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ランプを片手に異世界へ  作者: 烈斗
ケルベロスの逃走編
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第百八十二話・誰かを救うということ



混血種によって結成された闇ギルド「混沌(カオス)反逆者(トレイター)」は倒され、孤児院に平和が戻った。

子供達も全員無事だ。


「皆さん、助けて頂いて、ありがとうございました !」


カナンは感激しながらエルサの手を握った。


「うむ……間に合って本当に良かった……それに、ヴェロスも無事のようだしな」


エルサはヴェロスに目をやった。

ヴェロスは視線に気付くと目を背けた。


「しかし、まさか貴方が子供達やあのお嬢さんを身を呈して助けるとは……心を入れ換えたのですか ?」


リトは気さくにヴェロスに話し掛けたが無視し、カナンに近付いた。

その後ろ姿をルーシーは複雑な表情で見つめた。


「カナン……俺は記憶を取り戻した……俺はかつて魔王軍の幹部・憤怒(サタン)災厄(カラミティ)のヴェロスだ……お前の仲間を殺したことも鮮明に覚えている……」


ヴェロスは目線をそらさず、カナンの目を真っ直ぐ見つめた。

彼が何故記憶と本来の力を取り戻したのかというと、目の前で子供達が危険に晒され、弟達を失った悲しき記憶がフラッシュバックしたからだった。


「子供達の泣き叫ぶ顔を見て、俺はいても立ってもいられなくなった……気付いたら体が動いていたんだ……」


ヴェロスはそう言うと、カナンの目の前でゆっくりと膝をついた。


「俺を殺せ……この手で仲間の仇を取れ……」

「お兄ちゃん !?」


この場にいる全員が驚愕した。


「俺は取り返しのつかない罪を……いくつも犯した……それはもう変えることが出来ない……せめて俺を憎む者の手で殺されたい……」


ヴェロスは静かにうつ向きながら言った。


「何言ってるのお兄ちゃん !」

「待て、彼は本気だ……覚悟を決めている……」


動揺し取り乱すルーシーをエルサは諌めた。

カナンは唇を噛み締め、拳を震わせながら大きく腕を振り上げた。

私達はこの二人の空気に入ることが出来ず、呆然と見ているだけだった。


パアンッ


鋭いビンタの音が響き渡った。

カナンは振り下ろされた手でヴェロスの頬を思い切りひっぱたいた。

ヴェロスは勢いで思わず倒れ込んだ。


「…………」


ヴェロスの頬は真っ赤に腫れ、手形が残る程だった。

カナンの手は小刻みに震えていた。


「仲間を殺したことは許せないし……私や子供達の命を救ってくれたことは嬉しかった……だから、この一発で全部精算したわ……」


カナンはヴェロスを起こし、両肩を掴んだ。


「あの世の仲間には怒られちゃうかも知れないけど……私は……貴方を憎むなんて出来ないよ……」

「カナン……」


カナンは目に涙を溜めていた。


「貴方が罪を覚えていようが忘れていようが関係ない……だけど……罪を償いたいなら生きて……私や子供達を救ってくれたように……これからも見知らぬ誰かを救って欲しい……」


カナンはそれだけ言うと足早に走り去り、建物の中に入っていった。


「お兄ちゃん……」


ルーシーは呆然としているヴェロスに話し掛けられずにいた。

エルサは立ち尽くすヴェロスに近付いた。

ヴェロスが大罪人であることに変わりはない。

他の幹部と同様に捕らえ、牢獄に入れなければならないのだ。


「……あの人の言う通りだ……俺は罪を償わなきゃならない……命を奪った分の数だけ、誰かを救いたい……」

「そうか……君も変わったな……いや、元に戻ったと言うべきか……」


エルサは手錠をヴェロスにかけた。


「行くぞ、皆」

「は、はい……」


私達はヴェロスの身柄を拘束し、孤児院を後にした。

皆それぞれ複雑な思いを抱きながら……。




後日、ヴェロスの身柄は騎士団に引き渡され、監獄に収監された。

魔導師デビッドに唆され、半ば洗脳教育を受けていたとは言え、数百人の冒険者や騎士達の命を奪い、国に多大な損害を与えた。その罪は重い。

同じ幹部だったフライ、アイリ、サーシャとは別の、凶悪な囚人が投獄されるという最下層「無の檻」に入れられた。

ヴェロスはこの先、十字架を背負いながら罪を償う為に生きることになるだろう……。




「ルーシー、元気ないけど大丈夫ですよね……」

「あの娘はヴェロスを兄のように慕っていた……それはこの先ずっと変わらないだろう……」


ヴェロスが投獄されてから数日が経過した。

ルーシーは塞ぎ込み、部屋から出てこなかった。


「こういう時は下手に慰めの言葉をかけるより、そっとしておいた方が良い……あの娘は強い……何せ以前私を殺そうと執念を燃やしたことがあるからな」

「エルサさん……」


エルサは今すぐ抱き締めに行きたい気持ちを必死に押さえていた。

妹が悲しんでる姿なんて耐えられないだろうに……。

平静を装ってはいたが、エルサの拳は震えていた。


「お兄ちゃん……」


ルーシーは体育座りをし、涙を滲ませた。

もう二度と会えなくなるかも知れなかったのに声をかけられなかったことを酷く後悔した。

分かっていたはずだ、ヴェロスは洗脳されていた自分とは違い、自分の意志で人を殺し続けた、許されるはずはないと。

理屈では分かっていても、心が受け入れられなかった。

魔王軍に入ったばかりの頃、右も左も分からなかった彼女に色々処世術を教えてくれたのはヴェロスだった。

彼が居たからこそ、ルーシーは強く成長出来た……。

ルーシーの心に、ポッカリと孔が空いたようだった。

彼女の傷が癒えるのはまだ先だろう……。


To Be Continued

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