第二百二十五話・親子水入らず
皆さんこんにちは!
この話を持って「不死鳥の涙編」完結になります!
次回から新章に入りますので引き続き「ランプを片手に異世界へ」応援宜しくお願いします!
不死鳥の涙の起こした事件は不死鳥がランプの中に封印されたことで幕を閉じた。
不死鳥に体を乗っ取られていたエクレアは寧ろ被害者ということでお咎め無しだった。
彼女は行く宛も無いので「オールアプセクトハウス」で保護することになった。元々薬剤師だったのでエクレアには薬を開発してもらうことになった。
コロナとエクレア……。一度は引き離された親子だったが紆余曲折を経て、再び一緒に暮らせるようになった。
エクレアの弟子だった魔術師五人のうちリーダー格のウエンツは死亡。
コルト、ゾーラ、シャロン、エイワス……。残る四人の魔術師達は捕縛され、罪を償う為、魔族専用の監獄に入れられた。
残された雷獣はと言うと、ウエンツが死亡したことで契約が切れた為、再びエクレアと契約を交わすことになった。
元々雷獣は彼女の召喚獣だったが不死鳥が勝手にウエンツと契約させたのだ。
ウエンツとは固い絆で結ばれていたようで、今でも主の死を引きずっていた。
「ただいま……」
魔術師達との戦いを終えた私達は帰還し、数日が経過した。
リリィの懸命な看病もあって、重傷を負っていたミライ、ルーシーもすっかり元気になった。
後遺症も無くて何よりだ。
「ルーシー……もう二度と君を酷い目に合わせないからな……」
「お姉ちゃん……」
エルサは涙を浮かべながら最愛の妹を抱き締めた。
「僕ももっと強くなる……お姉ちゃんに心配かけさせないように……」
「ああ……だが無茶はするなよ……」
ルーシーはエルサと抱き合いながら誓いを立てた。
「リリィちゃんが夜遅くまで看病してくれたお陰だよ~」
「友達だもん、おっとけないよ」
仲良く微笑み合うリリィとミライ。
リリィとミライはこの一件から更に絆を深めていた。
実際二人が無事回復したのは寝る間も惜しんで看病してくれたリリィの力が大きかった。
この日、皆はリビングに集まっていた。
「オールアプセクトハウス」の新たな住人、エクレアを紹介する為だ。
「あの……皆さん、娘がいつもお世話になっております……母のエクレアと申します……宜しくお願いします…… 」
エクレアは深々と皆に向けて頭を下げた。
そこにはかつての高圧的な面影は無く、おしとやかで母性に満ち溢れた母親の姿があった。
「此方こそ、これからも宜しく頼みます、エクレアさん」
エルサはエクレアと握手をかわした。
身体中を覆っていた緊張が解け、笑顔を浮かべるエクレア。
コロナは他のメンバーと打ち解けてる母親を遠目に見ていた。
「良かったね、お母さんと一緒に暮らせて」
私はコロナを見つめながら微笑みかけた。
「……うん……もう叶わないかと思ってた……お母さんともう一度会えるなんて……不死鳥がしたことは悪いことなのは分かってる……でも、不死鳥が居なかったら、お母さんは生きていなかった……」
コロナは母が生きていたことに対する嬉しさの他にも複雑な思いを抱いていた。
不死鳥は母親の体で悪事を働いていた。更に自分を殺そうともした。そして彼女を庇ってウエンツは死んだ。
感謝するべきなのか……恨みを忘れずにいるべきのかまだ分からなかった。
私はランプを見つめた。
不死鳥は死んだわけじゃない。まだこの中に封印されている。
今はリトやコダイが目を光らせているがいつ復活するか分からない……。
事件の傷痕はまだ根強く残っていた。
私としては不死鳥のことを許す必要は無いと思っている……。
午後になり、コロナとエクレアは墓参りに向かった。
人気の無い草むらに二つの長方形の石が立てられていた。
一つはロウ、もう一つはウエンツの名前が刻まれていた。
エクレアの名前が刻まれた墓は既に撤去されている。
必要が無くなったからだ。
「久し振り……ロウ……元気にしてた…… ?」
コロナはロウの墓に話しかけながら花束をそっと置いた。
「私は何とかやっていけてるよ……前よりもっと強くなれたし……そうだ、紹介したい人がいるんだ……私のお母さん……」
コロナに背中を押され、エクレアはロウの墓の前で膝をついた。
「私はコロナの母です……ロウさん……娘を助けて頂いて、ありがとうございました……」
エクレアはロウの墓の前で深々と頭を下げた。
ロウに拾われなければ、コロナはこの世には居なかった。
感謝してもしきれない程だった。
「それと……ウエンツくんには悪いことをしたわね……」
エクレアは罪悪感に満ちた表情でウエンツの墓を見つめた。
彼女自身に罪はないが、不死鳥に乗っ取られ、結果としてウエンツの人生を狂わせたことに変わりは無かった。
自分より若い魔術師の命が失われたことに胸を痛めていた。
「お母さんは悪くないよ……ウエンツさんは……私を庇って……」
ウエンツは咄嗟に不死鳥の炎からコロナを庇って命を落とした。
コロナはその事で自分を責めていた。
もしあの時動けていれば、ウエンツが命を落とすことは無かったかもしれないと……。
「そうね……でもウエンツ君は……最後に思い出したのよ……自分が本当に守りたかったものが何だったなのか……」
エクレアは自分を責める娘の頭を撫でながらなぐさめの言葉をかけた。
エクレアの言う通り、ウエンツは見つけたのだ。
誰かを救うこと……それだけが彼の望みだった。
長い間カナリアを生き返らせることだけに執着して、心が薄汚れ、いつしか忘れてしまったが、最後にコロナを守ったことで心が満たされたのかもしれない。
「私達は……失敗から目を背けず……前を向くしかないのかもしれないわね……」
「大丈夫だよ、お母さん……」
コロナは澄んだ瞳でエクレアの顔を覗き込んだ。
「私はもう一人じゃない……クロスやワカバお姉ちゃん……仲間が沢山いるから」
コロナは笑顔で答えた。
エクレアは娘の一点の曇りのない笑顔を見て心の底から安心した。
「コロナ……暫く見ないうちに成長したわね……」
子供は親の知らぬうちに成長するもの。
母と別れてからコロナは荒波に飲まれ、様々な苦難を乗り越え、魔女として、人として強くなった。
コロナの笑顔を見ただけで伝わってくるものがあった。
「でも、辛い時はお母さんに甘えなさい 、もう二度と貴女を手放さないわ……」
「うん……お母さん……」
コロナはエクレアの肩に寄り添った。
子離れ出来ていないのは彼女の方かも知れない。
それでもずっとコロナのそばにいようと決めた。
今度こそ娘の成長をそばで見守り続けたい……。
そう胸に誓うエクレアであった。
To Be Continued




