第二百四十九話・迷った
私達は大森林に最近出没し始めた蟲の魔獣を討伐しにやって来た。
厄介な能力を持ち、並の騎士団では手に負えないようだ。
ヴェルザードやエルサ達は別件で忙しそうだったので予定の空いていた私達に仕事が回ってきた。
マルクは休暇を貰い、故郷である半魚人の村に帰省していた。
とは言えメンバーは私、ミライ、リリィの三人のみ……。
正直不安が全く無いわけではなかった。
今回のクエストにリリィはどうしても参加したかったらしく、珍しくただをこねた。
ここ最近留守番ばかりで不満が溜まっていたようで、私は彼女も誘うことにした。
大森林の中に足を踏み入れた私達三人。
何処まで行っても巨大な樹木が鬱然と地を覆い尽くし、地面は黒く湿っていた。
ひんやりと冷たい空気が心地良い。
そして、森の中を探索して早10分……。
「あの~……二人とも……非常に言いにくいのですが……迷いました……」
先頭を歩いていた私は申し訳なさそうに言った。
「「え~ !?」」
リリィとミライはオーバー過ぎる程リアクションを取った。
「どうするんですかワカバちゃん !」
リリィは困りきった表情で私に訴えかける。
完全に想定外というか……私の考えが甘かった……。
大森林の道は複雑で行方不明者が少なくないということを考慮していなかった。
しかもこの森には凶暴な魔物が多く生息している。
私やミライだけで対処できるかどうか……
「まあまあ~もう少しだけ歩いてみようよ~きっと蟲の魔獣を見つけられるかもだよ~」
ミライは笑顔で私達を宥めるように言った。
彼女はどんな時でも取り乱さず常に前向きで周りを気遣える。
私も見習わなきゃと思った。
「安心してください主、例え何が襲ってこようとも、この私が全て焼き尽くして上げます」
ランプの中でリトが自信満々に言った。
「ありがとう、でも森を焼くのは不味いので程ほどにしてくださいね」
私は苦笑を浮かべながらリトに語りかけた。
「それにしても、懐かしい感じがしますね……」
森を歩いている中、リトはボソっと呟いた。
「懐かしいって…… ?」
「今日夢に見たんですよ、精霊だった時、巨大樹に登り、親友と戯れていたあの日々のことを……数千年も前のことです……この森の中に入って、より一層懐かしさが強まったと言いますか……」
「リトが精霊だった時……」
切ないようなか細い声で感傷に浸るリト。
リトがどういう人生を送ってきたかは前に聞いたことがある。
だけど精霊だった頃の思い出は聞いたことが無かった。
話したくなくても無理はないだろう……。
私も無理に聞き出すつもりはない。
魔王の策略によって、自らの手で故郷を焼いてしまったのだから……。
今まで森に入ってたことは何度かあった。
だけどリトが精霊だった頃を懐かしむなんてことは一度も無く、今回が初めてだった。
恐らくこの森林には何かがあるのだろう……。
「ちょっと待ってください !」
引き続き暗い森の中を歩いていた時、突然リリィが私とミライを呼び止めた。
誰よりも優れた聴覚を持つ彼女は何かを感じたようだ。
「この森何かがおかしいです……」
リリィの顔は真剣で警戒心を強めていた。
私もミライも取り敢えず互いに背中を合わせて死角を無くし、戦闘の構えを取った。
何処から敵が奇襲を仕掛けてくるか分からない。
私達は辺りを目を凝らしながらくまなく見回した。
ブクブクブクブク
突然四方八方から大量の泡が発生し、私達に振りかかった。
「何なのこれ !」
私は剣で、ミライは翼で、リリィは特注のフライパンを振り回し、振りかかる泡を薙ぎ払った。
「この泡……強力な魔力を感じます……ただの魔物の仕業じゃありません !」
リリィが叫ぶ。
じゃあ一体誰が……。
「アンタ達が侵入者ね !精霊の森には一歩も近付けさせないから !」
突然少女らしき高い声が聞こえた。
私は声のする方を見るとそこには露出の多いアラビアン風の衣を身に纏った褐色肌の少女が立っていた。
何処と無くリトの服装と似ていた。
「貴女は一体…… ?」
「これから倒されるアンタ達が知る必要ないわ !」
敵意を剥き出しにしながら謎の少女は私達に向かって襲いかかってきた。
ガシィッ
謎の少女の攻撃を受け止めたのはミライだ。
大きく翼を広げ、少女の動きを封じる。
「ここは私に任せて~」
「ミライ……うっ…… !」
間髪入れずに突然突風が巻き起こり、私とリリィは腕で顔を覆いながら怯んだ。
「ふん……神聖な森に土足で踏み込もうとする人間共が……この俺が塵にしてやるよ」
私達の目の前に、紫色の髪をした若い青年が姿を現した。
青年もまた私達に対して敵意を露にしていた。
「あ……あれは…… !」
ランプがカタカタと小刻みに震え始めた。
中にいるリトがあの青年を目の当たりにし、動揺していた。
「どうしたんですか? リト !」
「そんな……有り得ません……生きてるはずが…… !」
冷静さを失い、リトは声を震わせていた。
「これ以上森を汚させるわけにはいかねえ、お前達には消えてもらう」
お構い無しに青年はその場で浮遊し、私達を睨み、戦闘体勢に入った。
話し合う余裕は無さそうだ。
To Be Continued




