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ランプを片手に異世界へ  作者: 烈斗
不死鳥の涙編
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第二百二十四話・封印された不死鳥



「ここは……何処だ…… ?」


目が覚めると、不死鳥(フェニックス)は魔法のランプの中にいた。

辺りを見回すと果てしない暗闇が広がっていた。

周りには障害物も何もなく、まさに無の空間だった。


「そうか……私はイフリートと古代の魔獣と戦って……」


不死鳥(フェニックス)は自分の身に何が起こったのかを察した。

リトとの戦いの果てにランプの中に吸収されてしまったのだ。


「くっ……漸く自由になれたというのに……再び封印されるとは……こんな所、すぐに突き破ってやるぞ !」


不死鳥(フェニックス)は翼を広げ、一直線に上昇し、鋭い嘴で内側から突き破ろうとした。


「無駄ですよ」


若い男の声が響き渡った。

不死鳥(フェニックス)の動きが止まる。

明らかに聞き覚えのある、忌まわしい声だ。


「貴様は…… !イフリート !よくも私を封印してくれたなぁ !」


いつの間にか不死鳥(フェニックス)の目の前にリトの姿があった。

彼の姿を見るや否や憎悪に満ちた声で怒りをぶつける不死鳥(フェニックス)


「この世界では召喚獣は無力です、外界に干渉することは出来ません」


リトの背後ではイビキをかきながらコダイが横になっていた。


「ふざけるな…… !こんな世界に貴様らはずっと過ごしていたのか !」

「慣れれば快適ですよ ?ここは痛みも苦痛もないですからね……ねえ ?」


リトはコダイの体を撫でながら言った。


「こうなったら……貴様だけでも倒してやる !」


不死鳥(フェニックス)は脚の鈎爪でリトを切り裂こうとした。

だがいくら引っ掻いてもリトの体をすり抜けてしまい、意味がなかった。


「無駄ですよ、この世界では私達召喚獣は互いを傷付けることは出来ません、いざという時に怪我をしたまま実体化(リアライズ)するわけにはいきませんからね」


リトは笑顔を浮かべていた。

悔しさに顔を歪ませる不死鳥(フェニックス)

だがいくら足掻こうとどうにもならない。

不死鳥(フェニックス)は果てしない天井を見上げながら悟った。


「それに心配することはありません、永久に出られないわけではありませんから……私達は戦う時だけ主の魔力によって実体化(リアライズ)出来ます、主の魔力が尽きるまでいくらでも外界に留まることが可能です」

