第二百三十二話・囚人フライ
エルサ、ヴェルザード、ルーシーは魔族の犯罪者達が収監されてる牢獄へとやって来た。
グラッケンの研究所について聞き出す為、憤怒の災厄のフライに面会を望んだ。
魔王軍を打ち倒した英雄の頼みとあらば断るわけには行かず、刑務官はフライとの面会を承諾した。
「面会は三十分だけだ、それを過ぎたら強制的に終了だ、速やかに帰ってもらう」
看守に案内され、エルサ達はフライが閉じ込められている檻の前までやって来た。
「ここか……想像以上に酷い場所だ……」
「下手をしたら僕もここに入れられてたんだね……」
エルサ達は苦い顔をしながら牢屋を見渡した。
鉄格子は赤く錆びており、掃除すらしておらず辺りは埃にまみれており、鼻が折れ曲がりそうな悪臭が漂っていた。
凶悪な面をした犯罪者達が檻に閉じ込められ、恨めしそうにエルサ達を檻越しに睨んでいた。
「おお、誰かと思えば、無限の結束じゃないか……ルーシーまで居るとはな……」
暫く歩いているとフライの牢屋を見つけた。
フライはうつ向いてた顔を上げると、久しぶりの客人に少し嬉しそうな様子だった。
劣悪な環境に長い間閉じ込められていたせいか、頬はこけ、大分やつれていた。
「久し振り……フライ……」
ルーシーは姉の腕を掴みながら小声で返事を返した。
「こんな所までやって来るとは、何か用でもあるんだろ ?」
「あぁ、お前にも関係があることだ」
「何 ?」
ヴェルザードは一旦深呼吸をした。
「グラッケンミラインが暗躍を始めた……」
その名を口にした途端、フライの顔がみるみるうちに強張った。
「おい、どういうことだ……」
フライは眉間に皺を寄せ、ヴェルザードに問い掛けた。
ヴェルザードはグラッケンミラインと彼の造り出した人工スライムについて事細かく説明した。
「成る程……あの野郎……性懲りもなく研究を続けていたのか……」
フライは憎々しそうに鉄格子を強く握り締め、乱暴に揺らした。
彼のグラッケンに対する恨みは相当なものだ。
身勝手に創られ、ロクな教育もされず、飯も与えられず、捨てられたのだ。
幼い頃から決して忘れられぬ憎しみを今でも抱いていた。
「私達は人工的に創られたスライムと、それを生み出した科学者、グラッケンについて調べてる……君はグラッケンによって創られた人造人間なんだろ? 何か知ってることがあれば教えて欲しい」
「ああ……教えてやるよ……奴に関することは何でもな……何なら研究所の場所も教えてやろうか ?」
「本当か ?だが子供の頃に捨てられたんだろ ?研究所の場所なんて覚えてるのか ?」
フライはニヤリと口角をつり上げた。
「あの忌まわしき場所……忘れたくても忘れられねえ……いつか研究所をぶっ壊してやると思ってたが、こんな所に入れられちまったからな……その代わり条件がある……」
フライの言葉に三人は息を呑んだ。
「一時的に俺をここから解放しろ、そうしたら研究所まで案内してやる」
「何だと……! そんなことが許されるはずが…… !」
エルサはキッとフライを睨み付けた。
「待てエルサ……で、目的は何だ ?魔王軍の再興か ?」
ヴェルザードはエルサを落ち着かせ、フライに問い掛けた。
「まさか、もうそんな事望まねえよ、俺はただ、あのクソッタレグラッケンを一発ぶん殴りてぇだけだ」
自分を捨てた男に復讐する……それがフライの目的だった。
「なぁ、本当に信用できるのか ?」
「大丈夫だよ、フライは嘘はつかないし、卑怯なこともしない……」
半信半疑なエルサだったが、ルーシーの言葉を信じ、半ば納得した。
ヴェルザードもフライが狡猾な男だとは思わなかった。
以前拳を交えたから分かる。
「それに、戦力は多いに越したことはないと思うぜ、相手はあの天才科学者だ、用心棒としてどんな化け物を創ってるか分かったもんじゃねえ」
ヴェルザードの言う事も一理ある。
フライの強さは憤怒の災厄でも上位に値する。
敵としてなら厄介だが味方としてなら心強いことこの上ない。
「ルーシーが言うなら……分かった……私が君の監視をする、もし少しでも不審な動きを取ったなら君をその場で斬り殺す、それで文句無いな ?」
「ありがとよ、無粋な真似はしねえさ」
交渉は成立した。
こうして、フライはエルサ達の監視の元、スライ事件が解決するまでの間、一時的に釈放された。
刑務官から猛烈な反対を受けたが、強引に説得した。
念の為、彼が所持していた武器は持たせないことにした。
万が一の時にハンマーで反撃されるかも知れないからだ。
「グラッケンの野郎、顔面が変形するくらいボコボコにしてやるから楽しみにしてろよ~」
グラッケンはヤル気満々に指をゴキゴキと鳴らしていた。
「相変わらずのようで安心したよ」
「お前こそ、平和ボケして日和ってないよな ?」
「僕は前より強くなってるけど ?」
ルーシーとフライは以前と変わらぬ軽口を叩き合った。
その楽しげな様子を、エルサは複雑な表情で見つめていた。
「元々仲間だったからな……」
「このままルーシーがまた悪の道に戻ったらどうしようって思ってないか ?」
ヴェルザードはボーっとしていたエルサに声をかけた。
「ば、馬鹿者! そんなはず無いだろ! ルーシーは良い子だ !」
エルサはムキになって反論した。
「兎に角、グラッケンの研究所を探しに行くぞ !」
何はともあれ、ヴェルザード、エルサ、ルーシー、フライの四人はグラッケンの研究所を探すべく、森林の奥地へと向かった。
To Be Continued




