第二百十八話・解き放て、魔女の光
コロナは全ての力を出しきったものの魔女エクレアには全く通用しなかった。
最大の魔法「光冠爆破」ですらも意味をなさなかった。
茫然自失となるコロナ。
とどめを刺そうとエクレアの放ったエネルギー波が無慈悲にもコロナを焼き尽くす。
かに見えたが……。
「う……何…… ?」
コロナは恐る恐る瞼を開いた。
体は何ともない。消し飛んであの世に行ったわけではなさそうだ。
ちゃんと五体満足で生きている。
「な……何故だ……」
エクレアの放ったエネルギー波はコロナには当たらなかった。
彼女はその手をコロナでは無く、屋敷の方へ向けていた。
放たれたエネルギー波は屋敷を木っ端微塵に消し飛ばした。
「エクレア……様…… ?」
突然の主の奇行を目の当たりにして魔術師達は困惑していた。
エクレア自身も訳がわからなかった。
体が勝手に動き、コロナへの攻撃を外させたように見えた。
「く…… !今になって……私の支配に逆らうというのか !」
エクレアは意味不明なことを口走りながら大量の汗を流し、自らの片腕を必死な形相で押さえた。
全身にはスパークが走り、息も荒くなっていた。
明らかに尋常でないエクレアの様子にコロナはポカンとしていた。
「エクレアのやつ……様子が変だぞ ?」
「まるで内側の何かを抑え込もうとしているようだな……」
エクレアの表情は苦痛で歪み、内側から破裂しそうな激痛に襲われていた。
そしてその隙を逃さぬ者がいた。
「はぁぁぁぁぁぁぁ !」
ズバアッ
クロスはいつの間にかエクレアに迫り、鋭利な翼で彼女の胸を切り裂いた。
「うぐっ…… !」
赤い血の雫が宙を舞う。
エクレアは第三者の介入を許してしまった。
不意打ちを喰らい、怯みながら後退る。
「今だ !」
クロスはエクレアの指から指輪を強引に外し、雑に放り投げた。
指輪は草むらの中へと消えていった。
「き、貴様ぁ !」
痛みに悶絶しながらもエクレアは怒り、苦し紛れにクロスに炎を放った。
「ぐっ !」
本来ならばクロスなど一瞬で消し炭になっていただろう。
だがそれは神器である指輪の力があってこそだった。
指輪の恩恵を失い、威力が急激に低下した炎ではクロスを焼き払うことは出来なかった。
クロスは腕をクロスさせ直撃を防ぎ、吹っ飛ばされながらも何とか踏み留まり、コロナのそばに並んだ。
「はぁ……はぁ……コロナ、今のエクレアはどういうわけか弱っている……畳み掛けるなら今しかないぞ !」
「で、でも……どうやって……」
最大級の技も防がれ、すっかり自信を無くしたコロナ。
クロスはそんな彼女の肩を揺らしながら説明をした。
「今こそ君の中に眠る四大元素の力を解放するんだ…… 呼吸を整え、精神を統一しろ……そして杖に一生懸命に念じるんだ……今の君ならきっと出来る !」
「わ、わかった…… !」
数々の修羅場を潜り抜け、様々な強敵と戦って来たことでコロナは自分でも気付かぬうちに体に秘められた魔力が高まっていた。
四大元素の力を完全に解き放つことで、コロナは今までにない強大な最上級魔法を使えるのだ。
クロスに言われ、コロナは半信半疑ながらも従うことにした。
深呼吸をしながら瞼を閉じ、杖を握り締めながら精神を集中させた。
やがて体の中から力が込み上げ、光が少女の体を包み込んだ。
「な、何だ……この変化は…… !」
エクレアはのたうち回りながらもコロナの変化に気づいた。
彼女の体に宿る四つの属性の魔力が一つになろうとしていた。
「僕も力を貸そう……はぁ !」
クロスはコロナの肩に手を当て、闇属性の魔力を注ぎ込んだ。
コロナの全身は虹色の光を纏い始めた。
「くっ…… !まずい…… !」
本能が危機を察知したのか、エクレアは逃げ出そうとした。
だが足元から黒い無数の手が触手のように様子に伸び、エクレアを拘束した。
「このカラスめ…… !離せ !」
「今だ !撃てぇ !」
必死に叫ぶクロス。
コロナはクロスの声を聞くと開眼し、円を描くように杖を振るった。
杖の先端から虹色に輝く高出力の光線が放たれた。
火、水、風、土だけでなく、クロスの持つ闇属性、コロナの中で眠っていた光属性の魔力も目覚め、六つの属性が結集し、強大な光となった。
「渦流最高光 !」
チュドオオオオオオオオオン
虹色に輝く巨大な光が無防備のエクレアを飲み込んだ。
「キャアアアアアアア !!!」
甲高い断末魔を上げ、エクレアは虹色の光に包まれながら大爆発を起こした。
爆風が巻き起こり、瓦礫が四方八方に散乱した。
傍観していた皆は爆発に巻き込まれぬようこの場から離れた。
「はぁ……はぁ……」
「大丈夫か ?コロナ」
強力過ぎる魔法を放った反動でコロナは腰が抜け、へたりこんだ。
クロスは咄嗟に彼女の肩を支えた。
やがて爆発がおさまり、煙が晴れると棒立ちのまま立ち尽くしているエクレアの姿があった。
だがあれだけ派手に爆発したにも関わらず、外傷は殆どなかった。
「そんな……」
「いや、待て……よく見てみろ」
絶望しかけるコロナをクロスが諌めた。
目を凝らして見てみるとエクレアの体から蒸気が発生し、体から抜け出していた。
まるで彼女の体に寄生していた存在が外へ追い出されているように見えた。
やがて蒸気が抜けきると、エクレアは崩れ落ちるように倒れた。
「お母さん !」
コロナは転びそうになりながらも急いで駆け寄り、抱き起こした。
エクレアは気を失っており、憑き物が落ちたように穏やかな表情をしていた。
「良かった……無事みたい……」
「君の放った魔法、「渦流最高光」は強大な光で邪悪な物だけを消し去る効果があるようだ……使用者の優しさが、本来の魔法の効果を変質させたらしい……」
クロスは慈愛に満ちた表情でコロナを見つめた。
「よく頑張った……君がエクレアを救ったんだ……」
クロスに優しい言葉をかけられ、コロナははにかんだ。
今はまだ気持ちの整理がついていないが、母親の穏やかな顔を見て、昔に戻ったような気がした。
悲劇の魔女エクレアは長い悪夢から解放された。母を救ったのは、娘の強い想いだった。
To Be Continued




