第百七十九話・混沌の反逆者
その頃、私とエルサ、ルーシーはヴェロスを探し回った挙げ句、小さな洞穴のある場所まで辿り着いた。
洞穴の入り口の前に立てられた二つの墓の周りは血塗れで倒れた男達によって埋め尽くされていた。
「この墓……間違いない……ヴェロスの弟達のものだよ……」
ルーシーは血に汚れた墓を見て確信した。
「こいつら……どうやらヴェロスにやられたようだな……」
エルサは倒れた一人の手下の傷口を見て判断した。
「きっとお兄ちゃんは襲われたんだ……こいつらに……」
「近頃魔王がいなくなってから各所で闇ギルドが盛んに活発を始めたらしいしな……魔王軍幹部クラスを倒して、名を上げたいんだろう……」
今のヴェロスは病み上がりの状態だ。
これ以上敵に襲われたら流石に危ない。
私達は一刻も早く見つける必要があった。
「二人とも見てください、血痕の跡が続いてます……」
私はヴェロスが通ったとされる血の跡を指差した。
「これを辿れば、ヴェロスを見つけることが出来るな !」
「すぐにお兄ちゃんを助けにいこう !」
私とエルサとルーシーは血の跡を目指し
歩き始めた。
町はずれにある孤児院の前でヴェロスとカナンは謎の男達の集団に囲まれていた。
緊迫した状況の中、リーダーの男は不敵な笑みを浮かべていた。
彼等は最近勢力を伸ばし始めた闇ギルド「混沌の反逆者」
構成員の全てが種族の特定不能な混血種である。
純血である人間や魔族達を憎み、危害を加えようとする過激派で危険な組織だ。
カナンも冒険者時代に彼等と戦ったことがあるから分かる。
厄介な連中に目をつけられたと、「混沌の反逆者」は他の闇ギルドが可愛く見える程残虐で容赦が無い。
「憤怒の災厄のリーダー……ヴェロス……アンタを殺したいと思っていた……」
リーダーらしき男はヴェロスを睨みながらそう言った。
「俺は幹部の一人ギラだ……アンタの首を手に入れる為、ワザワザこんな所までやって来たってわけだ」
「俺の首が目的か……」
ヴェロスはそう言うと腰を低く落とし、獣のような構えを取った。
「しかしとんだ副産物も見つかるとはねぇ」
ギラは孤児院の建物をじっくりと眺めた。
「ここには沢山の可哀想な子供達が暮らしてるんだろ ?丁度良いじゃねえか、全員捕まえて俺達のギルドで働かせてやる、良い社会勉強になると思うぜ」
ギラは最悪なアイディアを思い付いた。
賛同し、ゲラゲラと笑う手下達。
カナンは怒りに拳を震わせた。
「子供達には手を出させない !」
カナンは箒を媒介にして魔法を繰り出そうとした。
冒険者を引退したとは言え、彼女は魔女の血を引いている元魔法使い、この孤児院で唯一戦うことの出来る存在だった。
「あの女、やる気みてえだぜ、お前ら好きにして良いぜ」
「その言葉を待っていたぜ !」
ギラの指示を受け、手下達は一斉に襲い掛かった。
「お前、戦えるのか…… ?」
「見くびらないで……これでも私、勇者達と共に冒険したこともあるんだから !」
カナンは詠唱を唱え始めた。
「水の矢 !」
カナンの持つ箒から水で出来た矢が複数放たれ、襲い来る手下達に突き刺さった。
彼女は主に水の魔法を得意とする。
「ぐおっ !」「ぐわっ !?」
次々に怯む手下達。
だがそれでも相当の数の手下達を抑えることは出来なかった。
「はぁっ !」
ドガッ バキッ ガゴンッ
ヴェロスは拳を振るい、手下達を素手で殴り倒していった。
だが混沌の反逆者達は数の多さを生かし、ヴェロスを翻弄した。
「グッ…… !」
揉みくちゃにされ、袋叩きに遭うヴェロス。
「ヴェロス !うっ…… !」
カナンも手下達に囲まれ、ヴェロスを助ける余裕は無かった。
「おいおいどうしたんだ~ ?地獄の番犬・ケルベロスの姿にならねえのか ?いつまで茶番を続ける気だよ」
ギラは退屈そうにヴェロスに言った。
「くそ……変身……出来ない…… !」
魔獣カードを使った後遺症により、ヴェロスは記憶を失っただけでなく、ケルベロスに変身することも出来なくなっていた。
