第二百三十話・無敵のフレア
スライに捕食されそうになっていたリトの窮地を救ったのは腰ほどまで長いツインテールの綺麗な女性だった。
赤く煌めく髪、キリッとした目付き、人形のように整った顔、豊かな胸にモデルのように長い脚……。
私は目の前の美人が何者か分からず、きょとんとした。
「ん ?貴様、私が誰か分からないのか ?」
その高く美しい声と高圧的な口調から私はやっと理解した。
姿は変わったが彼女こそ不死鳥、フレアだ。
「でも何で人の姿なんですか…… ?しかも人間の……」
「実体化するのに貴様の魔力では足りなかったのでな……この姿になることで消費魔力を抑えるしか無かったのだ」
フレアは不服そうにしながら自らの体を触った。
巨大な不死鳥の召喚は今の私では負担が大きすぎたようだ。
「ま、どんな姿になろうと、結果は同じだがな、どうだ ?悪くないだろ ?」
フレアは自慢気にセクシーポーズを決め、私に見せつけてきた。
正直嫉妬する……。
「何だ……この女…… !?」
フレアの内に秘められた強大な魔力を本能で察し、スライの体は小刻みに震えていた。
「助かりました……フレアさん……不本意ですがお礼を言わせて頂きますね……」
「全く、あのような者に手こずるなどイフリートの名が泣くな……さっさとランプに籠って魔力を回復させろ」
フレアは見下した声でリトに告げた。
「ふん、さっきは油断しただけですよ、まだまだ奥の手は残していましたし……」
リトは不満そうにブツブツ言いながらランプの中へと吸い込まれていった。
「さあ、スライムよ、この私を喰えるものなら喰ってみるが良い」
フレアは高圧的な態度で手招きし、スライを挑発した。
「くっ……うおおおおおおお !」
スライは獣のような雄叫びを上げ、大地を蹴り上げると加速しながらフレアに襲いかかった。
「ふんっ !」
ドゴオッ
「がはっ !?」
フレアは長い脚で勢い良く蹴り上げ、スライの腹筋をめり込ませた。
丸太で貫かれたような衝撃が走り、あれだけ勢いのあったスライの動きが一瞬で止まった。
「せいやっ !」
フレアは華麗に高くジャンプするとスライの後頭部に踵落としを決め、地面に叩き付けた。
スライは顔が地面に埋まり、身動きが取れなかった。
彼女はたった二撃でスライを制した。
しかも炎の魔力を使わずにだ。
「思ったより動きやすいな……この体……存外悪くないぞ ?」
フレアは自らの手のひらを見つめながら満足そうにしていた。
彼女は長い間魔女のエクレアに取り憑いていた。
だから人型にすぐ馴染めた。
下手をすると本来の姿よりも身軽で便利かも知れない。
「す、すごい……」
私はポカーンと口を開けながら呆然としていた。
この人……もしかしたらリトより強いかも知れない……。
「そんな……スライ !」
グラッケンは青ざめた表情で激しく狼狽した。
自慢の最高傑作があっさりと倒されたのだ。
「さて……そろそろとどめを刺してやろうか……イフリートの炎ではすぐに再生するだろうが、私の炎は灰すら残さぬぞ ?」
フレアは無抵抗のスライに向けて手を翳し、炎を纏い始めた。
「さらばだ…… !」
フレアが炎を放とうとした瞬間、水色のブヨブヨとした柔らかい物体が背後から彼女を襲った。
「何 !?」
ザバァッ
一瞬気付いたものの遅かった。
水色の物体がフレアに覆い被さり、包み込んだ。
地面に埋まったスライの顔が気付かれぬよう地中を掘り進み、フレアを背後から狙ったのだ。
「出かしたぞスライ !そのまま吸収してしまえ !」
スライの奇策に歓喜しするグラッケン。
「フレア !そんな……フレアまで……」
いくら強くても油断して吸収されては意味がない。
このままではリトの二の舞になってしまう。
だがそうはならなかった。
「隙を突いて私を食らう……上出来な作戦だったが……貴様は一つ見落としていたな……私が不死身だと言うことを !」
フレアはスライの体内で閃光を放つと内側から爆発を起こした。
スライの肉体は粉々に吹っ飛ばされ、肉片が辺り一面に散らばった。
「ふう……その程度の実力で最強を名乗るな、愚か者が」
フレアはため息をつきながら体についた肉片を払った。
「心配したじゃないですかぁ……」
私は安堵し、ホッと胸を撫で下ろした。
フレアは得意になってドヤ顔を決めていた。
だが安心してばかりもいられない。
飛び散った肉片は瞬く間に集合し、再生を遂げ、元の人型の姿に戻った。
「はぁ……はぁ……」
流石に何度も再生したせいか、スライは息を切らしていた。
スライの魔力自体は無限では無いようだ。
「うっ……スライ、撤退だ…… !今のお前では奴等には勝てん !」
負けを確信したグラッケンはスライに撤退命令を出した。
スライは悔しそうに拳を握り、歯軋りしたが已む無くグラッケンに従った。
「覚えておけ小娘 !スライは更に他の生命体を吸収し、いずれ貴様らを超えてやるからな !」
「次は……倒す…… !」
グラッケンとスライは捨て台詞を残すと足早にこの場を去ってしまった。
「お、終わったぁ……」
スライとグラッケンが居なくなり、私は緊迫した空気から解放された。
気が緩んだのか腰が抜け、ヘナヘナとへたり込んだ。
「情けないな、それでも私の召喚士か」
フレアは無愛想に私の腕を掴み、肩を貸してくれた。
「ありがとう……フレア……でも大丈夫…… ?フレアもスライムに吸収されかけたんでしょ ?」
「心配ない、私は不死身だ……それでも奴にこの私の力の一端を与えてしまったがな……」
フレアは嫌悪感を露にしながら歯を食い縛った。
元々不死身なのでいくら吸収されても大してダメージは無い。
「まあ良い……まだ時間はある……家まで肩を貸してやる」
「ありがとう……」
私はフレアに支えられながら何とか帰還した。
帰ってから私は今日の出来事を皆に報告した。
謎の天才科学者、グラッケンと最強のスライム、スライ。
今回は何とか撃退したがまたいつ襲ってくるか分からない。
しかも強さに際限が無く、このまま放置すれば取り返しのつかないことになるかも知れない。
私達は今後の対策について話し合うこととなった。
To Be Continued




