第二百三話・グレンvsゾーラ
魔力を使い果たし、透明化する為の魔力が無くなったゾーラに残されたのは鍛え上げられた体術のみだった。
グレンも彼に合わせ、神器をクロスに預け、己の拳のみでゾーラと一騎討ちを臨む。
「殴り合いで俺に勝てると思うなよ」
「そっちこそ、手加減はしねえ、全力で行くぜ」
グレンとゾーラは互いを睨み、火花を散らせた。
「「うおおおおおお !!!」」
二人は同時に拳を振りかざし、互いの頬を殴りつけた。
リーチの差でゾーラの拳がグレンの頬にめり込んだ。
「ぐっ……」
血を吐きながらよろめくグレン。
だがオーガ族はタフだ。
魔術師程度の攻撃では簡単には倒れない。
「うおおおおおお !!!」
体勢を立て直すとグレンは大声で叫びながらゾーラに向かって拳を振り上げた。
ドガッ ガガッ バゴッ
グレンは呼吸をする暇もなくパンチを連続で放ち、ゾーラの顔面、腹、脚と全身を殴り続けた。
「ぐお……何てスピードだ…… !」
ゾーラは反撃に出ようと蹴りの一撃をお見舞いするがすぐにグレンのペースになり、一方的にサンドバッグにされた。
ゾーラは相手の意表を突き、死角から一撃で仕留めることに長けているが、純粋な殴り合いには慣れていなかった。
対してグレンは里にいた頃から姉であるブラゴの厳しい稽古に耐えてきた。
経験の差でグレンが一歩勝っていた。
「おおおおお !」
勢い良く振り下ろされる鉄球のように重いグレンの拳。
ゾーラは無我夢中でグレンの拳を払い除け、逆にカウンターでみぞおちにパンチを叩き込んだ。
「うぐっ…… !」
急所に叩き込まれ、グレンの勢いは止まり、むせながら後退りした。
ゾーラは相手の急所を見抜き、的確に撃ち抜く戦法が得意だ。
いくらタフなグレンでも後数発喰らえば立っていられなくなるだろう。
「もういいグレン、僕も戦うぞ !」
「待て !」
グレンは腹を押さえながらクロスを制止した。
「男と男……一対一の喧嘩だ……余計なことするんじゃねえ……」
グレンは口についた血を拳で雑に拭った。
「ハハ……格好いいじゃねえか……ガキ……だが、これで終わりだぁぁぁぁぁ !」
ゾーラは鬼のような形相で咆哮を上げ、風を切り裂くように走り、グレンに殴りかかった。
「うおおおおおおおおおおお !!!」
グレンも呼応するように獣のような叫び声を上げ、ゾーラに向かって砂埃を撒き散らしながら走った。
至近距離まで接近し、互いに拳を振り上げ、相手の顔面を狙う。
ドゴオッ
ゾーラとグレンの拳が火花を散らせながら交差する。
グレンは小柄な体格を生かしてゾーラのパンチを掻い潜り、ゾーラの顔面に渾身の打撃をお見舞いした。
「ぐほぁっ……」
ゾーラは白目を向きながら泡を吹き、ゆっくりと崩れ落ちていった。
男と男のぶつかり合いに遂に決着がついた。
最後まで立っていたのはグレンだった。
「はぁ……はぁ……やったぜ……」
グレンは肩の力が抜けたのか、ガクッと膝をついた。
ゾーラの急所を撃ち抜く攻撃が思ったより体に響いたようだ。
「グレン !」
クロスはグレンの元に駆け寄り、預かっていた神器を渡した。
「俺は暫く動けねえ……お前があの屋敷に入ってコロナを助けてこい……」
グレンはクロスに向けて言った。
「たく、武器も魔力もなしに生身で挑むからだ……」
クロスは呆れながら言った。
「しょうがねえだろ、相手が丸腰だったんだから……」
グレンは笑顔を浮かべていた。
「兎に角、お前は少し休んでろ、コロナは僕が助ける……」
「ああ、頼んだぜ」
クロスは屋敷を睨むように見つめ、翼を羽ばたかせ、低空飛行で屋敷目掛けて飛んでいった。
「ほう……ゾーラが倒されたか……」
屋敷の中でエクレアは水晶を眺めながらつまらなそうに呟いた。
「良かった……」
コロナはそれを聞き、少しホッとした様子だった。
「何をぬか喜びしておるのだ ?まだ一人やられただけだぞ ?言っておくがゾーラは魔術師の中では三流……まだまだ四人も残っておるのだ」
エクレアは憎たらしい顔でコロナを煽った。
「それでも……私の仲間は負けない…… !」
コロナは臆することなくエクレアを睨み付けた。
「まあ淡い希望を抱いておるといい……そういえば……あのカラスがたった一羽でこの屋敷に入ろうとしているな……」
「クロス…… !」
エクレアの言葉を聞いた瞬間、コロナの様子が一変した。
「どれ、退屈しのぎに遊んでやるとするか」
エクレアはそう言うと一瞬でこの場から消えた。
コロナは不安に駆られ、全身の震えが止まらなくなった。
エクレアは侵入してきたクロスを排除する気だ。
彼女は魔術師達を束ねる最強の魔女。まだ底知れぬ力を隠している。
使い魔であるクロスがまともに戦えばどうなるか、火を見るより明らかだった。
「お願い……無事でいて……」
コロナは手を合わせ、クロスの無事を祈った。
まだまだ悪夢は終わらない。
To Be Continued
 




