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ランプを片手に異世界へ  作者: 烈斗
不死鳥の涙編
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第百九十八話・ウエンツの依頼



私達は突然の来訪者、ウエンツと名乗る青年を「オールアプセクトハウス」に招き入れた。

依頼についての話をする為、私達はテーブルを囲い、ウエンツと向かい合わせになるよう椅子に腰かけた。


「どうぞごゆっくり……」


リリィは緊張した様子でウエンツに紅茶を出した。


「あ、ありがとうございます」


ウエンツはリリィに笑顔で答えた。


「それにしても、流石は無限(メビウム)結束(ユナイト)……錚々(そうそう)たる顔ぶれですね、女性の方々も皆お美しい」


ウエンツは辺りを爽やかな笑顔で見渡した。


「特に、貴女は清貧で濁りのない、青空のように輝く瞳をお持ちのようですね」


ウエンツは私の顔を見ながら歯の浮くような台詞を言った。


「貴方、それは主を口説いてると捉えて宜しいのですか ?」

「貴様、それ以上喋ると首筋から血液を全て抜き取ってやるぞ」


ウエンツが私に言い寄ったと思い、リトとヴェルザードが怒りの形相でウエンツに詰め寄り、圧をかけた。


「まあまあ二人とも、落ち着いてください」


私は何とか二人を宥めた。


「それで、ウエンツさん……と言ったな……依頼とは何だ ?」


エルサは単刀直入にウエンツに聞き、本題に入ろうとした。


「ああそうでした、闇ギルドや魔王軍を倒した貴方方に是非頼みたいことがあります」


ウエンツは一呼吸置いてから語り出した。


「僕はノスフェ湖と呼ばれる場所に行ってどうしても手に入れたい物があるんです。しかし湖に辿り着くまでの道は険しく、その上巨大な魔物や魔族が蔓延っています……とても僕一人では辿り着けません……どうか力を貸して頂けませんか ?」


