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ランプを片手に異世界へ  作者: 烈斗
不死鳥の涙編
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第二百八話・逆転の吸血



俺は鉄の魔術師コルトの驚異的な魔法によって追い詰められ、遂に力尽きて倒れてしまった。

コルトは頑丈な鋼の肉体に加え、斬られても再生し、体の一部から分裂を繰り返すなど魔術師として規格外の強さを見せた。

身体中から血液を失い、意識が朦朧とし出し、俺は指一本動かすことすら出来なかった。


「じゃあな !吸血鬼(ヴァンパイア) !」


コルトは槍のように形状変化させた腕を振り下ろし、俺の心臓を貫こうとした。


キィン !


コルトが振り下ろした腕を何者かが剣で受け止めた。

ワカバだ。

間一髪の所で俺の窮地を救ったのだ。


「ワカ……バ…… !」

「これ以上ヴェルを傷付けさせない !」


ワカバは腕に力を込め、コルトを押し返した。

コルトは突然の乱入者に驚き、気圧されて距離を取った。


「お前……ウエンツと戦ってたはずじゃ…… !」

「リトがウエンツさんと戦ってます…… !それより…… 酷い怪我……」


ワカバは俺の悲鳴を聞き、いても立っても居られず駆けつけたようだ。

彼女は優しく倒れている俺を抱き抱えた。

全く情けない話だ……こんな不様な姿、見せたくなかったぜ……。


「ここは私が戦います……だからヴェルは……」

「無理だ……あの化け物は強い……お前の手に負えない……」


俺は掠れた声でワカバを制止した。


「だが一つだけ……方法がある……それは……」


俺は言葉に詰まった。

それを言ってしまえば、ワカバに引かれるかもしれない……。

俺は不安と羞恥に襲われ、固まってしまった。


「方法があるんですか…… ?お願いです……言ってください !」


ワカバは真摯に俺を見つめた。

俺は腹をくくって打ち明けることにした。


「俺達……吸血鬼(ヴァンパイア)は……人間の生き血を啜ることで……魔力を高めることが出来る……怪我だって……簡単に治る……だから……頼む……お前の血を……飲ませて……欲しい……」


言ってしまった…… !

俺は生まれてこの方吸血鬼(ヴァンパイア)でありながら人間の……しかも女の子の血を吸ったこと等一度も無かった。

ずっと前から彼女の血を吸ってみたいと思っていた。

だが恥ずかしさからずっとこの気持ちを抑えていた。

まさか今になって彼女の血が必要になるとは……。

俺は恥ずかしさのあまり、今すぐこの心臓に杭を打ち付けて死にたくなった。


「良いですよ……私の血で良ければ……それであの化け物を倒すことが出来るのなら……喜んで首を差し出します」


意外な展開だった。

ワカバは一切の迷いもなく髪をかきあげ、うなじを俺の前に見せた。

俺も迷ってる暇は無かった。

女に恥をかかせるもんじゃない…… !

