、山程の大きさを持つ巨大な炎の塊を生み出し、森へ向けて投げつけた。

森林ごと焼き尽くすつもりだ。


「なっ……あれは…… !」


精霊達が気付いた時は既に手遅れだった。このままでは森が再び火の海になってしまう……。

そう思われたが森に張られた結界が炎の塊を押し返そうと抵抗した。

精霊女王が力を使い、一時的に結界の耐久力を急激に上げたのだ。


「くっ…… !」


精霊女王は必死に両腕を空に向かって突き出し、全身が汗にまみれる。

己の命を削ってまで結界の力を強化し、森を守ろうとしていた。


「精霊女王様……おやめ下さい! これ以上は…… !」

「精霊達を……全滅させるわけにはいかん……その為なら、命など惜しくもない !」


硝子のように出来ていた透明な結界にヒビが入り始めた。

ピキピキと音を鳴らし、炎の塊が結界ごと押し潰そうと迫ってきた。


「はぁぁぁぁぁぁぁ !」


更に全身に力を込める精霊女王。

身体中から眩い光を放つ。

全ての力を出し切るつもりだ。

限界まで魔力を解放し、結界が金色に輝き強化され、巨大な炎の塊を押し返そうとする。


チュドオオオオオオン


上空で凄まじい大爆発が起こった。

禍々しい色の炎の塊が膨れ上がり、一気に破裂し炎を噴きだし、歪な花火のようだった。

結界は辛うじて耐えきることが出来、森は何とか爆発から守られた。

リトは魔力を消耗し、息を切らせながら肩で呼吸をした。

漸く諦めたのか、リトは何処かへ飛び去っていった。


「はぁ……はぁ……」


精霊女王は森を守る為に魔力を使い果たした影響で、成熟した大人の姿からあどけない子供の姿になってしまった。

精霊女王は疲弊し、足の力が抜け、倒れてしまった。


「精霊女王様 !」


急かさずリアが精霊女王を支えた。


「そんな……私達の為に……精霊女王様は……このようなお姿になってまで……」


リアは身を震わせ、涙を流した。

他の精霊達も皆悲しみに包まれ、嗚咽を漏らした。


「泣くな……この戦いで……我々は故郷と……多くの同胞を喪った……だからこそ、生きなければならない……散っていた同胞の分まで……どれ程みじめで、耐え難い現実に直面しようとも……」


精霊女王は虫の鳴くような声でこの場にいる精霊達全員に言い聞かせた。

精霊達はしっかりと精霊女王の言葉に耳を傾けた。


「精霊女王様……俺……何も守れませんでした……」


俯いた状態で体育座りをし、ジンは弱々しい声で呟いた。


「俺は……弱いです……故郷も……同胞も……親友も……精霊女王様も……何も守れませんでした……」

「ジン……」


悲痛な面持ちで涙を流し、悲しみと悔しさで拳を震わせるジン……。

精霊女王はジンに寄り添い、頭を優しく撫でた。


「ならば……もっと強くなれば良い……君はまだ全てを失ったわけではない……周りを見てみろ」


精霊女王に言われ、ジンは辺りを見回した。

生き残った精霊達……小さな妖精達……そしてサラにリア……。

ジンにとって守るべき大切な存在はまだ残っていた。


「一度失われたものは元には戻せない……私も自分の弱さが憎い……だからこそ……強くならなければならない……それが生き残った我々の使命なのだから……」


精霊女王の言葉はジンの心に深く刻まれた。

ジンは立ち上がり、涙を拭うと天を仰いだ。


「俺は……もっと強くなって……この森を……守って見せる……もう誰も失わせねえ! リト……今度会った時は……お前を必ず倒してやる…… !」


ジンは涙を堪え、強く胸に誓った。


それから、生き残った精霊達は女王の加護の元、新たな森で生活を始めた。

女王は再び結界を張り、二度と邪悪な存在が侵入出来ないようにし、外との繋がりを完全に遮断した。

ジンはリトへの怒り、自分への怒りを糧に数千年もの間、修行に明け暮れた。

来るべき脅威に備え、いつかリトをこの手で倒す為に……。


To Be Continued

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