第百八十話・混血の復讐者・ギラ
絶体絶命のヴェロスとカナンの前に、私とエルサとルーシーが駆け付けた。
「貴女達は……」
カナンは知っていた。
憤怒の災厄を倒した英雄達……「無限の結束」の存在を……。
彼女の心に微かに希望が灯った。
窓の内側から他の先生や子供達が心配そうに見守っていた。
「お兄ちゃん…… !大丈夫…… ?」
ルーシーは苦しそうに呻くヴェロスに声をかけた。
だがヴェロスはルーシーのことも覚えていない様子だった。
「ヴェロスを追って来てみれば、まさか闇ギルドが孤児院を襲ってる最中に出くわすとはな……見過ごすわけにはいかん」
エルサは静かに怒りを込めながら剣を抜いた。
「ほう……アンタが魔王軍の四天王デビッドを倒したという英雄の一人……聖なる騎士ハイエルフのエルサか……」
ギラは余裕の表情を崩さなかった。
「君達の好きにはさせんぞ !」
「エルサさん、行きましょう !」
私とエルサとルーシーは剣を構えた。
「女だからって手加減すんなよ、やれ」
ギラに命じられ、手下達は各々身体の一部を武器のような禍々しい異形のものへと変化させ、私達に襲い掛かった。
「早速こいつの切れ味を試してみるか……神月疾風 !」
スパッ スパパッ
エルサは新しく手にした「一角光剣」を振るい、風のように舞い、手下達を翻弄した。
「「「ぐわぁぁ !!?」」」
手下達は台風に巻き込まれたかのように飛ばされ、宙を舞った。
ユニコーンの角で造られた剣は眩い白き閃光を放っていた。
「竜巻激槍 !」
ルーシーは剣を槍のように勢い良く突き出し、手下達をゴミのように蹴散らした。
「ぐわぁぁぁぁ、この女 !憤怒の災厄のダークエルフですよぉぉぉぉ !!!」
「ちっ……魔王軍を裏切って人間共の味方についちまったようだな……」
ギラは憎々しく吐き捨てた。
「僕はもう魔王軍でも憤怒の災厄でもない !無限の結束のルーシーだよ !」
ルーシーはムキになりながら宣言した。
かつての魔王軍幹部の一人を前に手下達は狼狽え始めた。
「やあぁぁぁぁぁぁ !」
私も新たな武器「怪竜爆剣」を豪快に振るい、次から次へと波のように襲い来る手下達を凪ぎ払った。
「神速の疾風 !!!」
ズバババッ
私は勢い良く大地を蹴り、残像が残る程のスピードで突きを繰り出し、手下達を滅多切りにした。
「「「ぐわぁぁぁぁ !!!」」」
手下達は何が起こったのかすら分からないまま血を噴き出させ、絶叫をした。
更に「怪竜爆剣」の付加効果で斬られた手下達の傷口を爆発させた。
ドガァァァン
「「「ぎゃああああ」」」
悲鳴を上げながら爆発に巻き込まれ、手下達は飛び上がっていた。
「凄い……」
「ああ……」
カナンとヴェロスは膝をついたまま、この光景に圧倒されていた。
「主も成長しましたね……これは私の出番は無いかも知れません」
ランプの中のリトは誇らしげにしつつ少し寂しそうにしていた。
「形勢逆転しちまったな……だが、こうなることを予測していなかった俺では無い……無限の結束 !見ろ !」
突然ギラは響くような大声を上げた。
戦いを繰り広げていた者達は一斉にその手を止めた。
「これ以上の抵抗はおしまいにしておけ、さもなくは……」
ギラは指をパチンと鳴らすと、孤児院の窓ガラスがぶち破られ、中から彼の手下達が子供達を抱えて現れた。
皆怯えた表情で震えていた。
「皆 !」
カナンは青ざめた顔で悲痛な叫びを上げた。
「このガキ共を皆殺しにされたくなけば武器を捨てろ !」
「くっ、裏に忍び込ませていたのか…… !」
背後を守っていたつもりが人質を大勢取られてしまい、私達はどうすることも出来ず、悔しさを押し殺しながら武器を地面に置いた。
「流石正義の味方……お利口なこったな♪」
ギラは邪悪な笑みを浮かべると全身を変化させた。
人と変わらぬ姿から触手の鎧を纏ったようなおぞましい姿へと変貌を遂げた。
どの種族にも当てはまらない幾多の種族の血が混ざり合った成れの果て……これこそギラの怪物形態だった。
「ひっ…… !」
あまりにもおぞましいギラの姿を前にカナンは気持ち悪くなり、口を抑え、吐き気を催した。
「へっへっへ……気持ち悪いか…… ?このグロテスクな姿こそ俺の本当の姿……この体のせいで、俺がどんな目に遭ってきたか……貴様らに分かるはずも無い……思い知れ !触手の罠 !」
シュルルル
ギラは触手を伸ばし、無抵抗の私とエルサとルーシーを捕らえ、全身に絡み付かせた。
「くっ…… !」
「うっ…… !」
私達は完全に触手の餌食となり、身動きが取れなくなった。
その様子を見て、ギラは勝ち誇ったように高笑いをした。
「ヒャハハハハ !お前らがいくら魔王軍を壊滅させた英雄だろうとなぁ !俺達のような卑怯者の頭脳 !これには勝てないんだよぉ !」
ギラは人差し指で自らの頭をつつきながら私達を煽った。
「さあ……邪魔者は居なくなった……ヴェロス……まずはてめえをぶっ殺す !」
ギラは私達を拘束させた状態でヴェロスに近付いた。
カナンは震えながらもヴェロスを庇うように立ちはだかった。
「どけよ女」
「どかない……ヴェロスは……私が守る…… !」
カナンの言葉を聞き、ギラは馬鹿にしたように嘲笑った。
「こいつを守るとか正気かぁ !?こいつはなぁ、大勢の人間の命を奪った悪党だぜ !?お前もこいつに仲間を殺されてんだろ !?」
「そんなの分かってる…… !だけど……私は……この人に助けられた……子供達の面倒も見てくれた……見捨てるなんて出来ない !」
カナンの精一杯の勇気だった。
冒険者だった頃から彼女は強くはなかった。
いつも勇者や他の仲間に庇って貰っていた。
そんな彼女が初めて誰かを守ろうと命を張っているのだ。
「ちっ……この女だけは慰み者として生かしておいてやろうと思ったが気が変わった……今すぐ死にやがれぇぇぇぇ !!!」
ギラは鬼の形相で禍々しい腕を大きく振り上げた。
「やめてぇ !!!」
私は必死に声を振り絞り、叫んだ。
その瞬間……。
ガシッ
振り下ろされたギラの腕を何者かが強く掴んだ。
ギラの腕を掴んだその腕は獣のような毛に覆われていた。
「て、てめぇは…… !」
「俺の名前はヴェロス……憤怒の災厄のヴェロスだ !」
ヴェロスはギラを鋭い眼光で睨み付けた。
To Be Continued




