第二百三十五話・時間稼ぎ
「俺が奴の注意を引く、お前はミーデを連れてアジトに戻れ !」
トレイギアはスライを睨み付けながらゴブラに指示を出した。
ゴブラは肩に気を失っているミーデを担いでいる。
「トレイギア、お前はどうするんだ !」
「心配ない……それよりも今ミーデを失ううわけにはいかない……」
トレイギアでは更なる進化を遂げたスライに勝てるわけがなかった。
だがゴブラとミーデが逃げるだけの時間は稼げる。
「分かった……死ぬなよ…… !」
ゴブラはトレイギアの覚悟を受け入れ、ミーデを連れて逃走した。
村人のいない小さな村にスライとトレイギアだけが残った。
スライは触手を伸ばし、切り落とされた腕と繋げて瞬く間に再生した。
「ミーデのやつ……こんな化け物を味方につけようとしてたのか……」
トレイギアは乾いた笑いをするしか無かった。
いくら切断しても即再生し、相手の技を吸収して自分の物にする。
挙げ句に短時間のうちに進化する始末……。
こんな化け物がこの世に存在するんだということを思い知らされた。
「お前を食う……」
スライの思考は敵を補食することのみ……。
目の前には自分が食べたギラと同等、いやそれ以上の大物がいる。
何としてでも吸収してやる、そのことだけを考え、トレイギアに向かって走り出した。
人差し指を突き出し、熱線と黒い電撃を同時に放ち、トレイギアを襲う。
「くっ…… !」
トレイギアは放たれる熱線と電撃の中を掻い潜りながらスライに向かっていった。
「はぁぁぁぁぁ !」
スライの懐に飛び込んだトレイギアは巨大な剣状の腕を振り回し、スライの体を切り刻んだ。
柔らかいスライの肌がズタズタに切り裂かれていく。
「うおおおおおおおお !」
スライは獣のような雄叫びを上げながら反撃に出た。
拳を握り、力強く腕を振るい、トレイギアに殴りかかるがトレイギアはギリギリ当たる直前を見極め、かわし続けた。
体の急激な成長に動きがついていけなかった。
トレイギアにとってチャンスが舞い降りた。
動きの鈍いスライに徹底して攻撃を叩き込む。
「うおおおおおおおお !!!」
ザシュッ
スライの腹筋をトレイギアの剣状の腕が刺し貫いた。
ぴたっと動きが止まるスライ。
「フッ……混沌剣零距離 !!!」
トレイギアはニヤリと笑い、スライの体内に直接膨大な魔力を流し込んだ。
スライの体は耐えきれず、大爆発を起こした。
肉片が辺り一面に散乱した。
「はぁ……はぁ……上手く行ったようだな…… !」
トレイギアは今のでかなりの力を使い果たしたようだ。
剣状に変化していた腕が元に戻った。
「恐らく死んではいないだろう……完全に再生し終えるうちに撤退するか……」
トレイギアはよろめきながら立ち上がると村から去ろうとした。
その瞬間、強烈な寒気に襲われた。
背筋が凍りつくような感覚。
恐る恐る振り返ると、そこにはバラバラに散乱した肉片は何処にも無く、何事も無かったかのように五体満足で立っているスライの姿があった。
「馬鹿な…… !再生がこんなにも速いなんて…… !」
トレイギアは心臓が止まりかねない程驚愕した。
すぐに風を切るように走り、逃走を図った。
だがスライは赤く燃え盛る炎の翼を背中に生やすと空を滑空し、すぐにトレイギアに追い付き、立ち塞がった。
不死鳥の力の一端だ。
「くっ……」
スライは全身から蜘蛛の糸のように触手を伸ばし、トレイギアを拘束した。
ギラのように完全に吸収するつもりだ。
「離せ !離せぇ !」
スライムの拘束から逃れようと抵抗するトレイギア。
だが無駄な努力だった。
スライの魔の手がじわじわとトレイギアに迫る……。
ドゴオッ
突然巨大な岩が投げつけられ、スライを直撃した。
不意討ちを喰らい、スライは吹っ飛ばされ、民家に叩き付けられた。
「大丈夫か、トレイギア !」
ゴブラがトレイギアを助けに戻ってきたようだ。
「馬鹿野郎、ミーデはどうした…… !」
「安心しろ、丁度良いところにペルシアが現れてな、そいつにミーデを預けた」
「そうか…… !」
ゴブラはトレイギアの体にひっついたスライムの一部をひき剥がした。
「今のうちに撤退するぞ !」
「ああ…… !」
ゴブラのお陰で間一髪トレイギアは助かった。
二人はスライが倒れている隙に逃走し、村を後にした。
結局、新生魔王軍の計画は徒労に終わり、数人の部下と幹部のギラという犠牲を出しただけだった。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ !」
気合いで民家を吹っ飛ばしながらスライが現れた。
短時間のうちに吸収を続けた為、体には相当の負担がかかっており、スライは息苦しそうに膝をついた。
辺りを見回してみたが誰も居なかった。
もうここには用はない、スライは無人の村を後にし、森の中へと消えていった。
To Be Continued




