第百八十九話・止まらない帝王
「ゴブリンロード…… !」
小鬼達を統べる絶対的な支配者……。
邪悪なオーラを纏い、目を血走らせ、涎を垂らし、3メートルはある巨人は巣窟を荒らす侵入者達を敵意剥き出しの表情でじっくりと品定めするように見下ろした。
「れ、レヴィさん……あんな化け物、本気で仲間になると思ってるんですかね……」
「そんなの知りませんわよ !ミーデめ……無茶苦茶な命令を出して、ほんと許しませんわ…… !」
レヴィ達は身震いしながら一歩ずつ後退りしていた。
「貴方達 !接近戦は任せましたわ !私達は後方に回って援護しますわよ !」
調子の良いことを言ってレヴィ達は巨大な岩を盾にしながら身を潜めた。
「あ、きたねえぞ !お前らも戦えよ !」
グレンは呆れながら突っ込んだ
ギシャアアアア
そんなことはお構いなしにゴブリンロードは雄叫びを上げ、地団駄を踏み、岩を蹴り飛ばし、見境なく暴れ始めた。
「あの人……何処か苦しそう……」
「え ?」
コロナは暴れ狂うゴブリンロードを見て、意外なことを言った。
「きっと……病気になって苦しんでるんだよ……それで暴れてるんだと思う……」
コロナの指摘は正しかった。
ゴブリンロードは何者かの仕業によって理性を狂わせられ、異常を起こしていたのだ。
「人為的な力が働いていたってことか……」
「兎に角こいつを大人しくさせりゃ万事解決ってわけだな !」
グレンは剣を構え、ゴブリンロードに向かっていった。
「はぁぁぁぁぁぁ !」
キィンッ
グレンは剣を振るい、ゴブリンロードの腹を狙って斬りつけた。
だがゴブリンロードの皮膚は鋼のように硬く、ヒビすら入らなかった。
恐らくスケルトンキメラの骸の鎧よりも硬い強度を誇るだろう。
「こいつ…… !硬い…… !」
ゴブリンロードは大きな腕を振り上げ、グレンを叩き潰そうとした。
「影の手 !」
直前でクロスは影の手を出現させ、ゴブリンロードを拘束した。
「今だ !コロナ !」
「うん…… !風車の槍 !」
ザシュッ
コロナは竜巻のような槍を作り出し、ゴブリンロードを串刺しにした。
鎧のように硬い皮膚を貫き、大量の血が撒き散らされた。
「やった…… !」
小さくガッツポーズを決めるコロナ。
グガァァァァァ
だがゴブリンロードはダメージを負った素振りを見せず、雄叫びを上げ、全員を震え上がらせた。
まるで痛覚を感じていないようだった。
「そんな…… !」
ゴブリンロードは全身に巻き付く影を強引に引きちぎり、地響きを鳴らしながら走り、近付いてきた。
ドゴッ バキッ
「うわっ !」「ぐふっ !」「きゃっ !」
ゴブリンロードはグレン、クロス、コロナを順番に殴り飛ばし、壁に叩き付けた。
三人は壁に埋め込まれ、動けなくなっていた。
「ひっ……こっち見てますわよ…… !」
ゴブリンロードは標的を変え、レヴィ達に視線を向けると、ゆっくりと襲いかかってきた。
「きゃあああ !こっち来ましたわよぉぉぉ !」
取り乱し、絶叫するレヴィ。
「オラに任せるゾ !」
サイゴは自慢の巨体を生かし、ゴブリンロードと取っ組み合った。
「おお !流石サイゴ !」
両者は組み合って、互いに一歩も譲らなかった。
「ぐぬぬ…… !」
互角と思われていたが、ゴブリンロードの力がサイゴを上回っており、サイゴを豪快に投げ飛ばした。
サイゴは壁に叩き付けられ、瓦礫が散乱した。
「そんな…… !サイクロプスが力比べで負けるなんて…… !」
ライナーは情けない声で叫んだ。
ゴブリンロードは勝ち誇った様子で己の胸を叩いた。
「ば、化け物ですわ…… !ですが私達にも意地かありますのよ !」
レヴィは手に力を込め、紫色のエネルギーの塊を繰り出した。
「毒弾丸 !」
レヴィは毒の弾丸を放ち、ゴブリンロードに容赦なく浴びせた。
全身を蝕み、死に至らしめる強力な毒である。
だがゴブリンロードは硬い皮膚に守られ、毒を弾いてしまった。
「やっぱり駄目ですわ……」
ゴブリンロードは巨体とは思えぬほどアグレッシブに動き、凄まじい勢いでレヴィに襲い掛かった。
「レヴィさん !」
咄嗟にレヴィの前に立ったライナーだったがゴブリンロードの拳の前に敢えなく吹っ飛ばされ、天井にめり込んだ。
「がはっ !」
ライナーは白目を向き、天井に突き刺さった状態で失神した。
「ライナー !くっ…… !」
残されたのはレヴィただ一人になってしまった。
この時彼女は後悔した。
最初にゴブリンロードと対峙した時、グレン達に人任せにせず、自分達も協力すれば良かったと……。
「悪魔三銃士も……ここまでですわね……」
