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ランプを片手に異世界へ  作者: 烈斗
不死鳥の涙編
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第二百十六話・魔女の宿命



「皆……」


魔女エクレアの活動拠点であるボロ屋敷に監禁されていたコロナ。

外での激しい物音に敏感に反応し、不安を募らせていく。

外で何が起こってるか……想像に難くない。

仲間達が魔術師達を相手に激闘を繰り広げてる姿が目に浮かぶ……。

もしも助けに来てくれた仲間達が皆やられてしまったら……そんな後ろ向きな考えが彼女の思考を支配する。

既に自分のせいでミライとルーシーが重傷を負ってしまった。

自分の為に仲間が傷ついていくのは幼い少女にとって耐え難いものだった。

長い間暗闇に監禁されたのもあり、コロナの心は曇り、精神的に追い詰められていた。


「コロナァァァァァ !」


聞き覚えのある声が聞こえた。

必死に彼女の名前を呼んでいる。

幻聴……いや、本物だ。

バサバサと音を立て、黒い羽根が花弁のように舞い上がる。

少女を救いに、一羽のカラスが舞い降りた。


「ク……クロス……」

「はぁ……はぁ……」


コロナの前に現れたクロスは息を切らしながら、フラフラと彼女の元に歩み寄った。

傷一つないコロナの無事な姿を確認すると、漆黒に染められた翼を広げ、包み込むように抱き締めた。


「コロナ……良かった……無事で…… !」


普段は大人びた性格のクロスだったが、ようやくコロナを助け出せた喜びと安心感から感極まり涙を流した。


「すまない……僕は……使い魔失格だ……君を一人……怖い目に遭わせて……」


クロスはうつ向きながら己を責め、悔しさを吐露した。

エクレアに託されたあの日から、クロスは彼女を守る騎士として片時もそばを離れなかった。

母を失い悲しみに暮れた彼女の心の支えになっていた。

魔術師達にコロナを奪われ、身を引き裂かれるような思いだった。


「クロス……私の為に……こんな……」


クロスは翼もボロボロで身体中は傷だらけだった。

自分を助ける為にどれだけの無茶を重ねたか、一目瞭然だ。

その痛々しい姿に胸が締め付けられた。


「私の方こそ……ごめんなさい……私のせいで……クロスが……皆が……傷ついて……」

「これくらいの傷……どってことはない……それよりも、もう君に会えなくなることの方がずっと怖かった……」


クロスは涙で目を腫らしながら微笑んだ。

コロナは微かに微笑み返し、クロスの胸の中にうずくまった。

今まで張り詰めていた緊張感が解れ、安らかな気持ちに変わっていく……。


「もうコロナを一人ぼっちにはさせない……僕がずっと君のそばにいる……だから君も、自分を責めないでくれ……」

「うん……」


クロスの励ましの言葉にコロナはウンウンと頷いた。

コロナとクロス……魔女と使い魔の関係だが、いつしか二人はかけがけのない友となっていた。

もう二人の絆が途切れることは無いだろう、


「さあ、一緒にここから抜け出そう、エクレアはエルサが抑えている、今がチャンスだ !」


クロスとコロナは立ち上がると階段を走りながら登った。

コロナは幸いにも拘束されておらず、比較的自由の身だった。




階段を登り終え、大広間に向かったコロナとクロスは、信じ難い光景を目にした。


「う……」

「ハイエルフか……どれ程の者かと思っていたが、大したことは無かったようだな」


力尽き、無様に地べたに這いつくばるエルサと、勝ち誇ったように彼女の頭を踏みつけるエクレアの姿があった。


「そんな…… !エルサ姉ちゃんが…… !」


既に魔術師との戦いで魔力を消耗していたとは言え、あの歴戦の猛者であるエルサが魔女を前に手も足も出ず敗北したのだ。

その衝撃は大きく、コロナは絶句した。


「コロナよ……言ったであろう ?君の為に多くの仲間が傷つき倒れるのだ……」


エクレアはニヤリと笑うとエルサをコロナの方へ蹴り飛ばした。