ウエンツは頭を下げて頼み込んだ。


「つまり、そのノスフェ湖に行く為、私達を護衛にしたいと……」

「はい……貴方方の実力ならば、どんな魔物が来ようが恐るるに足りません !お願いします !」


必死に懇願するウエンツを前に、皆は顔を見合わせながら考えた。


「分かりました……私が力になります !」


私はウエンツの手を握りながら言った。


「ほ、本当ですか !?」

「おいワカバ…… !」


ヴェルザードは苦い顔をした。


「貴方は命をかけてまで手に入れたいものがあるんですよね ?」

「は、はい…… !」


ウエンツは私の目を真っ直ぐ見つめた。


「だったら、私もウエンツさんの為に命を張ります…… !」

「流石は主……なんという強い意思と覚悟…… !」


ランプの中でリトは大袈裟に感嘆した。


「ちっ……ワカバが言うなら仕方ねえ……俺も同行するぜ、近頃は魔術師集団が狙ってるからな」


ヴェルザードは立ち上がりながら言った。




こうして、私、ヴェルザードはウエンツの依頼を受け、早速ノスフェ湖に向けて出発することにした。

依頼内容はウエンツをノスフェ湖まで護衛し、彼の探し求めている何かを見つけること。

エルサは移動用に馬車としてシュヴァルを貸してくれた。


「頼むぞ、シュヴァル」


エルサは優しくシュヴァルを撫でた。


「お二人とも、ありがとうございます報酬は後程お渡しします」


ウエンツは深々と頭を下げた。


「よし、じゃあシュヴァル、出発するぜ」


ヴェルザードが手綱を引き、私達を乗せてシュヴァルは大地を蹴り、走り出した。

エルサ、リリィ、マルク、グレンは居残りとなり、私達が見えなくなるまで見送った。


「あいつら大丈夫かなぁ……」

「リトさんも居ますし、ワカバちゃんも昔よりずっと強くなりましたし、平気ですよ」


リリィはガッツポーズを決めながら言った。


「なら良いんだが……とりあえず中に戻るぞ」


エルサ達は家の中に入ろうとした。

その時、後ろから蚊の鳴くような呻き声が聞こえた。


「皆……こ、コロ……ナ……が……」


振り返ると互いに肩を支え合うボロボロのクロス、ミライ、ルーシーの姿があった。

丁度ヴェルザード達と入れ違いで帰ってきたのだ。

瀕死の体に鞭打ち、やっとの思いで家に帰って来れたのか、三人は気が緩み、その場で倒れ込んだ。

特にミライが一番酷い怪我をしていた。


「グレン…… !」「ルーシー…… !」「ミライちゃん…… !」




エルサ達は血相を変え、ボロボロの三人を抱き抱えた。

そして急いで部屋に連れ込み、三人の手当てを施した。

コロナが居れば回復魔法をかけられたが彼女はいない……。魔術師達によって拐われてしまった。


「命に別状はありません……でも酷い怪我でした……女の子の顔に……誰がこんな酷いことを……」


ベッドで眠る三人の痛々しい姿を見て、リリィは涙を浮かべていた。


「決まってんだろ……あの魔術師共のせいだろ…… !」


マルクは怒りに顔を歪ませ、血が滲む程拳を強く握った。


「うっ……」

「クロス !」


クロスの意識が戻りかけ、急いでグレンは駆け寄った。

彼だけは軽傷で済んだようだ。


「グレン……すまない……僕は……コロナを……彼女を……守れなかった……」


普段はクールで皮肉屋なクロスだが、今回は塩らしくなり、悲しい表情で弱音を吐いた。

詳しく説明されるまでもない。

この場にいる全員は理解した。

魔術師達によってコロナは拐われ、三人は酷い暴力を受けたと……。


「お姉……ちゃん……」

「ルーシー !」


ルーシーは小声で姉を呼んだ。

エルサは彼女の手をしっかりと握った。


「ごめん……ね……心配……かけさせたく……無かったのに……」


ルーシーは小粒の涙を溢し、頬を伝った。


「君は何も悪くない……何も言うな……」


エルサは声を震わせながらルーシーを諭した。


「ちきしょう……許せねぇ……」


マルクは立ち上がり、何処かへ出掛けようとした。


「待ってくれよ兄貴 !」


グレンはマルクの後を追った。


「ルーシー……仇は必ず取る……だから安心してゆっくり休んでくれ」


エルサはルーシーに向けて優しく微笑んだ。




マルクは玄関の前で出かける準備をしていた。

グレンも彼の後に続こうとした。


「兄貴 !魔術師達と戦いに行くんだろ ?俺も行くよ !」

「お前はまだ子供だ、竜族すら蹴散らした魔術師共とやり合おうなんて10年早い !」


マルクは冷たく突き放した。

確かに経験の少ないグレンが行っても返り討ちに遭い、ミライ達の二の舞になるだろう。


「コロナを拐われたんだ !黙ってるなんて出来ない !」


だがグレンの決心も固かった。

コロナとクロスは無限(メビウム)結束(ユナイト)に入って出来た同年代の友達。

その絆は強く、強固なものだった。


「俺は、クロスのあんな顔、見たくなかった……俺も悔しかった……だから俺、コロナを助けたいんだよ !」


グレンは真剣な目でマルクを見つめ、腰に携えた神器を握りしめた。


「グレンの気持ちも汲んでやれ、マルク」


グレンの背後からエルサが現れた。


「それに、頭数は多い方が良いだろう」

「正気かエルサ !グレンはまだガキだぞ !みすみす殺しに行かせる気かよ !」


マルクはエルサに猛反対した。

彼は粗暴だが面倒見が良く、村に居た時も大勢の子供達の世話をしていた。

グレンを弟のように大切に思っている。

危険な目に遭って欲しくないのだ。


「それはグレンに失礼だぞ、グレンも我々の騎士団に入っている以上、一人前の騎士なんだ」


エルサはグレンの頭を撫でた。


「……わーったよ !」


マルクは折れ、渋々納得したようだ。


「だが危なくなったらすぐ逃げろ、俺との約束だ」

「ありがとう……兄貴 !」


マルクとグレンは互いに拳を合わせた。


「待ってくれ……僕も行く……」


そこへ、クロスもやって来た。


「クロス !怪我はもう良いのかよ !」

「コロナがどんな目に遭わされてるかも分からないのに、うかうか寝てられない……物心ついた時から、彼女の側に居たんだ……彼女は……僕が助ける…… !」


クロスは覚悟を決め、宣言した。

彼の体に外傷は特に無く、あまり無茶をし過ぎなければ戦うのに問題はなかった。


「決まりだな……リリィ、悪いが留守を頼めるか ?二人の看病をして欲しい」


エルサはリリィに頼んだ。


「分かりました……皆さん、お気をつけて……」


リリィは複雑な表情をしながらお辞儀をした。


エルサ、マルク、グレン、クロスの四人はミライ、ルーシーをいたぶり、コロナを拐った魔術師集団を倒す為、遠征に出掛けた。


To Be Continued

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