第百九十五話・魔術師達の企み
爬虫の騎士団が何者かの襲撃を受け、全員重傷を負ったという知らせは瞬く間に広まり、町の人々は不安に駆られた。
私達の所にも謎の魔術師の集団を捕まえてくれとの依頼の手紙が殺到した。
私達は「オールアプセクトハウス」で今回の件について話し合った。
事態は深刻を極めていた。
「そんな……ラゴンさん達がやられるなんて……」
私はショックが大きく、手で口を塞いだ。
彼等は私を助けるために勇敢に魔王軍に挑んでくれた仲間である。
そんな彼等が一方的に倒されるなんて異常事態に他ならない。
「ヒュウから聞いた話だと、全員黒ずくめの魔術師だったそうだぜ……」
ヴェルザードは悔しそうに拳を震わせた。
爬虫の騎士団だけではない、名の知れた冒険者パーティーや騎士団が謎の魔術師達の襲撃に遭い、被害を受けていた。
「魔術師か……」
魔術師とは、魔女の血を引く子孫達が己の中に眠る力を血の滲むような鍛練によって開花させたことにより、魔術を操れる者達の総称である。
大抵は魔法使い、僧侶となって冒険者のパーティーに属するのだが、中には魔術師だけのチームを結成することがあるという。
「でも何で名のある騎士団や冒険者パーティーばかりが狙われてんだ ?」
マルクは不思議そうに言った。
「さあ、昔の僕達みたいに人間が嫌いってわけでもなさそうだしね」
ルーシーは腕を後ろに組ながら答えた。
「……確かヒュウが言ってたな……自分達の強さが竜族よりも優れてることが証明されたとか……」
「つまり奴等は力のある者達を狙ってるってことか ?」
強い者を倒して名を上げる……所轄道場破りみたいなものか……。
「ということは、名前が知られている以上、私達も狙われる可能性は高いな……」
エルサは深刻な表情で言った。
他の皆は何も言えず、黙るしかなかった。
「何だよ皆 !大人が揃いも揃って情けねえ !この俺が返り討ちにしてやるぜ !」
重苦しい空気をぶち破るようにグレンは声高に宣言した。
「グレン、落ち着け」
クロスは静かに空気を読み、グレンを取り押さえた。
魔術師と聞いて、コロナは何か心当たりがありそうな顔をしていた。
「コロナちゃん、どうしたの~顔色悪いよ~」
ミライは優しくコロナに尋ねた。
「え、えっと……何でもないです……」
コロナはフードを深く被った。
「兎に角君達、外出する際は十分に周りに注意してくれ、それと絶対に一人になるな、必ず仲間と行動するんだ」
エルサは鶴の一声で全員に呼び掛けた。
魔術師集団は神出鬼没、何時如何なる時も油断は出来ない。
皆はそれぞれ肝に命じた。
ここはお化けが出そうな暗い雰囲気のボロく小さな小屋。
数羽のカラスが屋根に止まり、屋根裏には蝙蝠が飛び回っていた。
この場所は魔術師達の活動拠点と化していた。
天候は荒れ、槍のように雨が降り注ぎ、雷が頻繁に鳴っていた。
五人の魔術師は大量の藁を椅子代わりにして腰を下ろしていた。
「しかし、無限の結束ってそんなに強いんかねぇ、ウエンツ」
ヤンチャそうな銀髪の青年・コルトがウエンツに語りかけた。
「そうだぜ ?竜族つっても大したこと無かったし、まあ俺らが強くなりすぎたのもあるけどな」
小柄で生意気そうな少女・シャロンは虫達と戯れながら言った。
「無限の結束の戦績は計り知れない……各地で目覚めた魔獣を次々に討伐し、かつて一大勢力を誇っていた闇ギルド「憎悪の角」を壊滅させ、竜族との戦争に勝利し、挙げ句の果てに魔王を打ち倒した……既にS級の英雄として国中から崇められている……」
ウエンツはパイプをくわえ、煙を吸いながら語った。
「魔王軍に勝ったという事実……これは大きい……特に魔人イフリート……伝説かと思われていたが、まさか本当に存在していたとはな……」
「それを聞いたらちょっと自信無くなるよね……」
紳士的な男・エイワスは情けない声で言った。
面長で目が死んでおり、顔が怖いと評判だが実は小心者である。
「四大元素魔法の使い手も奴等の側にいるみたいだしな」
フードを被った飄々とした男、ゾーラは退屈そうに腕を後ろに組ながらコロナについて喋った。
コロナは火、水、土、風の四属性の魔法を一人で操れる魔女の中でも極めて稀な存在。
ウエンツ達に限らず、その力を狙うものは多い。
「そういやよ、お前この前四大元素魔法の使い手の戦いを視察したって言ってたよな ?」
「ああ、そうだよ」
ゾーラは素っ気なく答えた。
かつてコロナがとある集落で魔王軍幹部、憤怒の災厄の雪女アイリと戦っていた時、ゾーラは気付かれないよう陰から見ていたのだ。
コロナの持つ魔力、技術力を調べる為に。
「幹部クラスを単独で倒せるくらいには力を増しているぜ……あんなに幼いのに流石は偉大なる魔女、エクレア様のご息女だ……」
「そのご息女様をエクレア様はやたら欲してるからなぁ、人使いが荒いぜ全く」
コルトは呆れながら言った。
「良いか、気取られないよう、慎重に行動をし、バラバラに分かれている所を狙うんだ、全員揃われたら面倒だ、イフリートは僕が倒す」
「わーってるよウエンツ」
コルトはウエンツの肩を小突いた。
「時代は僕らを待っているんだ……」
ウエンツは不敵な笑みを浮かべながらメガネをクイッとかけ直した。
その瞬間、辺り一瞬眩い閃光を放ち、ゴロゴロと獣の唸り声にも似た雷が落下する音が響き渡った。
To Be Continued