コロナとクロスは急いで無様に転がってきた彼女を受け止めた。


「す、すまない……もう少し時間を稼ぐつもりだったが……」

「良いんだ、もう無理はするな !」


クロスはエルサを肩につかまえらせた。

コロナは震えながらエクレアを睨み、杖を構える。


「我が弟子達は揃いも揃って役立たずだったがまあ私一人いれば事足りる……コロナ、君をこの手で倒し、コアとして不死鳥(フェニックス)に捧げてやろう」


エクレアは不敵に笑うとコロナ、クロスを冷たく見下した。

彼女に見つめられただけで全身が凍りつくような感覚に襲われる。

エルサすらも倒す絶対的な魔力、他を圧する強者の醸し出すオーラに二人は恐怖心を隠せなかった。

こんな奴にどうやって勝てるのか……その考えだけが頭を過った。


「ふむ……私が本気を出せばこの屋敷ごと崩壊してしまうな……場所を変えるか」


エクレアは指をパチンと鳴らした。

その瞬間、コロナ、クロス、エルサの体はいつの間にか屋敷から外へと移動していた。


「コロナ !」

「無事だったか !」


突然何の前触れもなく目の前にコロナ達が現れ、グレン達は度肝を抜いた。


「ここは……外…… ?」

「あの女の魔法で強制的にワープさせられたのか…… ?」


いつの間にか自分達の居た場所からワープしたことに困惑するコロナ達をよそに外にいたグレン達は歓声を上げながら駆け寄った。


「再会を喜ぶのは後にしてもらおうか」


だが感動のムードは一人の女の一声で一瞬で凍りついた。

全員は一斉に振り返るとそこにはエクレアの姿があった。

禍々しく邪悪なオーラを放ちながら微笑み、グレン達を戦慄させた。


「エクレア様…… !」


ゾーラ達はエクレアが現れた瞬間、一斉に膝まづいた。

その光景は師匠と弟子の関係と言うより教祖と信者達のようだった。


「全く……お前達には失望したぞ……折角私が手塩にかけて育ててやったというのにこの体たらくとは……」


呆れるように彼等を見下すエクレア。


「申し訳ございませんエクレア様……しかしこいつらは思いの外手強くて……」

「まあよい……お前達はそこで見物しておれ……この私が一人で侵入者共を蹴り散らしてやる」


エクレアは腕を掲げ、グレン達目掛けて魔法を放とうとした。

消耗しきった体で全員身構えた。


「待って !」


コロナの叫び声を聞き、エクレアの手が止まった。


「私が……貴女の相手をする…… !」


その言葉を聞き、全員はざわついた。

エクレアの恐ろしさは皆理解している。

彼女の放つオーラを見れば一目瞭然。

そんな相手にコロナは一人で挑もうとしていた。


「皆は私を助ける為に……いっぱい傷付いた……これ以上……仲間を傷付けさせない……」


コロナは杖を構え、真剣な表情でエクレアを睨み付けた。

その姿に、今まで震えていたか弱き少女の面影は無かった。


「待ってコロナちゃん !一人で戦うなんて無茶だよ !」

「そうだ……あの女、ただもんじゃねえ……戦うまでも分かる……」


私とヴェルザードはコロナを止めようとしたが、彼女の決意は固かった。


「私が……魔女の娘として……エクレアを……お母さんを止める !」

「え ?お母さん ?」


コロナとエクレアが親子関係だと知り、一同は驚きを隠せなかった。

そして同時に運命の残酷さに胸を痛めた。

親と子が争うなんて……これが魔女の宿命だとでも言うのか……。

加勢しようにも魔力を消耗した状態で下手に行っても却ってコロナの足を引っ張るかも知れない。

悔しいが、ここは小さな少女に委ねるしか無かった。


「コロナよ……強くなったな……この私と一騎討ちを臨むか……」


エクレアとコロナ……二人は互いに睨み、バチバチと火花を散らせた。

緊迫した空気が全体に張り巡らされた。

何の因果か、母と娘の親子による決戦が今始まろうとしていた。


To Be Continued

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