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ランプを片手に異世界へ  作者: 烈斗
スライムの来襲編
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第二百四十一話・不死身の男の葛藤



コロナが究極魔法「渦流最高光(ボルテックスプリーム)」を発動させ、スライを完全に焼き払った。

いくら再生が可能でも、灰すら残らぬ程跡形もなく消されてはひとたまりもない。


「はぁ……はぁ……」


大量の魔力を消費し、コロナは疲弊してその場にへたり込んだ。

疲労で少しも動けないが、その表情は充実感に満ちていた。


「ミライちゃ~ん !」


フラフラになりながらミライが駆け寄り、コロナを翼で包み込むように抱き締めた。


「カッコ良かったよ~コロナちゃ~ん」

「ああ、お手柄だったぜ……コロナ」


ミライ達はにこやかに笑みを浮かべながらコロナを労う。


「ありがとう……でも、皆が繋いでくれたから、成功したんだよ……」


コロナは嬉しそうに微笑み返した。


天使のようなその顔はとても周囲を焼き払う究極魔法を放つ魔女には見えなかった。


「あの嬢ちゃん大したもんだなぁ……」

「私と戦った時よりもかなり腕を上げたみたいね……」


コロナの活躍っぷりに後ろの方に隠れていたラゴン、ララも感心している様子だった。

まあ小さい女の子がド派手な魔法で周囲を爆発させれば誰だって驚くよね……。


「でも……何か嫌な予感がする……」


全員が安堵する中、私は妙な胸騒ぎがした。

まだ悪夢は終わっていない、そんな気がした。


「ねえクロス、皆のことを頼める ?」


私はクロスに声をかけた。


「ちょっとマルク達の所に行ってくるから、そこで待ってて !」


私はそう言うとクロスが止める間もなく一目散に広場の方へ走っていった。


「おい !ワカバ !」


クロスは訳が分からず、ポカンとしていた。

そして私の漠然とした不安は現実のものになった。




「!?……」


コロナ達の顔が一気に凍りついた。

煙が晴れるとそこには無傷の姿のスライが威風堂々と立っていた。

あれだけの爆発に巻き込まれながら、何事も無かったかのように原型を保っていた。


「馬鹿な…… !」

渦流最高光(ボルテックスプリーム)をまともに喰らって、無事なはずがない……」


一同は希望から絶望へと叩き落とされた。

コロナに至っては石化したかのように固まり、言葉を失っていた。


「今の攻撃は……中々良かった……俺で無ければ消滅していただろう……」


不敵に笑うスライ。

一度は分子レベルまで破壊されたが、完全には消滅し切れず、肉体の再生を許してしまったようだ。


「くっ…… !」


マルク達は魔力を消耗し、ボロボロの状態にも関わらず、コロナを庇うように前に出ると再び戦闘体勢に入った。

しかしその体は小刻みに震えていた。


「はぁっ !」


スライは全身に力を込め、魔力を高めて気合いを発すると風圧が巻き起こり、三人を吹き飛ばした。


「「うわっ !」」「きゃっ !」


最早触れるまでも無い。

弱りきった体では風圧に耐えきれず、三人はそれぞれ民家の壁に叩きつけられた。

衝撃により、壁はめり込み、クレーターが出来た。


「なんて化け物だ…… !」


マルク達に戦いを継続するだけの力は残されていなかった。

スライは一息つくとコロナに目をつけ、ゆっくりと歩み寄った。


「ひっ…… !」


コロナは杖を握り締め、その場から動けずに震え上がった。


「逃げろ……コロナ…… !」

「コロナちゃん……逃げて…… !」


呻き声を上げながら必死にコロナに呼び掛けるミライとグレン。

だがそんな声すらかき消すようにスライは大地を踏み鳴らし、コロナの目の前まで迫った。


「あ……あぁ……」


コロナは目の前の水色の巨人を見上げ、恐怖で悲鳴すら上げられなかった。

スライは無言で彼女を見つめると、ゆっくりと腕を振り上げた。


「やめろぉ !」


だがスライの動きはそこで止まった。

コロナは恐る恐る目を開けると目の前の巨人が棒立ちのまま、動かないことに気付いた。


「え…… ?」


スライは歯を食い縛り、一度振り上げた拳を静かに下ろした。

コロナを傷付ける意志は彼には無かった。

黙り込んだままスライはコロナを見つめた。


「何で…… ?」


コロナに問いかけられるが、スライは答えなかった。

無意識にコロナを重ねてしまったのだ。

以前森で助けた一人の少女と……。


「コロナちゃん !」


スライの動きが止まっているうちに、私は駆けつけ、コロナを庇うように立ち塞がり、剣を向けた。

あまりにも突然のことでスライも呆気に取られた。


「良かった……無事で……」


私は振り返り、コロナに向かって微笑んだ。

もう少し遅ければコロナはスライに吸収される所だった。


「ワカバお姉ちゃん……あのスライム……きっと私を傷付けないよ……」

「え ?」


私はコロナの言ってることが理解しきれなかった。

あいつはリトやフレアを吸収しようとした……。

コロナだって彼にとっては充分な餌だ。

その気になればすぐにでも補食出来たはずだ。

だけどコロナの言葉は嘘では無かった。

イリスも言っていたが、この都でのスライの行動は不可解なものだった。

建物を破壊し、騎士団を返り討ちにはしたが決して人の命は奪わなかった。

イリスやラゴンもとっくに吸収されててもおかしくなかった……。


「スライ……どうして貴方はこの街で人を吸収しないんですか…… ?」


私はスライと対峙しながら問い掛けた。

もしかしたら、スライは単なる悪ではないのではと思い始めた。


「分からない……俺のやっていることが……正しいのか……間違っているのか……」


スライは子供のように寂しそうな表情を浮かべながら消え入りそうな声で呟いた。




一方エルサ達はグラッケンの研究所を探す為、森の中を探索していた。

途中、魔物に襲われたりもしたが所詮エルサ達の敵ではなく、あっさりと返り討ちにした。

フライの案内もあってか、迷うことなく、短時間で研究所までたどり着いた。

人気の無い森林の奥地に建てられた、寂れた研究所……。

この中でグラッケンによるおぞましい実験が今でも行われていた。


「皆、気を引き締めろ……何が出るか分からんぞ……」

「グラッケン、待ってろよ……」


四人は覚悟を決め、心の準備を済ますと意を決して扉を開け、研究所の中へと入っていった。


To Be Continued

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