第二百五十一話・フレアvs精霊達
風の上級精霊・ジンと水の精霊アプサラスのサラ。
森に入った私達は精霊達による洗礼を受けていた。
どうやら侵入者だと勘違いしているようだ。
ジンによる圧倒的な風の力により、苦戦を強いられていた私とリリィを救ったのはリト……ではなく、フレアだった。
「この魔力……人間じゃない……もっと別の高位なる存在みたいね……」
フレアの魔力を感じとり、サラは戦いを中断し、ミライを放ってジンの元へと飛んでいった。
「ちょっと~! 何処行くの~ !」
翼に水が含んで上手く飛べないミライは一人置いてかれてしまった。
フレアの登場により、流れは大きく変わった。
ジンはフレアが放つ強大なオーラを肌で感じ、冷や汗を流しながら身震いしていた。
「フレアさん……」
「リトが戦意を失ったようでな……あの男と知り合いのようだが……まあそんな事はどうでもいい、貴様らは邪魔だ、下がっていろ」
フレアは冷たく言い放つと私とリリィを後ろに下がらせた。
「貴女がワカバちゃんの新たな召喚獣フレアさんですか……綺麗な方ですね……」
リリィは興味津々な様子でフレアの背中をまじまじと見つめていた。
「フレアさん……」
「案ずるな、手加減はするつもりだ、殺しはしない」
「……やりすぎて森を焼かないで下さいね……」
私は暴れすぎないようフレアに念を押した。
フレアは真っ直ぐにジンを睨み付けた。
「お前、この女の召喚獣か……大した魔力を持っているようだな」
「ああ、不本意ながらな……お陰でこんな姿で無ければ気軽に実体化も出来んぞ」
フレアは自らの髪をなびかせながら高圧的な口調で話した。
(人間と変わらねえ容姿をしてるが、あの女から滲み出る魔力は人智を超えてやがる……どうやら人の姿になって力を制御してるようだが……果たして正体はどんな化け物なんだ……)
ジンは額に汗を流し、腰を低くして構えた。
フレアに対し、相当警戒しているようだ。
「どうした? 遠慮せずにかかってこい 」
不敵な笑みを浮かべ、手招きをしてジンを煽るフレア。
「へっ、上等だ……俺は数千年もの間、この森を守り抜いて来たんだ……誰であろうと俺は負けねえ !」
ジンは全身に風を纏い、大地を蹴り上げ、勢いつけてフレアに突撃した。
「てやぁぁぁぁぁぁ !」
ジンはフレアの目の前で疾風のように姿を消し、一瞬で彼女の背後に回り、攻撃を仕掛けようとした。
だがフレアは振り向きもせず、裏拳を繰り出してジンの顔面に喰らわせた。
「ぐわっ !」
顔面にもろに裏拳を喰らい、鼻を押さえるジン。
間髪入れずにフレアは長い脚で怯むジンの腹を蹴り上げた。
ジンは顔を歪めながら血を吐き、勢いよく吹っ飛ばされた。
「ぐう……何て力だ…… !はぁっ !」
吹っ飛ばされながらもジンは負けじと手のひらから無数の風の弾丸を作り出し、フレアに向かって放った。
「無駄なことを……」
ポポポポンッ
フレアは小さな火の玉を放ち、ジンの放った風の弾丸を全て相殺した。
「炎だと……あいつと同じ……」
「もっと良いものをお見舞いしてやろう、はぁっ !」
フレアは水晶程の大きさに凝縮した炎の玉を作り出し、動揺するジンに投げつけた。
「くっ! ぐわぁっ !」
咄嗟に腕をクロスさせ、直撃を防ごうとするが、火の玉が腕に触れた瞬間、爆発を起こした。
ジンは衝撃に耐えきれず、転がるように吹っ飛ばされた。
風圧で泥が四方八方に飛び散った。
「くそぉ……」
「フフフ……風の上級精霊と言っても大した相手では無かったようだな、うっ !」
