祖母の遺品
初めまして、烈斗です。元々創作活動に興味があり、小説家になろうに投稿させて頂きました。素人ではありますが、是非読んでいただければ幸いです。マイペースに更新するので今後とも宜しくお願いします!
「主……主……」
男の囁き声が聞こえる。私は動けなかった。怪我をしたわけでも、痛いわけでもないが、指一本動かせなかった。視界もボヤけてよく見えない。ここが何処なのかも分からない…私の倒れた体は声の主が支えてくれていた。男は私を心配するように…とても優しく、か細い声で、私を主と呼び続けた。誰なのかは分からない。でも初めて会った気がしない、懐かしい感じ。
「貴方は……誰…… ?」
私が問いかけたその時……
「あ……またあの夢……」
現実への帰還。時間は朝の6時30分。
「最近よく見るんだよなぁ……変な夢……」
今日は日曜で特に用事は無かったから、本当はもっと遅くまで寝ているつもりだった。でも、もう二度寝する気も起きない。
私はとりあえず部屋を出て一階のリビングへと向かった。そこではおばあちゃんが朝食を食べていた
「おはようおばあちゃん、いつも早いね」
おばあちゃんはにっこり笑顔だった
「おはよう若葉ちゃん、日曜なのに早起きなんてえらいねぇ」
「偉くなんかないよ、たまたま変な夢を見てさ」
するとおばあちゃんは興味を持ち始めた
「何だい ?その変な夢って、気になるねぇ」
「べ、別にそんな大したことじゃないよ」
「良いからちょっと聞かせてごらんよ、夢ってのはね、放っとくと段々忘れてしまうんだよ」
確かに、どんなに印象に残った夢でも、気がついたらもう曖昧になってて夜になると全く覚えてない。
「わかったよ、朝ごはん食べながらゆっくり話すね」
私はそう言うと食パンにイチゴジャムを塗り始めた。
昔から両親が共働きだった為、私はいつもおばあちゃんちに預けられていた。いうなればおばあちゃん子だ。おばあちゃんはとても穏やかで優しく、一緒に居ると心が落ち着いた。ただ、変なところで好奇心旺盛な所がたまに傷。
「で、なんだい ?その夢ってのは」
「うん……何か、私が倒れてて、動けなくなってて……それを男の人が抱き締めてて……」
「男の人かい……その人はハンサムかい ?」
「いや、顔まではボヤけてて分かんなかったんだけど…ずっと私のことを主……主……って呼んでるの」
「……」
おばあちゃんは真剣に聞いていた。こんな話、友達なら笑うだろうな。
「で……私が「貴方は誰 ?」って言ったら目が覚めちゃった」
「そうかい……」
「ね?しかも何回も同じ夢を見るの、変でしょ?」
おばあちゃんは腕を組んだ
「若葉ちゃんはその声を聞いて、どう思ったんだい?」
「えーと……懐かしいような…温かいような…少なくとも嫌な気はしなかったかな」
「きっと、運命の人かもね」
私は頬を赤らめた
「いやいや、そんな馬鹿な !メルヘンチック過ぎるよ !」
おばあちゃんは慌てる私を見て笑った
「あっはっは、でもね、夢ってのは不思議でね、稀に近い未来に起こることを教えてくれることもあるんだよ ?」
私は半信半疑だった
「でも所詮夢だよ ?」
「いやいや、繰り返し同じ夢を見るということは、誰かが若葉ちゃんに何かを訴えてるのかもしれんよ」
「えー……訴えられるようなことしてませーん」
「ま、そのうち分かるさ」
あまり意識したことは無いけれど他の女子高生と比べると私とおばあちゃんは特別仲が良いのかもしれない、祖母と孫が夢の話で女子トーク並みに盛り上がるのは確かに変わってる。おばあちゃんと話すと飽きないし、楽しい。だからつい時間を忘れて話に夢中になってしまう。
こんな日常がいつまでも続くものだと思っていた。
一週間後、おばあちゃんは亡くなった……。あまりにも唐突だった。最近まで元気で、全然そんな素振りは見せなかった。人というのは突然死ぬんだってことを思い知らされた。葬式では涙は出なかった。おばあちゃんが死んだという実感が沸かなかったのかもしれない。
おばあちゃんが亡くなってから一週間が経ち、色々周辺も落ち着いてきた頃、私はお母さんと一緒におばあちゃんの部屋を整理していた。押し入れにはおばあちゃんが大切にしていた物が沢山閉まってあった。
「こりゃ片付けるのに時間がかかりそうだね」
私は苦笑しながら呟いた。色々探していると、奇妙な物を見つけた。
「え……何これ……」
日本に暮らしていたら、まず見かけないものだ。それは、かなり錆び付いてはいるものの、高価そうな金色のランプだった。おとぎ話に出てきそうな代物が、何故かおばあちゃんの押入れから出てきた。何故おばあちゃんがランプを持ってたのかは分からなかった。きっと、知り合いのインド人からお土産でもらったんだろう、そう納得することにした。それにしてもどうしようか、このランプ。売ったり処分したりするのはおばあちゃんに申し訳ないし、取り敢えずお母さんにでも相談しようか、そんなことを考えていた時
「ほう、やっと見つけましたよ……」
突然謎の男が背後から話しかけてきた。私は驚いて飛び上がった。不審者だ !
