第百九十二話・ゴブリン事件、終結
驚異的なタフネスを誇った超魔獣ゴブリンロードも遂に倒された。
ゴブリンロードは壁に埋もれ、落ちてきた岩に塞がれ、生死は確認出来なかった。
だがあれだけの攻撃を浴びたのだ。流石に生きてるはずがないだろう。
「はぁ……はぁ……やった……のか……」
グレンは魔力を使い果たし、息を切らしながらその場で胡座をかいた。
「僕達が勝ったんだ……これは紛れもない事実だ」
クロスはそう言いながらグレンの肩を掴んだ。
「ああ、そうだな」
グレンはクロスに笑顔を向けた。
大人達に内緒で勝手に依頼を受け、皆を巻き込み、怪我も沢山した。
それでも戦いが終わって、皆が無事で心の底からホッとした様子だった。
「うわぁ……どうするんですかこれ……」
ライナーはゴブリンロードが埋もれ、岩に封じ込められた方向を見て愕然としていた。
彼等の本来の目的はゴブリンロードを引き抜いて魔王軍に加えることだった。
だがゴブリンロードは倒され、生死不明となった今では計画は失敗と言わざるおえないだろう。
「諦めますわよ、元々凶暴なゴブリンロードですから、配下になっても手に負えませんわ」
「そうっすね……」
「でも帰ったら何て報告するゾ ?」
三人は頭を悩ませた。
「まあ良いですわ、この私が上手いこと言い訳を作りますから !コロナさん !」
レヴィは突然コロナに指を指した。
「今回は協力して差し上げましたが次会う時は私達は敵ですわ !それをお忘れなきように !」
「うん、また会おうね !」
コロナは笑顔で答えた。
「う……何だか調子が狂いますわね……まあ良いですわ……ライナー、サイゴ !帰りますわよ !」
「「は、はい !」」
レヴィは少し顔を赤くしながら二人を連れて退散しようとしたがすぐに立ち止まった。
そして振り返り、今度はワカバを指指した。
「そこの胸の大きいイフリートの召喚士 !魔人を使役出来るからといって調子に乗るんじゃありませんわ !いずれ私が相手をして差し上げますから、それまでに精々腕を磨いておくことですわ !」
レヴィは捨て台詞を吐き、気が済んだのか今度こそ退散した。
残ったのはワカバ、リト、コロナ、グレン、クロスだけになった。
「……コロナちゃん、お友達出来たみたいだね、ちょっと変わってるけど……」
「うん……今はまだ敵同士だけど……いつか本当の友達になりたい……」
ワカバに尋ねられ、コロナは少しはにかみながら言った。
「あの……ワカバ……姉ちゃん……」
グレンは少し恥ずかしそうにワカバに言い寄った。
「勝手にクエストに出掛けて……ごめんなさい !俺が無理矢理二人を誘ったんだ…… !」
グレンは勢い良く頭を下げた。
「グレンくん……大丈夫だよ、皆無事だったんだから……でも次からは君達だけで勝手に出掛けたらダメだよ ?」
ワカバは屈み、グレン達と同じ目線で優しく諭した。
「うん……今度から気を付けるよ……」
「グレンくんが強いのは皆知ってるから」
ワカバは優しい笑みを浮かべた。
グレンは少し顔を赤く染め、恥ずかしさからワカバから顔を背けた。
その様子を見て、クロスは何かを察したようだった。
「主、そろそろ帰還した方が宜しいのでは ?」
腕組みをしながらリトはワカバに話しかけた。
リトは制限時間が迫りつつあるのか、消えかけていた。
「そ、そうですね……皆心配してるだろうし……」
「それじゃあコロナ、帰るか」
「うん……」
「帰ったらエルサさんの説教が待ってるよ~」
ワカバは意地悪っぽくグレンを脅かした。
「あ……そうだった……」
グレンは分かりやすく青ざめた。
それを見てワカバ達は可笑しそうに笑った。
かくしてワカバ達はゴブリンの巣窟を後にした。
リトはランプの中で今回の件について考えていた。