それに伴い、人間態での魔力も大幅に弱体化していた。
ただの人間と変わらぬヴェロスが闇ギルドの混血種の集団に勝てるはずが無かった。
「がはっ !」
本来の力を出せぬまま、ヴェロスは地面に這いつくばった。
手下達はよってたかって倒れたヴェロスを足蹴にした。
「ヴェロス !もうやめて !」
カナンは見ていられなくなり、ヴェロスの元に駆け寄ろうとした。
だがそれを見逃すギラでは無かった。
「甘いぜクソアマァ !」
ドゴオッ
「きゃあっ !!?」
ギラは右腕を触手のような異形のものへと変化させ、カナンの隙を狙い、殴り飛ばした。
カナンは悲鳴を上げながら建物の壁に叩き付けられ、血を吐いた。
「何……この力……」
「混血種とは本来、多種族同士が交配に交配を重ねて生まれた謂わば混ぜ物の成れの果て……雑種だ……故にどの種族にも分類されない、何者にもなれない存在……仲間外れだ……俺達は混血種であるが故に他者から見下され、馬鹿にされて来た……だから俺達は徒党を組んだんだ……混血種同士が集まり、最強の闇ギルドとしてのし上がり、俺達を見下した連中を後悔させてやろうってな !」
ギラは恨みを込めながら長々と喋り、ゆっくりとギラに近付いた。
「玉石混淆って知ってるか ?混血種は純血種に比べて力の弱い落ちこぼればかりだ……だが稀に突然変異で混血種の強固体が生まれることがある……その一人がこの俺だ」
ギラは触手のような腕を気味悪くペロリと舐め、カナンを震え上がらせた。
「貴方達がどれ程辛い思いをしてきたかは分からない……だけど……何の罪も無い子供達を傷付けて良い理由にはならない !」
カナンは血を吐き、満身創痍になりながらもギラに啖呵を切った。
「知るかボケ !俺はよ、戦いを知らず、ぬくぬくと平和に暮らしているてめえらが気に食わねえんだよ !」
ギラは口から禍々しい光線を放ち、壁にめり込まれたカナンを狙った。
カナンはキッと目を瞑った。
チュドドドドン
激しい爆発音と吹き荒れる煙。
ギラの放った熱線はカナンを完全に焼き尽くした……かのように見えた。
「そ……そんな……ヴェロス !」
何と熱線がカナンに当たる直前、ヴェロスが咄嗟に前に出て彼女を庇ったのだ。
「こいつは傑作だぜ !あの血も涙もねえ冷酷な男ヴェロスが、まさか人間の女を庇うとはなぁ !」
腹を抱えながら嘲笑うギラ。
ヴェロスは全身を焼かれ、ダメージを負い、膝をついた。
「ヴェロス !そんな…… !私なんかを庇うなんて…… !」
すぐさま倒れるヴェロスに駆け寄るカナン。
彼女は自分がやろうとしていたことを思い出し、悔いた。
憎き復讐相手だと思っていたのに、その男が身を呈してカナンを庇ったのだ。
「これ以上……誰かを失いたく……無かったんだ……」
「良く言うわよ……散々人を殺しておいて……」
たった一回の善行でかつての罪が許される筈がない。
だがそれを分かっていながら、彼女はこれ以上ヴェロスを恨むことが出来なかった。
「ホッとしてる所悪いがお姉さん、寿命が僅かに伸びたに過ぎないんだぜ ?」
ギラはニヤリと笑うと片手を突き出し、カナンとヴェロスに標準を正確に定めた。
「ヴェロス……アンタの首はボスに献上する……アンタの栄光は永遠に俺達のギルドで語り継がれる……悪くねえだろ ?」
ギラは口角をつり上げ、熱線を放とうとした。
その瞬間 !
ヒュルルルルル
突然謎の風がギラを襲った。
「ぐわぁぁぁぁ !」
ギラは吹っ飛ばされ、宙を舞った後、地面に落下した。
「何者だ !」
新手の参戦に警戒を強める手下達。
「良かったな……間一髪間に合ったようだ……」
ヴェロスとカナンの窮地を救ったのは、私とエルサとルーシー……三人の女戦士だった。
「いてて……こいつは意外なゲストの登場だな……まだまだ楽しめそうだ」
地面に叩き付けられ、埃を払いながらギラは私達を睨みながらニヤリと笑って見せた。
To Be Continued