「それは即ち……私があの小娘の召喚獣となるということか……」


不死鳥(フェニックス)はワナワナと身を震わせた。

伝説の幻獣である彼女が人間の小娘に従うなど屈辱以外の何物でも無かった。

人間の召喚獣になり下がるくらいなら彼女は死を選ぶだろう。

最も不死である為死ぬことは不可能だが……。


「主に従わないというのならそれもまた結構です……そのかわり、貴女はもう陽の目を見ることはなく一生を暗闇で過ごすことになりますけどね」


リトは意地悪そうに笑みを浮かべた。

その言葉は不死鳥(フェニックス)にとって死刑宣告のようなものだった。

数千年もの間、勇者によって封印され、精神体だけ漸く自由になり、肉体を取り戻す為時間と労力を費やした。

やっとの思いで復活したと思いきや再び暗い牢獄の中に閉じ込められる羽目になった。

憎き宿敵とこの空間で永遠とも言える長い時間を過ごさなければならない。

常人なら発狂ものだろう。


「おのれぇぇぇぇぇ !!!」


不死鳥(フェニックス)はどうしようも無くなり、悲痛な叫び声を上げるしか無かった。

一人の魔女の自由を奪い、五人の魔術師を騙し、幼い少女までも利用しようとした不死鳥(フェニックス)は自由と誇りを奪われるという因果応報な末路を遂げた。




「う……あれ……私は……」


私は目が覚めるとコロナの膝に頭を乗っけていた。


「良かったぁ……心配したんだよ……」


コロナは私が目を覚ましたことで安堵の表情を浮かべていた。

私はリトとコダイを同時召喚したことで魔力を使い果たし、気を失っていたようだ。


「そうだ……不死鳥(フェニックス)は !?」

「心配ない、この中だ」


ヴェルザードはランプを指指した。


「そうなんだ……って全然心配ありますよ !不死鳥(フェニックス)がこの中に入っちゃったんですよ !?」


私は慌てふためきながらランプをつついた。

よく考えたらとんでもない事態だった。

何かの拍子でランプから不死鳥(フェニックス)が復活するかも知れない。

時限爆弾を抱えているようなものだった。

私にはあまりにも荷が重すぎる……。


「お前なぁ……リトやコダイなんて化け物がランプの中に入ってるってのに今更何言ってんだよ」


ヴェルザードは呆れた様子だった。


「そ、それはそうですけど……」

「中でリトとコダイが目を光らせてるだろうからあいつも好き勝手に出来ないだろ。それにリトが言ってたじゃねえか、召喚獣が実体化(リアライズ)するにはお前の魔力が必要だって、仮に不死鳥(フェニックス)が外に出たとしてもお前の魔力が尽きたらランプの中に引き戻される……何の問題もねえ」


確かにヴェルザードの言う通りだ。

強制ではあるけど私は不死鳥(フェニックス)と契約を結んでいる……。

不死鳥(フェニックス)は既に立派な召喚獣だ。

自由になれてもそれは一時的なもので主である私が倒れればすぐにランプに引き戻される……。

契約によって縛られ、不死鳥(フェニックス)はもう好き勝手は出来ないのだ。


「それを聞いたら安心しました……」


私はホッと胸を撫で下ろした。


「そうだ……他の魔術師達はどうなったんですか ?」

「ああ、あいつらならあそこだ」


ヴェルザードは人差し指である方向を指した。

そこにはエルサによって拘束され、動きを封じられた四人の魔術師の姿があった。

魔術師達の身柄は監獄に引き渡されることになっていた。

あれだけ戦い抜いた後にも関わらずエルサは休むことなく真っ直ぐ監獄に向かうつもりだ。

流石としか言い様が無い。


コルト達は既に戦意を失い、生気を奪われたような脱け殻の状態だった。

無理もない、不死鳥(フェニックス)に駒として利用され、騙され、挙げ句に大切な仲間であるウエンツまで殺されてしまった……。

野望も潰え、空っぽになった彼等には最早抵抗する気力すら残っていなかった。


「俺達……罰が当たったみてえだな……」

「死人を甦らせるなんて……所詮は夢物語だったんだ……」


うつ向きながら力ない声で呟く魔術師達。

今まで好き勝手に暴れていたとは言え、あまりにも哀れで見てられなかった。


「泣き言を言うな、君達のすべきことは過去にすがりつくことじゃない、生きて罪を償うことだ」


エルサは腕を組みながら厳しく四人を諭した。

四人は彼女の気迫に圧倒され、タジタジになっていた。




「うっ……」


クロスに抱き抱えられていたエクレアの意識が突然戻り始めた。

ゆっくりと瞼を開くと、暗闇に閉ざされていた視界に色がつき、沢山の人達の姿が目に映った。

そして彼女の目は一人の少女の姿を捉えた。

間違いない、コロナ……たった一人の娘だ。


「コロ……ナ…… !」

「お母……さん…… !」


名前を呼ばれ、母が目を覚ましたことに気付いたコロナは一目散に母の胸に飛び込んだ。


「お母さん…… !会いたかったよぉ…… !」

「コロナ……コロナ…… !」


互いに抱き合い、涙を流すコロナとエクレア。

もう二度と会えないと思っていた。

辛くなるからと忘れようとしていた。

ずっと押さえていた母への愛が滝のように湧き出る。

コロナは人目も憚らず、顔を真っ赤にしながら大泣きした。

感動の親子の再会に、私を含め皆もらい泣きをしていた。


「……コロナ……本当に良かったな……」


普段はクールなクロスも柄にもなく目頭を熱くしていた。

マルク、ヴェルザードも照れ臭いのかこっそり布で涙を拭いていた。

グレンなんて鼻水を垂らしながら豪快に男泣きをしていた。


長かった魔術師達や不死鳥(フェニックス)との戦いも遂に終わりを告げた。

仲間が傷つけられたり、悲しいこともあったけれどコロナとエクレアがもう一度家族に戻れて、本当に良かったと思っている。

一度切られた絆もいつか元に戻れる日がきっと来る。

私はそう思った。


To Be Continued

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