「何故ゴブリンロードが暴走し、ゴブリン達が凶暴化したのか……まだまだ謎は多いですね……」
その答えは誰も解き明かせなかった。
誰も居なくなったゴブリン達の巣窟。
激しい戦闘により、辺りは砕けた岩が散乱し、壁は抉られ、大地は陥没し、酷い有り様だった。
そこへ、一人の男が一瞬のうちに姿を現し、辺りを見回した。
「派手に暴れましたねぇ……」
新生魔王軍の統率官、最高悪魔のミーデだ。
レヴィ達にゴブリンロードを回収してこい等と無茶な命令を下した張本人でもある。
「はぁっ !」
ミーデは岩によって塞がれた穴の前に立ち、岩を全て消し飛ばした。
すると壁に3メートル程の巨人がめり込み、苦しそうに呻いていた。
あれだけの総攻撃を受けながら、ゴブリンロードはまだ生きていたのだ。
力を使い果たし、魔獣も解けて、息も絶え絶えだった。
「素晴らしい生命力、貴方がゴブリン達の王、ゴブリンロードですね ?」
ミーデは既に虫の息であるゴブリンロードに問い掛けながら手を差し伸べ、闇の魔力を注いだ。
全身に受けた痛々しい傷が一瞬で消え去った。
「お……まえ……は……」
ゴブリンロードは口を僅かに動かしながら小声でミーデに問い掛けた。
「私の名前はミーデ……貴方の上司になるお方ですよ」
ミーデはにっこり笑うとゴブリンロードの巨体を軽々と担いだ。
「悪魔三銃士の皆さんには感謝してますよ……最高の部下をスカウト出来るのですから、後で報酬を与えて差し上げましょう」
ミーデはニヤリと笑うとその場から立ち去ろうとした。
その時、背後から気配を感じた。
「誰ですか ?貴方は」
「困るなぁ、折角の玩具を勝手に持ち去ろうとしないでおくれよ 」
ミーデの背後に立っていたのは長身で妙齢の美しい女だった。
「成る程……貴方がゴブリン事件の黒幕というわけですか……ゴブリンロードに分不相応の力を与えて暴走させたのは貴方ですね」
ミーデは女に問い掛けた。
「まあ、そういうことになるなぁ、丁度実験の最中でね、何でも言うことを聞く人形のような兵器を作る為、特別耐久性に優れた個体のゴブリンロードに我が力を与えたのだ……だが実験は失敗に終わったが……代わりに収穫もあったよ」
女は少し嬉しそうに語った。
「貴方の話に興味はありませんよ、私はこのゴブリンロードを回収してさっさと帰りますからね」
ミーデはそう言うとゴブリンロードを担いだまま、立ち去ろうとした。
「無限の結束……」
女の言葉を聞いた瞬間、ミーデはピクンと眉を潜め、立ち止まった。
「話は聞いているよ、君達の魔王軍が彼らによって壊滅させられたことを……そして今は新生魔王軍となって兵隊集めに奔走している真っ只中だと……」
「そこまでご存じとは光栄ですねぇ」
ミーデは苛立ちを隠しつつ、笑って見せた。
「良かったら君らの目の上のたんこぶである無限の結束……我らに任せてくれないか ?」
「ほう……実験を邪魔された腹いせですか ?しかし彼等は手強いなんてレベルじゃありませんよ ?一人一人が一騎当千の強さを秘めています」
女は余裕の表情で堂々としていた。
「奴らの相手をするのは私の自慢の教え子達だよ、私が手塩にかけて育てたんだ……きっと素晴らしい結果を残すと思うよ」
女は自信に溢れている様子だった。
「成る程……では楽しみにしていますね……ゴブリンロードは頂いていきますよ」
「構わんよ」
ミーデは影の中に沈み、その場から消え去った。
洞窟には女一人だけが残った。
「待っているがいい……コロナ……いずれ君もこちら側に引き抜いてやるぞ……ふふふ……ハハハハハハ !!!」
女は狂ったように高笑いし、全身から灼熱の炎を放ち、周囲に撒き散らした。
笑い声は洞窟中に響き渡った。
To Be Continued




