第二十一話・初めての稽古
私達は騎士団「無限の結束」を結成した。
その後、国王に会って正式に手続きをした。戸籍も何も無い素性の分からない私達を受け入れてくれるか不安だったが、杞憂だったようだ。国王は案外寛容な性格だった。
私達の主な仕事は、依頼を受け、犯罪を犯す悪い魔族や盗賊などを退治したり、目覚めた魔獣を倒すというシンプルなものだった。
私は今まで戦いというものには無縁の世界で生きてきたので当然力はない。召喚士というのもたまたまリトと契約を結んだからそうなってるだけであって私自身はただの一般人レベルだ。
そこで私は訓練所でエルサに稽古をつけてもらうことにした。少しでも強くならなきゃいけなかったから。
エルサの考えたメニューは腹筋100回、腕立て伏せ200回、背筋200回。これだけでもう死にそうだ。
そりゃこんだけこなせば筋肉質な体に嫌でもなるよ……。
数時間後、私は満身創痍になり、仰向けになってダウンしていた。
「エルサさん……ごめん……ちょっと休憩……」
「む…仕方ない、あまり無理をするなよ」
既に無理してるんですが……。
エルサはこの地獄のメニューを涼しい顔でこなせる。
「主、頑張って下さい !主が強くなってくれば、私も嬉しいです」
リトはランプの中から話し掛けてきた。
「リトは良いですよね……実体化を繰り返すだけで強くなれるんだから……」
「正確には力を取り戻すですがね」
まあ人間と魔人だ。比べても仕方がない。
「でもエルサさんはすごいですよ、こんだけのメニューをこなしてるんですから」
「まあな、私はどうしても強くならなくてはいけない。人々を苦しめる、魔獣を倒すために……」
エルサは魔獣を強く憎んでるようだった。
何故そこまで憎むのかはわからなかった。
休憩が終わり、私達は稽古の続きをした。
筋トレは一段落したので剣術の稽古をすることにした。剣道くらいやっとけばよかったなぁと少し後悔した。
私は木の棒を持ち、剣術の手解きを受けた。素人なので、当然酷い有り様だった。
いきなりエルサのように華麗に剣を使いこなすことは出来ない。地道に練習するしかなかった。
「はぁ……はぁ……腕が痺れる……」
「おいおい、本物の剣はもっと重いんだぞ?一回私の愛剣を持ってみろ」
エルサは剣を貸してくれた。
「良いんですか ?」
「構わんさ」
私はエルサの剣を持ってみた。ズシンと腕に重力がかかり、私は剣を落としそうになった。まるでバーベル、いやそれ以上だ。私は持つだけで精一杯だった。
「エルサさん……こんなものを軽々扱えるなんて、やっぱり凄いですね……」
「何、ワカバもいつかこれくらいの剣を扱える日は来るさ。初めは誰だって初心者だからな」
「その通りです !主もいつか剣を使いこなせる日が来ます !」
そうだ、まずはコツコツと積み上げていこう。一日でも早く強くなって、皆の足を引っ張らないように。
翌日、全身筋肉痛で悲鳴を上げていた私の所に一通の手紙が届いた。
配達人から手紙を受け取ると私はエルサに見せた。
「これは……皆聞いてくれ !仕事が来たぞ !」
手紙の内容は仕事の依頼のようだった。
エルサはこの場にいる全員を集めた。
「仕事ですか ?」
「ああ、何でも最近、半魚人の村で魔獣が復活したので退治して欲しいそうだ」
「半魚人……ですか ?」
半魚人とは半身が魚であるあの種族のことである。
「半魚人の村長直々の頼みでな。兎に角大至急村に来てほしいとのことだ。かつて巨大蜘蛛の魔獣を我々が倒したと風の噂で聞いたらしい」
噂は瞬く間に広まっていたようだ。
「何、面白そうじゃねえか、俺にも行かせてくれよ」
珍しくヴェルザードは乗り気だった。
「ご主人様、体はもう大丈夫なのですか ?」
リリィは心配してる様子だった。
「ああ、もう平気だ」
「でもご主人様が外で魔獣と戦うなんて…今まで洋館から出たことの無かったご主人が……心配です !私も同行します !」
「お前は俺のお母さんかよ !」
ヴェルザードは嫌そうな顔をしていた。
「兎に角決定だな、明日半魚人の村に出発するぞ」
「はい !」
何はともあれ、いよいよ無限の結束の初仕事。期待と不安が両方入り混じってきた。
To Be Continued