レヴィは自嘲すると覚悟を決め、瞼を閉じ、ゆっくりと下を向いた。
ゴブリンロードはそんな彼女に向けて容赦なく拳を振り下ろそうとした。
バンッ
寸での所でグレンとクロスがゴブリンロードに不意打ちを与えた。
勢い余ってゴブリンロードは岩場に激突した。
「貴方達…… !」
「今は仲間だろ…… !助けるのは当然だろ」
グレンはレヴィににこやかに微笑んだ。
「レヴィちゃん、立てる ?」
コロナはレヴィに手を差し伸べた。
「貴女には、助けられてばかりですわね……」
レヴィはツンとした態度を取りながらもコロナの手を取り、立ち上がった。
岩場に激突してよろめいていたゴブリンロードだが、何とか体勢を立て直していた。
「レヴィちゃん、合体技行くよ…… !」
「だから私に命令しないでくださいませ !」
コロナは杖を掲げ、青く発光させた。
レヴィも掌から毒々しいエネルギー弾を召喚した。
「溶解水 !」
澄んだ青い色の水と毒々しい紫色の毒が混ざり合い、二人の魔力は何物をも溶かす毒液に変わり、ゴブリンロードに降り掛かった。
グワァァァァァ
ゴブリンロードは全身を溶かされるような激痛に襲われ、もがき苦しんでいた。
本来なら魔物ですら消滅する程の威力だが鋼のように硬い皮膚に覆われたゴブリンロードを溶かすまでには至らなかったがそれでも全身が焼けるようなダメージを与えることに成功した。
「手応えありですわ !」
「うん…… !」
コロナとレヴィは嬉しそうにハイタッチをした。
「よし…… !クロス !今のうちに決めるぜ !」
「ああ !」
痛みを堪え、グレンは剣に魔力を集中させ、クロスはカラスの姿に戻り、翼を広げ洞窟中を飛び回った。
「勇敢な鳥 !」
「迅雷の極み !」
グレンの雷の魔力を込めた一太刀、低空飛行をするクロスの鋭い嘴の一撃を同時にゴブリンロードに喰らわせた。
溶解水により皮膚が弱った為、ダメージが通るようになったのだ。
グガァァァァァ
ゴブリンロードは断末魔を上げ、血を噴出させながら崩れ落ちた。
「よっしゃあ !」
グレンはゴブリンロードが戦闘不能になったことを確認し、ガッツポーズを決めた。
「やったな、グレン !」
グレンとクロスは互いに拳を重ねた。
「全く、貴方達にはいつも驚かされますわ……」
「えへへ……」
レヴィは呆れながらも少し嬉しそうにしながらコロナに微笑んだ。
コロナも嬉しそうだった。
「今治すね……癒しの雫…… !」
コロナはゴブリンロードの戦いでダメージを負ったライナーとサイゴに治癒の魔法をかけ、回復させた。
「おお、嘘みたいに痛みが消えましたよ !」
「流石魔女だゾ……」
ライナーとサイゴも大層驚いている様子だった。
「さて、ゴブリンロードも倒したし、そろそろ帰るか」
「あまり遅いと皆が心配するからな」
グレン達は任務を果たしたことで、帰る準備を始めていた。
「でどうするんすか ?ゴブリンロードを仲間にするんでしたよね」
「気絶してるみたいだし今のうちに運ぶゾ ?」
「そ、そうですわね……」
レヴィ達はグレン一行の隙を見てゴブリンロードを回収しようとした。
コロナ達に助けてもらったことに恩は感じるがそれとこれは別とレヴィは自分に言い聞かせた。
だがレヴィ達がゴブリンロードに近付こうとした瞬間、異常が起こった。
「な、何ですの !?」
ゴブリンロードはゾンビのように突然不気味に立ち上がった。
その瞳には生気を感じなかった。
「嘘だろ !?まだ元気じゃねえか !」
「いや、元気には見えないだろう」
ゴブリンロードは雄叫びを上げると邪悪なオーラを爆発させ、更に巨大化した。
「ま、まさか…… !」
ゴブリンロードは40メートル程に巨大化し、超魔獣ゴブリンロードに進化した。
何者かが気絶したゴブリンロードに何か細工を施したようだ。
「超魔獣なんて……もうおしまいですわ…… !」
レヴィは絶望し、へたりこんだ。
ライナー、サイゴも立ちすくみ、乾いた笑いをするしか無かった。
だが、そんな絶体絶命な状況の中、未だに戦う意志を持つ者達がいた。
グレン、クロス、コロナの三人だ。
「貴方達……あんな怪物と戦うつもりですの…… ?」
レヴィは掠れた声で問い掛けた。
「受けた依頼は最後までこなす !俺達は絶対逃げねえ !」
「お前達は無理する必要はない、今からでも隠れるなり逃げるなりしろ」
「レヴィちゃん、ここは私に任せて !」
巨大な敵を前にして、三人の目は熱い闘志の炎が宿っていた。
超魔獣と化したゴブリンロード……果たしてこの怪物を倒すことが出来るのか……。
To Be Continued




