第百九十六話・胡散臭い訪問
ミライ、ルーシー、コロナ、クロスは四人でとあるクエストに向かった。
内容は南の方向で暴れる巨大猪の討伐と言ったものだ。
私達は彼女達の帰りを待ちながら「オールアプセクトハウス」で待機していた。
「三人共無事に帰ってきますかね……」
リリィは三人の身を案じながらテーブルを布巾で拭いていた。
「心配し過ぎだよ、あいつらはああ見えて強いからな」
ヴェルザードは素っ気なく言った。
その一方でエルサはそわそわしながらウロウロ行ったり来たりを繰り返していた。
忙しなく歩き回り、床を踏む音がリズムのように刻まれた。
「ギシギシうるせえぞエルサ !落ち着きがねえな !」
マルクは鬱陶しそうにエルサを怒った。
「す、すまん !ルーシーのことが心配で……いや、あの娘は元魔王軍幹部だし、強いことは充分分かってるつもりだが、万が一のことを考えるとつい……」
エルサは大慌てで弁明した。
かつて生き別れ、敵対し、紆余曲折を経てようやく仲の良い姉妹に戻れたのだ。
心配するのも無理はない。
「大丈夫ですよ、皆無事に帰ってきますから」
「ワカバ……」
私はエルサの肩をそっと叩き、宥めた。
エルサは少し落ち着いたのか、椅子に腰掛けた。
その時、コンコンとドアを叩く音が聞こえた。
「あ、私が出ます」
私はそう言うと玄関に出て扉を開けた。
ヴェルザード達は警戒し、陰からそっと身構え、戦闘体勢に入った。
「あのー、すいませーん、依頼に来たんですけどー」
ドアの向こうから優しそうな青年の声が聞こえた。
私は恐る恐る慎重に扉を開けた。
「あ、どうもはじめまして」
扉の前に立っていたのは琥珀のような金色の髪をした、美しい知的な好青年だった。
「ウエンツって言います、魔王軍を壊滅させた英雄様方に是非依頼をお願いしたいんですが」
ウエンツと名乗る青年は屈託のない笑顔を浮かべた。
ミライ、ルーシー、コロナ、クロスの四人は大猪を倒し、クエストを成功させた。
魔術師の集団に狙われている以上、単独行動は危険な為、最低でも三人で外出することにしていた。
彼女達はクエストを終わらせ、「オールアプセクトハウス」を目指して歩いていた。
「今日も疲れたね~お腹ペコペコだよ~」
「リリィさんの料理が待ち遠しいよ」
三人は雑談をしながら道を歩いていた。
ルーシーもすっかり彼女達と打ち解け、問題なく輪に入っていった。
「それにしてもさ、出かける時、お姉ちゃんすごくうるさかったんだよ ?危なくなったらすぐ逃げろとか門限は必ず守れって、僕はもう子供じゃないのにさ」
ルーシーは腕を後ろに組ながらめんどくさそうに姉の愚痴を言った。
「でもそれってルーシーが心配だからだよ~」
ミライは優しく諭すように言った。
「まあ……そりゃ分かってるけどさ……」
ルーシーは少し照れたのか、顔を赤くした。
「私もよくお母さんから手紙貰うよ~風邪に気を付けてとかバランスよく食事を取れってとかいっぱい書かれてるよ~」
「過保護だね……そのお母さん」
「えへへ~私は嬉しいけどね~」
コロナは二人のの話を聞いているうちに、自分の母について思いにふけっていた。
母は聡明で、慈愛に満ちていた。
心配性でいつも気にかけてくれた。
親子で過ごした日々はかけがえのないものだった。
だが彼女の母は暴徒化した村人達から娘を守るため、自らの身を犠牲にした。
もう二度と会うことは出来ない。
コロナはミライとルーシー、それぞれ母親に相当する存在がいることを羨ましく思っていた。
「コロナ、元気ないぞ ?大丈夫か ?」
うつ向くコロナをクロスは気にかけ、声をかけた。
「いや、大丈夫……何でもないから……」
コロナは微かに笑顔を浮かべた。
「コロナちゃん~、今度の休日、皆で遊びに行こうよ~」
ミライは無邪気にコロナを後ろから抱きついた。
「ミライお姉ちゃん……」
「嫌なことは皆で遊んで忘れようよ~」
ミライはコロナの顔を見つめながら微笑んだ。
「良いね良いね、僕達四人で出掛けようよ !で場所は何処にするの ?」
「それは~まだ決まってないけど~まあ楽しければ何処でも良いよ~」
ミライは屈託のない笑顔で翼を大きく広げ、ルーシーも巻きみ、三人で抱き合った。
「うん……」
ミライなりにコロナを元気づけたいと思ったのだろう。
コロナには親はいないが、友達はいる。
それだけで彼女は幸せだった。
「へぇ~てめえらがあの無限の結束か」
その時、彼女達の前に小柄な少女が立ち塞がった。
「君はもしかして……迷子~ ?」
ミライの天然ぶりに小柄な少女はずっこけた。
「誰が迷子だ !子供扱いすんじゃねえ !俺はシャロンだ !」
シャロンは乱暴な口調で罵倒した。
「てめえら危機感無さすぎだろ、ペチャクチャペチャクチャ仲良くしやがって、なあエイワス !」
小柄な少女、シャロンは嘲笑いながら遠くに呼び掛けた。
「ええ全く、あの魔王軍を壊滅させた者達とは思えんな……」
男の声が聞こえた瞬間、巨大な蔦のようなものが振り下ろされた。
「危ない !」
ルーシーはいち早く察し、皆を抱えてダイブし、間一髪で回避した。
「流石はダークエルフ……反射速度は桁違いのようだ……」
ルーシー達は後ろを振り向くと砂煙の中から拍手をしながら男、エイワスが現れた。
男は七三分けで貴族のように上品な佇まいをしていた。
「貴様らは……何者だ……まさか魔術師か !」
クロスは汗を垂らしながら尋ねた。
「いかにも、我々は偉大なる魔女様に仕えし魔術師……」
「不死鳥の涙だぜ、覚えとけよな」
シャロン、エイワスは不敵な笑みを浮かべた。
To Be Continued




