第百九十一話・リトvsゴブリンロード
超魔獣ゴブリンロードからコロナ、レヴィを救ったのは一人の少女、安住若葉だった。
「ごめんね、遅くなって……」
ワカバは優しく微笑みながらコロナを抱き締めた。
「ワカバお姉ちゃん……」
コロナは頼もしい援軍を前に安堵し、涙を浮かべた。
「だ、誰ですの…… ?この胸のふくよかで地味めの女性は……」
レヴィはワカバと直接的な面識は無い。
マジマジと羨ましそうに彼女の胸をガン見した。
ワカバは視線が気になり、少し照れた。
「ワカバお姉ちゃん、魔王にも勝った、頼れる召喚士のお姉ちゃんなんだよ !」
「そ、そうなのですか…… ?」
コロナは目を輝かせながら言った。
元々は異世界に連れてこられた普通の女子高生だったが、魔人リトと共に幾多の死線を潜り抜け、成長してきた。
コロナにとっては頼もしい姉のような存在なのだ。
何故ワカバがコロナ達の居場所か分かったのかと言うと、グレン達が例の牢獄に向かっていくのを見かけたワカバが多忙なエルサに頼まれ、こっそり後をつけていたからだった。
「ワカバ姉ちゃん……来てたのか……いてて、俺達だけで解決しようと思ったのに……残念だぜ……」
グレン、クロスは腕を押さえながらワカバ達の元に駆け寄った。
「全く……無茶して……後でエルサさんに説教してもらうからね」
「う……それは勘弁してくれよ……」
ワカバは少しきつめにグレン達を叱った。
グレンはエルサの怒った顔を思い浮かべ、げんなりとした。
グギャアアアアア
ゴブリンロードは体勢を立て直すと雄叫びを上げ、グレン達を威嚇した。
「ワカバ姉ちゃん……あの化け物……凄く強いよ……」
「超魔獣ゴブリンロード……森のゴブリン達が凶暴化した元凶だ」
グレン達は警戒心を強め、身構えた。
「分かった……私も加勢するよ…… !」
「主、ここは私に任せてください」
ワカバの持つ魔法のランプからリトの声が聞こえた。
「分かりました、お願いします、リト !」
「ええ !」
ランプは突然閃光を放ち、注ぎ口からリトが勢い良く飛び出し、ゴブリンロードの顎に激突した。
ゴブリンロードの巨体はバランスを崩し、大の字になって崩れ落ちた。
「さ、貴方の相手はこの私ですよ」
リトは宙に浮きながらゴブリンロードを見下ろし、挑発した。
「あれは…… !伝説の魔人……イフリート !」
「あんな小娘が召喚してたとは……驚きだゾ…… !」
レヴィ達はリトの姿を間近で見て仰天し、腰を抜かしていた。
グワァァァァァ
ゴブリンロードは激昂し、勢い良く起き上がるとリトを鷲掴みにしようと腕を大きく振り回した。
だがリトは軽やかにかわし、空中を飛び回った。
「動きが鈍すぎますよ !指撃熱線 !」
リトは指先から熱線を連続で放ち、ゴブリンロードに浴びせた。
グギャアアアアアオオオオ
ゴブリンロードは全身が燃え上がり、呻き声を上げながら苦しんだ。
「ウオオオオオオオ !!!」
リトは黒いオーラを身に纏い、筋肉を膨張させ、凶暴な顔つきの魔人形態に変身した。
ゴブリンロードは全身が炎に包まれながらもリトに殺意を向け、襲い掛かろうとした。
ドゴッ バゴォッ
リトは間合いを詰め、ゴブリンロードの懐に入り込み、力強く腹にパンチをめり込ませた。
鉱石をも砕く程の重い一撃をまともに喰らい、ゴブリンロードは顔を歪ませ、吐血した。
リトの追撃は止まない。
次々に重いパンチを繰り出し、ゴブリンロードを容赦無く追い詰める。
そしてゴブリンロードの太い腕にしがみつき、その巨体を持ち上げると背負い投げをし、地面に思い切り叩き落とした。
震動で大地が揺れ、岩場が崩れた。
「危ない !神月疾風 !」
リトとゴブリンロードによる激しい戦いによる余波で岩が飛び散った。
ワカバは素早く剣を振るい、飛んできた岩を切り裂き、コロナ達を守った。
「大丈夫…… ?」
「うん……ありがとう……」
ワカバは振り返り、無事を確認した。
コロナもレヴィも無事のようだ。
「す、すげえ…… !」
グレンは魔人形態のリトの戦いぶりを見るのは初めてであり、真剣に観戦しながら胸を踊らせていた。
六人がかりでどうにもならなかった相手をたった一人で無双する姿にグレンは目を輝かせていた。
ンガァァァァァァァ
魔人形態のリトによる攻撃を受け続け、フラフラになりながらもゴブリンロードは胸を叩き、奮起した。
リトは黒き魔人の姿から細身で穏やかな青き姿に変身した。
より魔力のコントロールを極め、特殊能力に長けた蒼炎形態である。
「火竜の召使……」
リトは炎で出来た竜を数体召喚した。
火竜達はゴブリンロードめがけて突撃した。
チュドドドド
火竜達は一斉にゴブリンロードに体当たりをし、激しく爆発を起こした。
ゴブリンロードはもがきながら爆炎に飲み込まれた。
鎧のように頑丈だった皮膚もボロボロで、何とか気力で立っているようなものだった。
勝敗は既に決した。
「さあ皆さん、一気に決めますよ」
リトはワカバ達の方を見ながら指示を出した。
「うん !」
「フィニッシュを決めてやるぜ !」
ワカバ、グレン、クロス、ライナー、サイゴは疲弊し、満身創痍のゴブリンロードに向かって走り出した。
「神月颶風 !」
「黒羽根拡散弾 !」
「包帯鞭 !」
「単眼巨人棍棒 !」
四人による一斉攻撃が始まった。
ワカバは風の魔力を極限まで研ぎ澄ませ、巨大なハリケーンを生み出した。
クロスは黒い羽根を弾丸のように連射した。
ライナーは自らに巻き付く包帯を鞭のようにしならせて叩きつけ、サイゴは高く飛び上がり、棍棒を全力で振り下ろした。
グギャアアアアア
四人による一斉攻撃をまともに喰らい、ゴブリンロードは悲鳴にも似た雄叫びを上げた。
「光冠爆破 !」
「猛毒波 !」
後方でコロナは巨大な炎の塊を、レヴィは猛毒のエネルギー波をそれぞれ放ち、だめ押しでゴブリンロードにぶつけた。
ゴブリンロードは爆炎に包まれ、苦しそうに呻いた。
「グレンさん、とどめを刺しますよ……」
「分かってるよ !うおおおおおおおおお !」
リトに促され、グレンは全身に力を込め、スパークを走らせた。
グレンは充分に魔力を高めると大地を蹴り、凄まじい速さでゴブリンロードに向かっていった。
「迅雷の極み !」
ザバァッ ビリリィッ
グレンは残された最後の力を振り絞り、雷の魔力を込めた渾身の一太刀をゴブリンロードに浴びせた。
ゴブリンロードの体を稲妻が駆け巡った。
「蒼燃焼巨砲」
ボオオオオオオオオオ
グギャアアアアアオオオオ
リトは片手を突き出し、青く輝く熱線を放ち、ゴブリンロードを壁際まで吹っ飛ばした。
壁は破壊され、ゴブリンロードは青き炎に焼き尽くされながら断末魔を上げ、何処かへ消えていった。
長かったゴブリンロードとの戦いにようやく終止符が打たれた。
To Be Continued




