第二百四十八話・親友との日々
こんにちは!
スライム編も一区切りつき、いよいよ新章「精霊の森編」スタートです!
リトの過去の因縁について、掘り下げていきます!
宜しくお願いします!
魔王軍が全盛期を誇っていた、今から数千年も前のこと……。
人里から遠く離れた辺境にある巨大な森林の最深部には人間には踏み入れることの出来ない領域が存在した……。
神秘的な雰囲気に包まれ、神聖な魔力が漂う世界……「精霊の森」だ……。
森の中は豊かな自然のに恵まれ、多くの精霊達が暮らしていた。
森を治める女王「精霊女王」が巨大な結界を森に張り、邪悪な侵入者を寄せ付けないようにしていた。
炎の精霊リトは巨大樹に登り、ベッド程の大きさを誇る枝にもたれかかり、退屈そうに景色を眺め、くつろいでいた。
この時のリトは小柄で人間に換算すると10代前半の少年だった。
「おーい、リトー !」
呑気そうに黄昏ているリトに声をかける者がいた。
紫色の髪をし、顔立ちの整った明るい少年だ。
彼の名はジン。風の精霊でリトの親友だ。
少年は宙に浮いた状態でリトに話しかけた。
「まーた修行サボってこんな所まで登って昼寝かよ」
リトとジンは精霊界において数少ない上級精霊の戦士だ。
森を守護する為、毎日過酷な修行に励みながら互いに切磋琢磨していた。
「別に良いじゃないですか、絶好の昼寝日和ですよ」
リトは眠そうな目でジンに返事をした。
その顔に反省の文字は無かった。
この頃のリトはマイペースで穏やかな性格をしていた。
「たくっ……お前って奴は……」
呆れながらジンも隣の枝に腰かけた。
「それにしても、平和ですね……」
ボーっとしながら平穏を満喫しているリト。
全身から力を抜き、リラックスしていた。
「ああ、精霊女王様がこの森を守ってくれてるからな……」
リトとジンは遠目に見える人間の住む外の世界を眺めた。
結界を張っているお陰で外からの敵を寄せ付けず、力を持たない精霊達でも安心して過ごせるのだ。
だがその平和もいつまで続くか分からなかった。
近頃、魔王軍が暗躍を始め、多くの亜人達の住む村を襲い、植民地にしていた。
武力で弱者を従わせ、逆らう者達は粛清する、最悪の集団だった。
精霊の森もいつか魔王軍の襲撃を受けるかもしれない。
女王の結界だけで守りきれるとも限らなかった。
「なあ、俺達……守れるかな……この森を」
唐突にセンチメンタルになりながらジンは呟いた。
「大丈夫ですよ……私と貴方がいれば、どんな奴が相手だろうと負けませんよ」
リトは穏やかに微笑みながら言った。
「ああ、そうだな、俺とリトは精霊最強コンビだもんな !」
ジンは奥歯を剥き出しにしながら笑顔を浮かべた。
この日、二人は修行をサボり、日が暮れるまで木の上で安らいでいた。
「はっ !」
リトは飛び起きるように目を覚ました。
全身が川に飛び込んだかのように汗びっしょりだった。
キョロキョロと辺りを見回すリト。
緑に囲まれた幻想的な森ではなく、真っ暗闇覆われた空間だ。
間違いない、いつもの見慣れたランプの中、召喚獣達が待機する為の空間だ。
「どうしたのだ ?悪夢でも見ていたのか ?」
たまたま隣にいた不死鳥ことフレアがリトに尋ねてきた。
フレアはツインテールをした美少女の姿になっていた。
「いえ……過去の思い出が夢に出てきただけです……私がまだ精霊だった頃を……」
「精霊!? 貴様精霊だったのか !?」
魔人と呼ばれていた頃のリトしか知らなかったフレアは意外と驚愕していた。
「そんなに驚くことですか…… ?」
「当たり前だろ! 精霊と魔人は謂わば光と闇……対極の存在だぞ ?」
「まあ色々ありましてね……」
遠い目をしながら言ったリトには哀愁が漂っていた。
「精霊の森にいた頃、私には親友かいました」
「友だと……意外だな、貴様にも友と呼べる存在がいたのだな」
「どういう意味ですか」
リトはじと目でフレアを睨み付けた。
「親友と過ごしていた日々を思い出したんです……安らかで、かけがえのない思い出ばかりでした……」
切なそうな表情を浮かべながら天井を見上げるリト。
そんなリトの話をフレアは腕を組みながら耳を傾けていた。
「もう戻れんのか…… ?」
「ええ……自分で壊してしまいましたから……」
リトは悔やんでも悔やみきれない取り返しのつかない過ちを犯してしまった。
魔王に屈し、手先となったリトは自らの手で精霊の森を焼き払った。
「ジンがどうなったのか……その辺りの記憶はありません……あの後助かったのか……それとも死んでしまったのか……確かめるのが今でも怖いです」
「成る程……いつも自信満々な貴様にも怖いものがあるのだな」
フレアは意外そうに言った。
「私は強くなどありませんよ……過去から逃げ続けている、臆病な魔人です」
リトは乾いた笑い声を上げながら自嘲した。
ゴゴゴッ
その時、地震でも起こったかのようにグラッとランプの中全体が揺れた。
「わっ !」
フレアは震動でバランスを崩し、大股開きをしながら尻餅をついた。
「主が出かけるようですね」
リトには何が起こったのかがすぐに理解出来た。
ワカバがランプを手にし、クエストに出かけようとしていた。
この揺れはランプを持った時に起こったものだ。
「さて、我々も戦う準備をしますか」
リトはパンッと手のひらで顔を叩き、気を引き締めた。
いざという時に召喚に応じ、主を守るのがリトの使命だ。
「どんなクエストかは知らんが、骨のある奴が相手だと良いな」
フレアはワクワクしながら指を鳴らした。
「気になることもありますが、今は主を守ることに集中するとしましょう」
リトは天井を仰ぎながら自分に言い聞かせた。
何故このタイミングで昔のことを、親友との思い出が夢に出たのかは分からなかった。
だがリトは深く考えないようにした。
To Be Continued




