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ランプを片手に異世界へ  作者: 烈斗
不死鳥の涙編
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第二百十四話・崩壊寸前



ドォン バァン ズゴォン


海のように青く澄み渡る大空で激しい轟音が鳴り響く。

蒼炎形態のリトと雷獣と融合して雷人となったウエンツの一騎討ちが繰り広げられていた。




「あいつら……何処まで行くつもりだよ…… !」


私とヴェルザードはシュヴァルに乗って走りながらリトとウエンツの後を追いかけた。

並の馬なら二人の後を追うことは出来なかった。

だがシュヴァルの化け物級の体力と脚力のお陰で普通なら馬車でも数日かかる距離を高速で移動することが出来る。

流石は魔界出身、こういう時にシュヴァルは本当に頼りになる。




二人の拳がぶつかる度、大気は割れるように震撼した。

互いに一歩も譲る気は無い。

相手がダウンするまで、延々と殴り合いが続く


「はぁぁぁぁぁぁぁ !」


ウエンツは呼吸をする間も無く、雷を纏った拳でリトの顔面を高速で殴り続けた。

ある程度自我を取り戻したおかげか、先程までの不規則で出鱈目な獣染みた動きでは無くなり、武闘家のように洗練されたものとなっていた。


ガシッ


だがウエンツのターンはここまでだった。

最後に振り下ろした腕をリトはガッチリと掴んだ。

顔面に嵐のようなラッシュを喰らったが口から血が垂れている程度だった。


「お返しですよ 」


リトはニヤリと笑うとウエンツの倍のスピードで拳を繰り出し、反撃に出た。


「うっ がっ ごっ ぐはぁっ !」


弾丸のように素早いパンチが一秒に何十発も放たれ、ウエンツの身体に叩き込まれた。

口から大量の血を吐き、腹筋や胸板はボコボコに凹み、ウエンツは苦悶の表情を浮かべた。


「くそ…… !舐めるなぁ !」


ウエンツは歯を食い縛り、痛みを堪え、力の限り拳を振り上げ、リトの頬を殴りつけ、動きを止めた。


「くっ…… !」

「はぁ……はぁ……」


互いに距離を取り、様子を窺う二人。

リトの体は僅かだが消えかかっていた。

魔力を大量に消耗し、活動時間に限界が訪れようとしていた。

ウエンツも口から大量の血を吐き、胸を押さえながら苦痛に顔を歪めさせていた。

雷獣という強すぎる力によって肉体に負荷がかけられ、決壊寸前だった。

何とか執念と気力で持ち堪えているようなものだった。

二人とも条件は同じ、時間が残されていなかった。


「はぁ……はぁ……次で決着を決めるぞ……」

「奇遇ですね……私も同意見です……」


二人は同時に深呼吸をし、ゆっくりと身構えた。

風の音すら聞こえぬ程の静寂が二人だけの空間を支配する。


「「はぁぁぁぁぁぁぁ !!!」」


リトとウエンツは腹の底から絶叫し、空を裂きながら激突した。

互いに打ち込み合った後、二人は光線のように加速しながら線を描くように空を移動し、空中での殴り合いを展開した。


リトがウエンツを殴り飛ばしたと思えばウエンツは加速して追い抜くと背後に回り、リトを蹴り飛ばす。

追撃を加えようと突撃をしたら今度はリトが熱線を放ち牽制する。

こうした密度の高い一進一退の攻防戦が僅か数秒で行われた。

常人には決して目で追うことは不可能だ。

山脈を越え、大移動をしながら戦いは激しさを増した。




何処まで移動したか分からない。

少なくともノスフェの湖からはだいぶ距離が離れてしまったのは確かだ。


「はっ !」


ドゴォォッ


リトはウエンツの大振りの攻撃を避けてカウンターを決め、上に向けて蹴り上げた。

更に吹っ飛ばされるウエンツの先回りをし、両腕を振り下ろし、後頭部を殴り付け、大地に叩き落とした。


「うわぁぁぁぁぁぁぁ !!!」


隕石のように落下し、轟音と共に地面に叩き落とされたウエンツ。

彼が落ちた先は偶然にも不死鳥(フェニックス)(ティアー)のアジトの近くだった。

突然人間が落ちてきたことにマルク、グレンは目を丸くして驚いた。


「何だ !?急に空から人が…… !」

