第十七話・失いたくない
燃えさかる村、逃げ惑う人々…。魔獣の無慈悲な炎が平穏な日常を容赦なく焼き尽くす……。
エルフの少女二人は死体が転がる焼け野原を泣きながら歩き回った。
「お父さーん……!お母さーん…… !」
いくら呼んでも、返事がない。怖くて怖くてたまらなかった……。
運悪く魔獣が二人の様子に気付き、睨み付けた。
「どうしよう、お姉ちゃん…… !」
「私の手を掴んで !」
二人は夢中になって魔獣から逃げた。
小さくて傷だらけの足で必死になって走った。
だが……
グギャアアアアア !!!
魔獣の尻尾が降り下ろされ、風圧で繋いだ二人の手を引き裂いた。二人の姉妹は無情にも引き離されてしまった。
炎に飲まれる妹と必死に手を伸ばす姉。
「おねえちゃぁぁぁん !!!」「ルーシーぃぃぃぃ !」
「行かないで……はっ…… !」
私は目が覚めた。涙も流していたらしい……。嫌な夢を見ていたようだ……。
私は……うっ……。そうだった……私は魔獣の毒に侵され、気を失っていたんだった……。三人組は無防備にもぐっすり眠ってる、呑気なものだ……。
そうだワカバは…… !解毒草を取りに一人で……助けに行かなくては…… !
まだ頭がクラクラして気持ち悪いが、休んでなどいられなかった……。もう二度と、目の前で誰かを喪いたくないからだ。
私は毒に侵されながらも立ち上がるとワカバを探す為歩き出した。
私とリトは、解毒草を手に入れたものの、魔獣に見つかってしまった。
絶体絶命である。
「主、すぐに逃げてください !」
「分かってます !」
私は魔獣の体を掻い潜り、逃げようとしたが、複数の脚が振り下ろされ、道を塞ぐ。
「何がなんでも逃がさないおつもりのようですねぇ……。かくなる上は、実体化です !」
「もう魔力は回復したんですか ?」
「ええ、充電完了です !」
私はランプを構え、リトを召喚しようとした。しかし、魔獣の爪が私を樹木に叩きつけた。
「きゃっ !」「主ぃ !」
その際、ランプを手から放してしまった。
その隙を魔獣は見逃さなかった。尻から銀色の糸を吐き、ランプを縛り付け、引き寄せたのだ。
「何をするんですか !離しなさい !この虫けらめぇぇ !」
リトはランプの中で必死に叫んだが魔獣が聞く耳を持つはずが無かった。
「リト!」
魔獣は隙を突いて糸を吐き、私の体をがんじがらめにして拘束した。
「しまったっ !」
魔獣は更に細い糸を私の首にきつく巻き付けた。
「んっ……!くっ……!」
苦しい…… !息ができない……!糸の締め付けはじわじわと強くなる。意識は朦朧とし、口から涎が垂れ、私の目は上を向いた。このままでは絞め殺される……!
「主ぃぃぃぃ !」
リトの叫びすら聞こえなくなるくらい意識が遠退き始めた……。
スパッ !
その時、かまいたちが起こり、私に巻き付いた糸を切り裂いた。
「ゲホッゲホッ !」
拘束から解放された私は激しく咳き込みながら魔獣の方を見た。
「エルサ……さん……」
エルサは風のように舞い、魔獣の脚の一本を斬り、怯ませ、一瞬のうちに魔獣からランプを取り返した。
魔獣は脚を一本失った痛みに悶えていた。
エルサは私の元に駆けつけた。フラフラで、顔は青ざめ、クマが出来ていた。腕の紫色の痣は肩まで進行していた。
「エルサさん……そんな体で…… !どうして無茶するんですか…… !」
エルサの痛々しい姿を見て、私は涙が止まらなかった。
するとエルサは何も言わず私を抱き締めた。
「エル……サ……さん…… ?」
「良かった……生きてて……本当に良かった……ルーシー……」
「る……ルーシー……?」
エルサの目から涙が溢れていた。
彼女に抱き締められ、とても温かかった。
「ってああ !いきなりすまん、君のことが心配でつい……!」
エルサは我に帰り、あたふたした。
だが毒が全身に回ったのか、フラッと倒れそうになり、私は咄嗟に抱き抱えた。
「エルサさん……!」
「す……すまん……私もここまでのようだ……」
「そんな……!そうだ、解毒草です !これを……ってこれ生で食べても大丈夫なのかな……」
「問題ありません、エルフは長命の種族、人並外れた生命力を持っています。薬草一つで一日分の疲れを回復することも可能です」
リトが教えてくれた。
「エルサさん、これを食べてください」
エルサは解毒草を口にした。すると、みるみる顔色が良くなり、肩まで広がっていた痣も一瞬で綺麗に消えた。
「おお !治ったぞ !ワカバ、リト、君達のお陰だ。礼を言うぞ」
「礼を言うのはあの魔獣を倒してからですよ」
魔獣は痛みが治まると再び私達に牙を剥いた。ビリビリと殺意が伝わってくる。
「お願いリト、力を貸してください !実体化 !」
私は叫ぶとランプの注ぎ口からリトが現れた。
エルサは魔獣を睨みながら剣を構えた。
リトはかなりご立腹のようで腕をポキポキ鳴らしていた。
「さあて、虫けらごときがこの私を弄んだ罪、あがなってもらいますよ ?」
「大切な仲間を傷つけた魔獣め、絶対に許さんぞ !」
魔人とエルフの騎士。二人の強者と巨大な魔獣……今ここに、激闘が始まろうとしていた。
To Be Continued
 




