第百八十八話・襲来、ゴブリン軍団
グガァァァァァァァァ
ゴブリンロードは洞窟中に響き渡る程の雄叫びを上げ、グレン達を威嚇した。
それに呼応するかのようにゴブリン、ホブゴブリン達は武器を構え、ワラワラとグレン達に襲い掛かった。
「皆行くぜ !」
「私達に命令しないでくださいまし !」
グレン、クロス、コロナ、レヴィ、ライナー、サイゴはそれぞれ戦闘体勢に入り、ゴブリン軍団との戦闘に突入した。
「ぬおおおお !」
サイゴは棍棒を振り回し、ゴブリンを凪ぎ払おうとしたが、巨体故に動きの鈍いサイゴは俊敏に動き回るゴブリン達に翻弄されていた。
サイゴの大振りな攻撃は殆ど空振りに終わった。
「こいつら……すばしっこいゾ !」
サイゴはゴブリン達にしがみつかれ、身体中を噛み付かれた。
「サイゴォォオォォオ !」
ライナーはゴブリン達にしがみつかれ、袋叩きに遭っているサイゴを助けるため、走り出した。
「小賢しいですよ !包帯触手 !」
ライナーは身体中に巻かれた包帯を触手のように伸ばし、サイゴを襲うゴブリン達を一匹残らず縛り上げ、一網打尽にした。
「うぐぐ…… !大丈夫ですか……サイゴ…… !」
「おう、平気だゾ……いてて……」
ライナーは拘束されてもなお暴れるゴブリン達を必死に抑えながらサイゴに呼び掛けた。
サイゴの全身のあらゆる所に歯形がくっきりと残った。
たとえ自分より巨大な相手だろうと臆することなく襲うゴブリンの獰猛さを表していた。
「お返しするゾ !」
グシャァァァァン
包帯によって拘束され、身動きの取れないゴブリン達をサイゴは棍棒で叩きのめした。
「ふう……すげえ痛かったゾ」
「ゴブリン……恐ろしい奴等ですね……」
数に物を言わせて集団で獲物を狩る……そんなゴブリン達の恐ろしさを改めて二人は思い知った。
「黒羽の分身」
同じ頃、クロスは数人に分身し、翼を広げ群がるゴブリン達に向かっていった。
「空斬 !」
シュパッ
クロスは翼を羽ばたかせ、空気の刃を放ち、ゴブリン達を次々に斬りつけた。
「はぁ……キリがないな……」
どれだけ倒そうとも、ゴブリン達は次々に沸いて出てきた。
クロスは息を切らし、苦笑いをしながらも立ち向かっていった。
「きゃあっ !?」
一方レヴィはホブゴブリン相手に苦戦を強いられていた。
ゴブリンの上位種であるホブゴブリンとレヴィの体格差は歴然であり、一人ではとても敵わなかった。
「この私が……悔しいですけど……負けてるようですわね……」
ホブゴブリンは武器を掲げ、倒れているレヴィを切り裂こうとした。
「水の渦 !」
突然ホブゴブリンを水の渦が襲い、全身を締め付けた。
「貴女は…… !」
「今は……仲間だから…… !」
コロナはレヴィを見下ろしながら頷くと杖を振り、巨大な泡を作り出した。
気弱で臆病な彼女だがホブゴブリンはゴードで慣れていた為、恐れるに足りなかった。
「巨大泡の牢獄 !」
巨大な泡はホブゴブリンを飲み込んだ。
息が出来ず、ホブゴブリンは水中でもがき苦しんだ。
「貴女……顔に似合わずえげつない魔法を使うのですね……」
レヴィは少し引いている様子だった。
ホブゴブリンは泡の中で窒息し、必死に抵抗したがやがて息絶えた。
「立てる…… ?」
コロナはレヴィに手を差し伸べた。
レヴィは宿敵であるコロナに助けられ、少し不機嫌そうにしながらも彼女の手を握り、乱暴に立ち上がった。
「はぁぁぁぁぁ !!!」
グレンは二匹のホブゴブリンに単身挑んでいた。
本来ホブゴブリンはオーガに実力で劣るのだが、まだまだ幼く小柄なグレンでは話は別だった。
グレンは懸命に神器を振るうが二匹のホブゴブリンが武器で応戦し、逆に劣勢に追い込んだ。
二匹のコンビネーションにより、グレンは翻弄された。
キィン キキィン
「くそ !こいつら !」
神器を使えるとは言え、グレンはまだまだ実践経験が乏しい。
野生に生き、修羅場を潜ってきたホブゴブリン達を一人では捌ききれなかった。
怒濤の攻撃を剣で防ぐので精一杯で反撃に転じる暇が無かった。
「うわっ !」
グレンは二匹のホブゴブリンの猛攻に圧倒され、徐々に後ろに下がらされていた。
二匹のホブゴブリン達はグレンを追い詰める為、更なる追撃を加えようとした。
「黒羽根乱針 !」
ザザザザ
突然無数の羽根が棘のように飛んで来てホブゴブリン達を突き刺した。
ホブゴブリン達は痛みに怯み、もがき苦しんだ。
「大丈夫か、グレン」
「クロス……」
ピンチのグレンにクロスが助太刀に入ったのだ。
「言い出しっぺはお前なんだ、最後まで責任を取ってもらうぞ」
「分かってるよ、必ず目的は果たす !」
グレンは覚悟を決め、再び剣を強く握った。
「行くぞグレン !」「おう !」
グレンは大地を蹴りながら全速力で走り、クロスは翼を広げ、空中を切り裂くように滑空した。
グギャァァァァァ
ホブゴブリン達は奇声を上げ、目を血走らせながらグレンとクロスに向かっていった。
「一撃で決めるぞ !」
クロスは低空飛行を続けたまま人間態からカラス形態に変身し、勢い良く突撃していった。
「うおおおおお !!!」
グレンは剣を大きく振り上げながら走った。
全身に力を込め、電気を帯びた状態で剣を極限まで研ぎ澄ませた。
「迅雷の極み !」
グレンは凄まじい速さで剣を振り下ろし、ホブゴブリンの一匹を一撃で切り裂いた。
極限まで高められた雷の魔力がグレンの限界を一時的に超え、ホブゴブリンを真っ二つに裂いた。
グガガッ……
ホブゴブリンは大量出血し、呻き声を上げながら絶命した。
「勇敢な鳥 !!!」
クロスは限界まで加速しながら低空飛行をし、鋭い嘴でもう一匹のホブゴブリンを貫いた。
グガァァァァァ
ホブゴブリンは腹に大きな穴を開け、盛大に壁にぶつかり、息絶えた。
グレン達の活躍により、ゴブリンの手下達は全て倒された。
残るはいよいよゴブリンロードのみだ。
「ゴブリンロード !お前は俺達が倒す !」
グレンはゴブリンロードに指を指した。
ゴブリンロードは興奮し、涎を撒き散らしながら胸をゴリラのように叩いた。
「いよいよゴブリンロードですよレヴィさん…… !」
「オラより大きいゾ…… !」
サイクロプスをも超える巨大な姿を前にライナーとサイゴはヘタレ始めた。
「心配ご無用ですわ !あいつらに上手いこと前線で戦わせ、私達は安全な後方で適当に援護するふりでもしていれば良いんですわ」
レヴィはグレン達を上手いこと囮に使い、自分達は楽に勝とうとする他力本願作戦に出た。
そんなレヴィ達の邪な企みなどグレン達は知るよしも無かった。
そして遂に、ゴブリン達の異変の元凶たるゴブリンロードとの最終決戦が始まろうとしていた。
To Be Continued




