第百八十四話・少年達よ、立ち上がれ
月の光すら雲に覆われ、暗闇に閉ざされたある晩……。
旅人は宿を探し、暗い森の中をさ迷っていた。
「この辺に小屋とか無いかなぁ……もうヘトヘトだよ……」
旅人は心身ともに疲れ果て、体力も限界に近かった。
そんな時、旅人は何かの気配を感じ、身構えた。
「おいおい……こんな時に魔物かよ……」
気配は一つだけでは無かった、二つ、三つ、複数の視線が旅人を狙っているようだった。
「勘弁してくれよ……」
恐怖を押し殺し、旅人は最後の力を振り絞り、一秒でも早く森を抜け出そうと疲れた体にむち打ち、走り出した。
しかし、手遅れだった。
「「「キシャアアアアアア !!!」」」
旅人の動きに呼応するかのように草むらから複数の魔族「ゴブリン」が一斉に飛びかかった。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ !!!」
暗い森の中で、旅人の痛々しい断末魔だけが響き渡った。
だがこの陰惨な事件は彼が初めてでは無かった……。
ここ最近、ゴブリンによる事件が多発していた。
森でゴブリン達が狂暴化し、集団で通りかかった旅人や冒険者達を無差別に襲った。
何十人もの尊い命が犠牲になったのだ。
突然起こったゴブリン達による被害は増大し、国も無視できぬ程大事になっていた。
ゴブリンの暴走した原因の調査の依頼が無限の結束にも届いた。
だが彼等も多忙を極め、とても手が回る者が居なかった。
「なぁ、この依頼、俺達だけで解決しねえか ?」
最近 無限の結束に入ったばかりの新人、グレンがクロスとコロナに呼び掛けた。
「私達三人でゴブリンの討伐…… ?」
「本気で言ってるのか ?」
二人はそこまで乗り気では無い様子だった。
「俺は神器、迅雷鬼剣を扱える、お前も四大元素魔法を4つも使える天才の魔女だ、そして使い魔とは思えない多彩な能力を持つクロス……俺達三人が力を合わせれば、どんな相手だって直せる !」
グレンはどや顔を決めながら語った。
「しかし……何故ゴブリン退治に拘るんだ ?」
「危険だよ……ワカバお姉ちゃん達に任せようよ……」
グレンはじれったそうに拳を震わせた。
「良いから行こうぜ !俺達だけでも依頼をこなせるってことを見せてやるんだ !」
実はグレンは頻繁に里にいる姉・ブラゴから手紙が届いていた。
手紙の内容はグレンを心配するものばかり……。
まだまだ子供扱いされていることに苛立ちを覚えたグレンは大人達の力を借りず依頼を達成することで姉を見返してやろうと企んでいたのだ。
「まあ……ゴブリンは下級魔族……僕でも勝てない相手ではない……それにコロナは魔王軍幹部のアイリに単独勝利を果たした……戦力としての心配は無いだろう」
「クロス…… !?」
「よし、決まりだな !コロナ、お前の力が必要なんだ !頼むよ !」
グレンはコロナの両肩を掴んだ。
「え……う、うん……分かったよ……」
コロナも渋々承諾した。
こうしてオーガのグレン、魔女のコロナ、使い魔のクロスの三人の少年少女達によるチームが結成された。
三人は早速行動に移した。
エルサ達に内緒で外出し、先ずはゴブリン達の情報を聞き出すべく、とある人物の元に出向いた。
ここは、犯罪を犯した魔族達が収監されている牢獄。
今まで無限の結束が倒した闇ギルドや魔王軍幹部クラスも収監されている、危険な場所だ。
今回はとある人物に情報を聞くため、特別に面会が許された。
「よお、コロナにクロス、久しぶりじゃねえか、」
檻ごしに無精髭を生やした囚人の姿が見えた。
グレン達が会おうとしていたのはホブゴブリンの男、ゴードだった。
彼は闇ギルド「憎悪の角」の幹部だったが、マルクに敗れ、他の幹部と共に牢獄に収監されていた。
闇ギルド時代、コロナもゴードにはよく世話になっていた。
結果的に裏切る形になってしまい、コロナは今でも負い目を感じている。
「久し……振り……」
コロナはオドオドしながら挨拶を返した。
「元気そうじゃねえかコロナ、聞いたぜ、憤怒の災厄の雪女を倒したんだってな !ロウもきっと向こうで喜んでるぜ」
ゴードは思ったより気さくにコロナに話し掛けた。
まるで親戚の叔父が子供に優しく声をかけるように。
「うん……ありがと……」
「もっと堂々としてろよ、お前はお前の人生を生きてんだろ ?誰もお前を責めねえよ」
「うん……」
ゴードはコロナにかつての仲間としての激励を送った。
「所で、アンタに聞きたいことがあるんだが……」
「何だ ?」
グレンはゴードに話を切り出した。
「成る程ねぇ、お前ら三人で、近頃森で暴れてるというゴブリンの集団を討伐したいってわけか」
「同じゴブリン族であるアンタなら何か知ってるんじゃ無いかって思って……」
ゴードは話を聞きながら腕を組み直した。
「お前達に教えておくぜ、ゴブリンには二種類あるんだ……一つは俺みたいに理性と知性を持ち、人間と変わらぬ生活を送る亜人タイプと、言葉を発さず、他種族とコミュニケーションを取らず、本能のままに獲物を喰らう魔物タイプだ……恐らく事件になってるって言うのは後者だろう……」
ゴードの言葉を聞き、三人は息を飲んだ。
「魔物タイプは獲物を見つけるや否や容赦なく集団で襲い、蹂躙する……俺が率いていたゴブリン隊よりも厄介だと思うぜ……」
コロナは怖くなり、杖をぎゅっと握った。
「俺が知ってるのはこれくらいだ、ゴブリンが何故急に活発化したのかまでは知らねえ」
「だがゴブリンについてよく分かったよ、覚悟が決まったぜ」
グレンはぎゅっと拳を握り締めた。
「俺が……俺達が必ずゴブリン達を倒す !」
グレンの覚悟を決めた表情を見て、ゴードも感心した。
「わけえのに根性あるじゃねえか、ってお前よく見たらオーガじゃねえか」
「そうだけどそれがどうしたんだ ?」
「同じ幹部でオーガがいたんだよ、お前と違って冷血で寡黙なんだが、オーガにも色々居るんだなと思ってよ」
ゴードは笑いながら言った。
「ま、若さ故に突っ走るのは悪くねえが、命だけは大事にしろよ、それとコロナとクロスを宜しく頼むぜ」
「おう !」
グレンは檻ごしだがゴードと拳を合わせた。
ゴードと三十分程話をし、牢獄を後にした。
三人はゴブリンの集団と戦う為、例の森に向かった。
To Be Continued