勝ち誇るフレアの背後に突然水がふりかかった。
背中から蒸気を発しながら、フレアは顔を歪め、苦しそうに呻いた。
「フレア !」
「何者だ…… !」
フレアが睨んだ先にはサラの姿があった。
強大な魔力を感じ、ジンの助太刀に入ったのだ。
「もう一人の精霊……ミライちゃんはどうなったの ?」
「あの鳥人は置いてきたわ、勝負は引き分けよ……」
サラは緊張した面持ちでフレアに目線を向けた。
「面白い……二対一というわけか……」
背中に水属性の攻撃を受けたものの、フレアは余裕の態度を崩さず、不敵な笑みを浮かべた。
「馬鹿野郎サラ! 俺一人で充分だ !余計な手出しすんじゃねえ !」
「ダメよ、この女は炎属性、しかも想像以上に高い魔力を持ってるわ、下手をすれば森全体を焼き尽くされる……」
サラは不満気なジンを説得し、共闘を呼び掛けた。
「ちっ……しょうがねえ……意地張ってる場合じゃねえな 」
ジンは渋々納得すると再び風を身体中に纏い、フレアに飛びかかった。
サラも手に青いオーラを宿し、ジンの後に続いた。
ドガドガドガドガ
ジンとサラは二人がかりでパンチを連続で繰り出し、風を切り裂くようにフレアを攻撃した。
だがフレアは怒濤の攻撃の嵐を涼しい顔で全ていなした。
「くっ…… !なんて化け物なんだ…… !」
「何なのこの女 !?」
彼女の正体が不死鳥であることを二人は知らない。
フレアはニヤリと笑い、残像が残る程加速させ、二人の腹に強烈なパンチを叩き込んだ。
ドンッ ドゴッ
「うぐっ !」「かはっ !?」
重い一撃が体全体に響き渡り、二人はその場でうずくまった。
精霊二人を圧倒するフレアの力に、私とリリィは開いた口が塞がらなかった。
これもうリトの出番ないよね……。
「どうした? まだ続けるか? 私は一向に構わないが ?」
フレアは高圧的な態度でうずくまる二人を見下ろした。
「ふざけんじゃねえ !」
歯を食い縛り、ジンはフレアの足元に風を巻き起こした。
「ぬっ…… !」
咄嗟に腕をクロスさせるフレア。
だが風はあくまで目眩ましに過ぎなかった。
ジンとサラはフレアを怯ませた隙に一定以上距離を離れた。
「こうなったら合体技だ、サラ」
「ええ、それしかないようね !」
ジンとサラは互いの手を重ね、同じタイミングでそれぞれ水と風を手のひらから召喚し、大技を放つ準備をした。
「ほう、面白そうな余興だな、では私も乗ってやるとするか」
フレアは嬉しそうに口角をつり上げ、指先に火を灯した。
ジン達がこれから放とうとしてる合体技にぶつける気だ。
バチバチバチ
「「はぁぁぁぁぁ !」」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁ !」
緊迫感でピリピリと空気が重くなる中、両陣営の魔力がどんどん上昇し、膨れ上がっていく。
風と水が混ざり合い、一つの大きな力に変わっていく。
フレアの指に灯った炎は更にメラメラと燃え上がる。
二つの強大な力が今にもぶつかろうとしていた。
「受けてみやがれ、俺達の合体技 !」
「返り討ちにしてくれる !」
フレアの炎、ジンとサラの合体技……。
互いに大技をぶつけ合おうと腕を突き出したその時……。
「お待ちなさい !」
鋭い一声と共に、突然両者の間に割って入るように、中心に一人の美しい女性が現れた。
フレアとジン、サラは突然の事に驚き、今にも放たれようとしてていた魔力が手のひらからかき消えた。
「争いはいけませんよ ?」
To Be Continued




