第二百五十話・精霊達の乱舞
蟲の魔獣を退治しようと大森林へとやって来た私達。
道に迷っていた所を二人の男女に襲われた。
一人は褐色肌の少女。
もう一人は背の高い紫色の髪の青年。
どうやら私達のことを侵入者呼ばわりしているのだが……。
「ま、待ってください !私達はこの森で暴れてる魔獣を討伐しに来ただけで……」
「問答無用だ !」
有無を言わさず青年は風の魔力を全身に纏いながら襲いかかってきた。
「てやぁぁぁぁぁぁ !」
周辺に風を巻き起こしながら私達に接近する青年。
風圧に耐えきれず、リリィの足は地面を離れ、吹っ飛ばされてしまった。
「きゃああああ !」
近くにあった樹木に背中を打ち付けられ、ダメージを負うリリィ。
衝撃と痛みが全身を駆け巡る。
「次はお前だぁ !」
風を纏った拳を振り上げ、私を狙って殴りかかる。
私は咄嗟に剣で、受け止めた。
バチバチと火花が飛び散り、お互いの力がぶつかり合う。
「人間のくせにやるじゃねえか」
意外そうに私を見つめる青年。
「主、気を付けて下さい! この男は強いです !」
ランプの中から警戒を呼び掛けるリトの声が聞こえる。
リトはこの男を知っているようだ。
兎に角、まずは様子見として私が青年の相手をすることになった。
ミライは褐色肌の少女と交戦していた。
青年程高い魔力を感じないが、水を自在に操る厄介な力を持っていた。
天女のような青く透き通る衣を翻し、舞を踊るように身軽に動き回り、ミライを翻弄する。
「鳥人なんかにアタシは負けないわ !」
「食らえ~羽根乱針~ !」
シュピピピピ
翼を広げ、棘のように羽根を飛ばし、女に浴びせるミライ。
だが女は躍りながら華麗にかわす。
「アタシは水の精霊アプサラスのサラ! 踊りは得意よ !」
サラと名乗る女は手のひら水の塊を作り出し、ミライに向かって投げつけた。
「水球体 !」
風を切るような勢いで水で出来た塊がミライに襲い掛かる。
バシャァン
「きゃあっ !」
水の塊はシャボン玉のように弾け、ミライに振りかかった。
全身ずぶ濡れになるミライ。
「うぅ~風邪引いちゃうよ~」
翼を広げ、空を飛ぼうとする。
だが彼女の体に異変が起きた。
翼に水が含まれ、重くて上手く飛ぶことが出来なくなっていた。
「そんな~ !」
「かかったわね ! 鳥人は翼が命! 飛べない鳥人なんて敵じゃないわ !」
勝ち誇ったかのように調子づくサラ。
アイデンティティーである翼を封じられ、ミライは劣勢に追い込まれた。
「うう~負けないんだから~」
一方私は剣を振るい、謎の青年と戦っていた。
だが謎の青年は身軽で私の剣撃が全て空ぶってしまう。
「お前の動き、手に取るように分かるぜ」
余裕を見せつける青年。
攻撃はますます速くなり、私の腕では対処し切れなくなっていた。
「てぇぇぇぇやっ !」
風を宿した拳で私の身体中にパンチを連続で打ち込む。
「きゃあっ !?」
悲鳴を上げながら、私は樹木の方まで吹っ飛ばされ、樹木に背中を打ち付けた。
「う……」
樹木を背にもたれかかり、ダメージで身動きの取れない私に青年はゆっくりと近付き、追い詰めようとした。
キュイイイイン
その時、超音波が響き渡り、青年は思わず耳を塞いだ。
リリィの得意技だ。
どれだけ強くても鼓膜だけは鍛えられなかったようだ。
「ぐう……! 頭が……割れるようだ…… !」
頭を抱えながら悶え苦しむ青年。
その隙にリリィは私の元へ駆け寄った。
「大丈夫ですか? ワカバちゃん ! 」
「はい……平気です……」
リリィに支えられ、私は何とか立ち上がった。
超音波を喰らい、未だに頭を抱えながらうずくまる青年。
