第二百二十話・面影
「おい……嘘だろ…… !」
「何で……お前が…… !」
魔術師達は信じられない光景を前にして言葉を失い、愕然としていた。
「愚かだな……」
不死鳥の怒りの炎はコロナめがけて放たれ、彼女を焼き尽くした。
そのはずだったが、寸での所で何者かが炎から彼女を守った。
ウエンツだ。
無謀にも飛び出すと彼女の前に立ち、己の身を呈して庇ったのだ。
誰もこの展開を予想出来なかった。
あの不死鳥ですらも……。
「がはっ…… !」
「ウエンツ…… !」
既に雷獣と一体化した代償でウエンツの体はボロボロだった。
それに加え、不死鳥の攻撃をまともに浴びたのだ。
致命傷を負い、彼はもう助かる見込みは無かった。
背中は黒く焦げ、身体中が焼け爛れた。
ウエンツは吐血するとコロナの目の前で崩れるように倒れた。
「ど……どうして……私を……」
コロナは震える小さな手でウエンツを抱き起こした。
「……昔……僕には……君ぐらいの……年の幼馴染の……女の子が居たんだ……名前はカナリア……君の姿を……あの子と無意識に……重ねて……気が付いたら……体が勝手に動いていた……」
コロナの膝に頭を乗せ、息も絶え絶えになりながら話を続けた。
「死人が蘇える……なんて……そんなおとぎ話みたいな都合の良い話なんてあるわけないって……心の何処かでは思ってた……だけど……それにすがるしか無かった……僕には……耐えられなかったんだ……」
「もう良いよ……喋らないで…… !」
コロナは涙を浮かべながら必死に叫んだ。
段々とウエンツの肌が冷たくなっていくのを感じる。
あの時の二度と味わいたくない感覚を思い出した。
自分を救ってくれた恩人、ロウの最期を看取った時と同じだ。
例え悪党でも、目の前で命が消え行くのは辛いものだった。
「カナ……リア…… 」
ウエンツはうわ言のようにかつての幼馴染の名前を呟きながらコロナの頬にそっと触れた。
意識も朦朧とし始め、幻覚まで見えるようになっていた。
彼の目にはコロナがカナリアとして映っていた。
「待っててくれ……君に……すぐに会いに行くから……」
ウエンツの瞳から光が消えた。
穏やかな表情で微笑むと、ゆっくりと瞼を閉じた。
手首から力が抜け、だらんと垂れ下がった。
やがてウエンツは安からな表情のまま、静かに息を引き取った。
不死鳥の涙、雷の魔術師の最期だ。
一つの願いを叶える為に多くの人々を傷付けてきた男が最後の最後で本当に守るべきものを命を賭して守り抜いた。
願いこそ叶えられなかったが、彼の心は少しだけ救われた。
「ウエンツウウウウウウウウ !!!」
彼の理解者であったコルトは泣き叫んだ。
他の魔術師達も友の死を悲しみ、嗚咽を漏らした。
雷獣も相棒を失い、悲しい表情で遠吠えを響かせた。
私達は呆然と立ち尽くし、かける言葉が見つからなかった。
「貴女……相変わらず性格が悪いですね……」
ランプの中のリトが静かに怒りを露にした。
「人間がどうなろうと知ったことではない、まさか敵を庇って死ぬとは思わなかったがな」
この期に及んでウエンツを侮辱する不死鳥。
「てめえ……俺達を騙した挙げ句……ウエンツまで殺しやがって……許さねぇ !」
コルトは激しい怒りに顔を歪ませ、自分を縛る蔓を無理矢理引きちぎると無謀にも不死鳥に向かって走り出した。
「コルト !」
「喰らええええええええ !」
コルトは巨大な金属の塊を生成すると不死鳥に向かって投げつけた。
「そんなものが効くと思うのか !」
だが不死鳥は力強く翼を羽ばたかせ、突風を巻き起こし、金属の塊を粉々に破壊した。
「そんな…… !」
魔力を消耗しているとはいえ、コルトの力は不死鳥には遠く及ばなかった。
コルトは圧倒的な力の差を思い知り、すぐさま膝をついしまった。
「貴様らはもう用済みだ……消し炭になれ」
不死鳥は嘴を開くと炎を吐こうとした。
だがその時、雷獣が高くジャンプし、不死鳥の背中に飛び乗った。
「何だ…… !貴様…… !」
ビリリリリリ
雷獣は不死鳥の背中にしがみつくと咆哮を上げ、全身から電撃を放出させ、不死鳥を感電させた。
「ふう……良いマッサージになるなぁ……」
だが不死鳥にはまるで効いていなかった。
雷獣はウエンツと契約を結び、同調することで力を増幅させていた。
だがウエンツが死亡し、契約が切れてしまったことで魔力供給が途切れ、雷獣は大幅に弱体化してしまった。
更にリトとの戦いで消耗していたのもあり、雷獣の魔力は並の魔物以下まで下がっていた。
「エクレアの召喚獣よ……貴様とは長い付き合いだったな……だが私に逆らうのなら容赦はせんぞ !」
不死鳥は激しく暴れ、背中にしがみついた雷獣を振り落とし、大地へ叩きつけた。
雷獣は全身を地面に打ち付け、仰け反りながら苦しそうに横たわった。
「フフフ……フハハハハハ !」
空に響き渡るような声で高笑いをする不死鳥。
ヴェルザード達は不死鳥を見上げながら拳を震わせていた。
「あの鳥野郎……好き放題しやがって……」
「お灸を据えてやらんとな……」
ヴェルザード、マルク、エルサの三人はそれぞれ不死鳥に対して戦闘体勢に入った。
先の戦いで魔力を消耗しているものの、ここで逃げ出すわけには行かなかった。
復活した怪物を放っておくのは危険だ。
「グレン、クロス……お前はエクレアとコロナを頼む」
「わ、分かったよ……」
マルクはグレンに後ろで待機するよう命じた。
ここから先は子供の出る幕ではない。
私達は三人を信じ、後ろに下がることにした。
「何が不死鳥だ、こちとら魔王とやり合ったこともあるんだ !鳥風情が調子に乗るんじゃねえぞ !」
マルクは不死鳥に指を指して威勢良く喧嘩を売った。
「半魚人ごときが……後悔させてやるぞ……雑魚がいくら集まった所で不死鳥である私には勝てん !」
不死鳥は巨大な翼を羽ばたかせ、強風を巻き起こし、三人を威圧した。
「やってみなきゃわかんねえよ、そんなもん」
「その通りだ……私達は無限の結束だ !」
ヴェルザードは自らの血で造った短剣を握り、エルサは鞘から細長い剣を抜き、刃を不死鳥に向かって突き付けた。
ヴェルザード達がこれから戦おうとしている相手は太古の昔からこの世界に君臨していた伝説の幻獣、不死鳥(フェニックス……。
今までの相手とは次元が違う。
果たして三人は幻獣を打ち倒す事が出来るのか……。
To Be Continued