後でリトに殺されるかも知れんが……今は緊急事態だ。


「お前の血……頂くぜ」


俺は大きく口を開け、牙を剥き出しにし、ワカバの首筋にそっと噛み付いた。

白く柔らかい肌にナイフのように鋭い牙がゆっくりと差し込まれる。


「んっ……」


首に一瞬痛みが走り、ワカバは艶のある声を漏らした。

悪いな……だが痛いのは一瞬だけだ。

俺の牙は蛇のように中が空洞になっており、蚊のように麻酔性と非凝固性のある唾液を注入することが出来る。

ワカバに苦痛を与えず、同時に血液が固まらないようにする為だ。

俺は遠慮がちにワカバの首から血を啜った。


「あっ……」


恍惚に頬を赤く染めながらワカバは喘ぎ声を上げる。

血を吸われる度に彼女の体は敏感に反応していた。

俺は興奮を抑えながら彼女から血を吸い続けた。

美味い……。人間の血って……こんなに美味かったのか……身体中に血流が行き渡り、喉の渇きが潤い、傷が癒えるようだ……。人生の半分を損した気分だぜ……。

等と感激してる場合では無かった。

これ以上吸うとワカバが倒れてしまう。

俺はゆっくりと首から牙を抜いた。


「はぁ……はぁ……ヴェル……もう……平気ですか……」


顔を赤く染めながら、ワカバは息を荒くしていた。

新しい扉を開いてしまったかもしれない……。


「ありがとよ……ワカバ……お前の血を吸ったら……力がみなぎってきた……」


俺は拳を強く握った。

感じる……今までに無い心地の良い鋭敏に研ぎ澄まされた感覚……。

ワカバから少しだけ血を貰っただけなのにも関わらず、全身の傷は癒え、魔力は更に高まった。

あいつは……人間の中でも並々ならぬ上質な血を持っているのようだな……。


「何二人でイチャイチャしてんだコラァ !」


痺れを切らしたコルトは顔を真っ赤にしながら激怒していた。


「い、イチャイチャなんてしてませんよ…… !」


照れながら慌てて否定するワカバ。


「悪かったな……待たせちまったお詫びに、さっさと決着をつけさせてやるよ」


俺はニヤリと笑いながら立ち上がった。


「人間の血を吸ったくらいで図に乗るなよ ?どんなにパワーアップしても、俺のこの鋼の体は誰にも砕けねえ !」


コルトは勝ち誇ったように胸を強く叩いた。


「試してみるか…… ?鉄屑野郎」


俺はワカバを後ろに下がらせると腰を屈め、拳に力を入れ、赤いオーラを纏った。

風圧で砂埃が舞い、怯えるように湖が揺れた。


「何だこいつ……さっきまでとは別人みたいだ…… !」


コルトは俺の放つオーラに圧倒され、たじろいだ。


「さあ……決着をつけようぜ !」


俺は鬼のような形相で凄み、コルトに向かって風を切るように走り出した。


「うおおおおおおおおおお !」


コルトは槍状に変化した片腕を構え、今度こそ俺を一撃で刺し貫こうと大地を蹴り、地面を踏み鳴らしながら走った。


「はぁぁぁぁぁぁ !」


俺は自らの皮膚を切り、滴る血液を凝固し、二本の赤き剣を生成した。

今までは魔力の限界からなすことが出来なかった二刀流だ。


深紅(ディープレッド)二刀邪剣(ツインセイバー) !」


コルトは凄まじい勢いで槍のような金属の腕を振り下ろした。

俺は紙一重でいなし、風のようにコルトの懐に入り込んだ。


煉獄(パーガトリー)十字架(ロザリオ) !」


ズザバァッ


俺は呼吸を止め、二本の剣を交互に振り下ろし、コルトの鋼の体に十字架を刻み込んだ。

コルトの体に刻まれた十字の傷が紅に燃え盛る炎のように閃光を放ち、大爆発を起こした。


「ぎゃああああああ !!!」


爆風により、コルトを覆っていた銀色の金属は剥がれ落ち、粉々に散っていった。

鎧を失い、上半身が裸になったコルトは全身が黒く焼け焦げていた。

口から煙を吐き、白目を向きながらがくっと膝をつき、仰向けに倒れ込んだ。

たった一撃で勝敗は決した。

勝ったのは俺だ。


「ふぅ……うっ……」


俺は立ち眩みがし、その場で尻餅をついた。


「ヴェル !」

「心配ない……魔力を使い果たしただけだ……」


コルトを守る鋼の甲冑を完全に破壊するには限界まで魔力を高め、渾身の一撃を叩き込むしか無かった。

無茶な賭けだったが、成功したようだ。

お陰で暫くは動けそうもないがな……。

ワカバの血を吸えば回復するだろうが、これ以上彼女の体力を奪うわけにはいかない。


「俺のことは良い……それよりリトの所に行ってやれ……」

「でも……」

「あいつは強いが……ウエンツの野郎は何か切り札を隠してる……そんな気がするんだ……」


俺の言葉を聞き、ワカバは立ち上がった。


「ヴェル……ここで休んでてくださいね……」


ワカバは微かに微笑むと俺の元を離れ、リトとウエンツが戦ってる方へ走っていった。


「頼んだぜ……ワカバ……」


俺はワカバの後ろ姿を眺めながらつぶやいた。

今までは俺があいつを助けていたが、今度は俺があいつに助けられた……。

ついこの前までは頼りなく危なっかしい小娘だったが、いつの間にかすっかり逞しくなったな……。

過酷な環境が彼女を成長させたのかも知れない……。

ただ一つ言えるのは、あいつも立派な騎士だということだ。


To Be Continued

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