「今のうちです! ワカバちゃん !」
「ええ!? で、でも…… !」
リリィは私に攻撃するよう促した。
動けない相手に追い討ちをかけるのは少し気が引けたが、相手は何者か分からない強敵だ。
「と……竜巻激槍 !」
四の五の言ってる暇は無い。
私はこの隙を狙い、剣の先に風を纏わせ、一直線に竜巻を放った。
竜巻は青年目掛けて突き進んでいった。
だが青年に当たる直前、不自然に反れて別の方向へ飛んでいった。
一本の樹木にぶつかり、音を立てて倒れていくのが見えた。
「そんな…… !」
「へへっ……俺は……風を操る天才……風の上級精霊ジンだぜ……アンタも風を操れるようだが、所詮は旋風……大したことはない」
ジンと名乗る青年は不敵な笑みを浮かべた。
風を自在に操る……。
つまり私が放った風の魔力すらも自在にコントロールしたということか……。
「本当の風の威力を見せてやるよ、人間と精霊の違いを思い知れ !」
ジンは両手を重ね、突風を巻き起こし、手のひらから発生した風を凝縮し、球体を作り出した。
「突風砲 !」
ジンは両腕を突き出し、風の衝撃波を私とリリィに向けて放った。
私は咄嗟にリリィを庇い、立ちはだかるように前に出た。
バリバリバリバリ
「きゃあああああぁぁぁ !!!」
つんざくような風の刃が私の全身を容赦なく切り刻む。
悲鳴を上げ、鮮血を散らしながら、私はガクッと項垂れ、膝をついてしまった。
「うっ……」
「大丈夫ですかワカバちゃん……! 私を庇って…… !」
リリィが心配そうに私の側に寄り添う。
身体中痛いけど、リリィが無事で何よりだ……。
それにしてもジンは強い……。
同じ風の魔力でも、桁が違いすぎる……。
私では到底相手にすらならない。
下手をすれば風の魔力に限って言えばルーシーやエルサよりも上かも知れない。
こうなったらリトかフレアを召喚するしか無い……。
だけど今のリトは何処か様子がおかしい。
あの精霊と知り合いなのだろうか……。
「これで分かったか、実力の違いを……じゃあ、とどめを刺してやるぜ、侵入者共」
ジンは手のひらを翳し、私に向けて風の衝撃波を放つ準備をしていた。
「おい、貴様の主がピンチだぞ、戦いに行かなくて良いのか ?」
ランプの中の空間で、リトはジンを目の当たりにし、呆然と立ち尽くしていた。
フレアが呼び掛けても反応すらない。
心ここにあらずといった感じだ。
「あの男とどんな因縁があるのか知らんが、貴様の使命は主を守ることじゃないのか ?」
フレアは苛立ちを見せながらリトの肩を揺さぶった。
それでもリトは脱け殻のようにボーッと突っ立っているだけだった。
「ジン……生きていたんですか……」
うわ言のように呟くリトに痺れを切らしたフレアは乱暴に突き飛ばした。
「調子が狂うな……こうなったら私が行くぞ! 貴様は呆けた面で黙って見ていろ !」
フレアはそう吐き捨てると床を蹴り、天井に向かって高くジャンプした。
ジンが私とリリィに向けて風の衝撃波を今にも放とうとしていた。
私は残された力で剣を拾い、リリィを守るように構えた。
絶体絶命のピンチ…… !
そんな時、懐に入っていたランプが閃光を放ち、注ぎ口から勢いよく何かが飛び出した。
「お前は…… !」
私達の目の前に颯爽と現れたのは、オレンジ色に輝く長いツインテールの美少女、フレアだった。
ジンは突如現れた謎の存在に対し、警戒心を強めた。
「リトは戦意を失ってるらしくてな、代わりに私が戦ってやろう」
フレアは不敵な笑みを浮かべながら長い髪を靡かせた。
To Be Continued
 




