第百八十三話・ミーデvsトレイギア
ヴェロスが投獄されてから数日後……。
闇ギルド「混沌の反逆者」のアジトは騒然としていた。
幹部の一人であるギラが重傷で運ばれてきたからだ。
魔王軍幹部だったヴェロスの首を取り名を上げようと奔走したものの、数十人の部下を失い、リトとヴェロスによって返り討ちに遭い、全治3ヶ月の重傷を負って帰ってきたのだ。
幹部クラスの人間が敗れる等異常事態だ。
下手をすればギルド全体に悪影響を及ぼす可能性もある。
「俺達のギルド、混沌の反逆者が無様に敗北するとは……屈辱も良いところだ……」
玉座に座っていた10代前半くらいの少年は苛立ちを抑えられず指を噛んでいた。
この少年こそ闇ギルド・混沌の反逆者のボス、トレイギアだった。
彼もまた、種族を特定出来ない混血種だった。
幼い見た目に反して高い知性と絶大な力、圧倒的なカリスマ性を誇り、ゴロツキ共を纏め上げていた。
「報告を聞く限りだと我々に刃向かったのはヴェロスだけではなく、憎悪の角や魔王軍を壊滅させたあの無限の結束だと言う話ではないか……」
無限の結束の活躍は闇ギルドにも知れ渡っていた。
魔王軍が滅び、活動しやすくなったのは感謝しているが邪魔をされては全くの無意味だ。
「奴等を潰す必要があるな……だが奴等は十数人とは言え上位魔族の集まり……しかも伝説の魔人イフリートまでいる……く…… !」
トレイギアは頭を悩ませた。
いくら勢力を伸ばしたとは言え、今の自分達では到底勝ち目がない……。
他の闇ギルドと同盟を結ぶ必要があった。
「お困りのようですねぇ」
突然トレイギアの目の前にミーデが現れた。
「誰だ !」
手下達は警戒し、ミーデに敵意を向け、武器を構えた。
「そんなにカリカリしないで下さいよ、貴方が混沌の反逆者のボス、トレイギアさんですか ?」
ミーデは飄々とした様子でトレイギアに話し掛けた。
「人に尋ねる前に自分から名乗れ」
「これはこれは失礼致しました……私は新生魔王軍の統率官ミーデ、最高悪魔です」
ミーデは大袈裟にポーズを決め、自己紹介をした。
彼の放つ異様な魔力に手下達は圧倒され、萎縮していた。
トレイギアだけが平静を保っていられた。
「しかし貴方のような幼い子が一つの組織を束ねるリーダーでいらっしゃるとは、感心しますねぇ」
「御託は良い、要件だけ簡潔に言え」
ミーデは深呼吸をし、間を置いた。
「では単刀直入に言います……我ら新生魔王軍の傘下に加わって欲しいのです」
ミーデが言葉を発した瞬間、周囲はざわついた。
「てめえ !」
「ふざけたことを !」
当然反発は多く、トレイギアの手下達はミーデに怒声を浴びせた。
「落ち着け」
トレイギアが一瞬で手下達を黙らせた。
「何故俺達が貴様ら純血種共の下につく必要があるんだ……説明をしろ」
「ククク……何を今更、貴方もご存じなのでしょ ?貴方達のギルドは確かに勢力を増しています……しかし、完全に覇権を手中に収めるにはあまりにも立ちはだかる壁が大きすぎます……幾多の敵を倒してきた忌まわしき騎士団……無限の結束……」
トレイギアは思わず眉を潜めた。
ミーデはニヤリと笑みを浮かべながら話を続けた。
「いくら貴方が強くても、魔王軍を壊滅させた連中と真正面から戦うのは厳しいのではありませんか ?」
「かつて魔王軍に所属していたお前だから言えることか……」
「私達は生まれ変わりました……再び魔王軍を復活させる為に、新生魔王軍を結成致しました……しかしまだまだ兵力は不充分……ですから貴方方のような闇ギルドの皆さんを配下に加えたいのですよ」
トレイギアは少し間を置き、考えた。
「貴方達もバックが必要ではありませんか ?」
「確かにそうだ……だが衰退した貴様らが我々の心強い味方になれるとは思えん……」
「そうですか……では私と一度手合わせをしてみませんか ?」
ミーデは口角をつり上げながら提案をした。
「良いだろう……」
「トレイギア様、宜しいのですか ?」
心配する部下を押し退け、トレイギアはミーデに近付いた。
「実質今の魔王軍を指揮しているという貴様の実力を知りたい」
「私も貴方が有能な臣下として相応しいか……確かめさせてもらいますよ」
ミーデとトレイギア……両者の前に緊張感が漂った。
「行くぞ !」
トレイギアは片腕を禍々しい巨大な剣に変質させ、ミーデに斬りかかった。
キシィン
だがミーデは無表情でミーデの振り下ろされた剣を片手で受け止めた。
「嘘だろ !?トレイギア様の一撃を…… !」
手下達は大きく口を開け、固まっていた。
「悪魔の上位互換である最高悪魔……統率官を名乗るだけの力はあるようだな……」
「貴方も中々高い魔力を秘めているではありませんか」
トレイギアもギラと同じ、多数の魔族の遺伝子が混ざり合い、突然変異を起こした異常個体だ。
その膨大な魔力は竜族や憤怒の災厄をも凌駕する。
だが魔王の力の一端を有しているミーデには後一歩及ばなかったようだ。
「きえええええええい !!!」
ミーデは甲高い奇声を上げると片腕に魔力を込め、トレイギアを殴り飛ばした。
ドゴオッ
「くっ !」
鈍い音が響き渡り、トレイギアは勢い良く壁際まで吹っ飛ばされた。
「トレイギア様ァ !」
手下達は慌てて壁に埋まったトレイギアの元に駆け寄った。
「成る程……これが最高悪魔の魔力か……まるでそれ以上の巨大な力を感じるぞ……」
「さあ、何のことでしょうか ?」
ミーデはおどけて見せた。
「お前の実力は認める……確かにお前達と組めば俺達のギルドは更に発展出来るかも知れん……」
「組むのではなく、下につくんですよ、貴方の実力も大したものでしたよ、我が臣下として申し分ありません」
ミーデは倒れているトレイギアに手を差し伸べた。
「トレイギア様……」
「潔く認めよう……新生魔王軍と混沌の反逆者ではこちらが劣る……俺達はお前の下に与する事にする……」
「賢明な判断ありがとうございますよ」
ミーデとトレイギアは固く握手を交わした。
この日、混沌の反逆者は新生魔王軍と統合された。
トレイギアは統率官であるミーデの側近になった。
新生魔王軍は無限の結束に復讐し、完全に再興する為、今も勢力を拡大させている。
彼等が再び激突する日はそう遠くない……。
To Be Continued