「ウエンツ……なのか…… ?」


ゾーラ、エイワス、シャロンは落ちてきた人間の正体がウエンツだと気づいた。

彼等は手負いながらも意識を取り戻していた。


「はぁ……はぁ……」


大地に思い切り叩き付けられ、全身がボロボロになり、よろめきながらもウエンツは立ち上がった。

肩で呼吸をし、背中を曲げながら立っているのがやっとの状態だった。


「その姿……雷獣と一体化したのか……」

「なんて神々しい姿なんだ……」


雷人になったウエンツの姿を見たことが無かった三人は呆気に取られていた。

だがそんなことを言ってる場合では無かった。

ウエンツは鋭い目付きで天を仰いだ。

視線の先にはリトがいた。

空の上で浮遊し、落ち着いた様子で地上を見下ろしていた。


「リト……」


空を見上げリトの存在に気付いたマルクは小声で呟いた。

この状況が何となく把握できた。

ウエンツとリトはこことは別の遠くの場所で激戦を繰り広げていたということを。

そしてその戦いにも決着がつくということを……。


リトは無言のまま地上に降り立った。

ウエンツの表情が引き締まり、猫のように唸り声を上げ、身構える。


「ウオオオオオオオオオ !!!」


ウエンツは全身に力を込め、ビリビリと金色のスパークを纏い、ウエンツは口を大きく開き、高密度の電撃波を放った。

巻き起こる風圧で地面がふっ飛ぶ程の威力だった。


「最後の一撃ですか……」


リトは敢えて迫り来る電撃の波に向かって真っ直ぐに歩き、電撃の中に飲まれていった。



「電撃の中に突っ込むなんて、なんて無茶なことを…… !」


マルクは恐れ知らずなリトの大胆過ぎる行動に驚愕していた。

だかマルクの心配は杞憂に終わった。

リトは悠然と電撃の中を通り抜け、ウエンツに近付いていった。

全身を包む青いオーラが電撃から身を守っていたのだ。

リトは電撃をものともせずにウエンツの目の前まで接近した。


「う…… !」


リトは固く握った拳に青く輝く炎を纏い、たじろぐウエンツの頬を勢い良く殴り付けた。


蒼炎拳(ブルフレイムナックル)


ドゴォッ


頬がクレーターのように歪み、ウエンツは絶叫を上げながら滑るように吹っ飛んでいった。


「すげえ……」


マルクやグレン、他の魔術師達はたたただ言葉を無くし、圧倒されていた。

リトは青いオーラをかき消し、元の赤い髪に戻った。


「はぁ……はぁ……」



遠くへ吹っ飛ばされたはずのウエンツは滑りながらも何とか踏みとどまっていた。

既に満身創痍で目はあらぬ方向を向いており、血塗れのその姿はゾンビのようだった。


「もうやめてくれ……ウエンツ…… !」

「お前は充分戦った !これ以上は死ぬぞ !」


シャロン達は必死にウエンツを止めようと説得した。

だがウエンツは耳を傾けず、朦朧しながら意識をずっとリトへと向けていた。


「やれやれ……どうやら最後まで戦って死にたいらしいですね……」


リトは息を切らしながらもゆっくりとウエンツの方へ向かっていった。


「う……うわぁぁぁぁぁぁぁ !」


ウエンツは狂ったように叫び、フラフラになりながらも拳を振り上げ、リトに殴りかかった。


ピカッ


だがその瞬間、ウエンツの体から雷獣が抜け出した。

15メートルある巨体がウエンツから離れていく。


「そんな…… !」


ウエンツの金色に染まっていた肌が元に戻り、二本の角も消え去り、元のウエンツへと戻った。


「何で……」


ウエンツは泣きそうになりながら雷獣の瞳を見つめた。

雷獣は仔犬のように弱々しく鳴き、悲しげな表情でウエンツを見つめ返した。

雷獣は解っていた。これ以上融合が続けばウエンツの肉体が崩壊し、自滅すると。

だから自分の意志でウエンツから離れ、融合を解いた。

ウエンツを守る為に。


ドサッ


ウエンツは身体中から力が抜け、涙を流しながらうつ伏せに崩れ落ちた。

最後の最後で雷獣に助けられ、一命は取り止めた。

長きに渡るリトとウエンツの戦いに遂に終止符が打たれた。


To Be Continued

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