「お嬢さん、そのランプ私に譲ってくれませんか ?勿論ただでとは言いません、それ相応の対価は払うつもりですよ」
男はそう言うとにっこり微笑んだ。いきなり何を言ってるんだこの人は !
突然背後から現れて不審者そのものだが物腰は柔らかくビジネスマンのように気品のある風貌だ。
身なりもそれなりに地位のある仕事についてそうな雰囲気だった。しかし、どうにも胡散臭かった。それだけではない、この男からこの世の人間とは思えない得体の知れない不気味さと違和感を感じた。上手く言えないのだが、現実感が無いというかファンタジー世界に生きていそうな気がする。
「どうしました ?黙ってないで何とか言ってくださいよ、私も暇では無くてですねぇ」
私は相手の話を最後まで聞く前に一目散に逃げ出した。
おばあちゃんが生前言い聞かせてた、知らない人の言うことは聞いちゃいけないという言葉を思い出したからだ。不審者の要求に易々と応じてはいけない。ましてはおばあちゃんの遺品を譲ってくれなんて、普通じゃない。きっと何か企んでるに決まっている。このご時世、女子高生は狙われやすいのだ。私は裏庭から外へ向かった。その様子を見ながら、男は不敵に笑う。
「フフフ、下等な人間ごときがこの私から逃げ切れるわけないでしょう」
私は何とか家を出た。夢中になって走ったので道順はでたらめだ。近所の公園に着いた所で私は足を止めた。もう限界だった。元々運動が得意な方では無かったのですぐに息を切らした。
久し振りに全力で走ったと思う。もうちょっと運動しておくんだった……。
「はぁ……はぁ……ここまで来れば安心かな……」
「それはどうでしょうか」
背筋が凍った。まさか、あれだけ走ったのにもう追い付かれたのか!しかも男は息も切らしていない。
「無駄な体力を使わせないでくださいよ、貴方ごときが、この私から逃げ切れるわけないのですから……」
私はもう動けなかった。得体の知れない恐怖を前に、膝を落としてしまった。理解が追い付かない。相手は人間じゃない。
「そんなに逃げなくても良いじゃないですか、私ってそんなに怖いですか ?ちょっとショックです」
怖いです。色々と。
「まあまどろっこしい話は抜きにして、いい加減そのランプを渡して下さい。貴方が持っていても何の意味もありませんよ」
男はゆっくり私に詰め寄る。確かに、ランプはたまたま見つけただけで、何の思い入れもない。売る、処分するという選択肢すら浮かんだくらいだ。これを渡せば私は無事かも知れない。でもおばあちゃんが大切にしていたということだけは確かだ。こんな胡散臭い化け物に渡していいはずがない。
「お……お断りします……!」
声が震えた。きっぱり言うつもりが、我ながら情けない。
「ほう…?」
男は眉をひそめ、睨んだ。私は負けずに続けた。
「こ、これは、おばあちゃんが…大切にしていたものです…!貴方には……渡せません……!」
私はランプを強く抱き締めた。震えが止まらない。
「そうですか……出来るだけ手荒な真似はしたくなかったのですが……残念です」
男は手から何かエネルギーの塊のような玉を出した。野球ボール程の大きさで、黒く禍々しい色をしていた。殺意の塊のようなこの玉はとてもこの世のものとは思えない。
「下等な人間よ、この悪魔である私に楯突いたこと、後悔しながら逝きなさい !」
玉は私に向かって投げられた。避ける体力は残っていないし、そもそも元気でも避けられる自信はない。ごめんなさいおばあちゃん。私もすぐにそっちに向かうね……。
その時、突然ランプが光りだした。
「きゃっ !」「眩しい !?何なんですか ?」
私も男も思わず目を覆った。そして恐る恐る目を開いた。すると、驚くべき光景を目にした。私の目の前に、謎の男が立っていた。
頭にターバンを被り、マフラーをし、上半身は裸でアラジンパンツを履いた、若い青年の姿をしていた。
「主、無事ですか ?」
男は振り向き、優しく微笑んだ。
To Be Continued