第百七十三話・ネオサタン誕生
スケルトンキメラはリトの放った炎に飲まれ、爆炎の中へと消えていった。
長かった魔王サタンとの戦いも遂に終わりを告げた。
リトは深呼吸をすると力を抜き、纏っていた青いオーラをかき消し、元の姿へと戻った。
「主……終わりましたよ……」
リトは私の元に駆け寄り、優しく微笑んだ。
私は思わずリト胸に抱き付き、堰が切れたように人目もはばからず泣いた。
リトはそんな私の背中を優しくさすった。
ずっと肩に力を張っていて、痛みも怖さも忘れていたんだろう……。
「しかし……本当に長かったな……」
エルサは遠くを見つめながら呟いた。
皆私を助けるために、こんな遠い所まで来て、命がけで戦ってくれた。
本当に感謝の気持ちで一杯だ。
「皆……私の為に……ありがとう……」
私は皆に向かって頭を下げ、感謝の言葉を送った。
「気にするな……お前もよく耐えたよ」
ヴェルザードは私の頭を撫でた。
「おっと……そろそろ時間ですね」
リトとコダイの体が光の粒子となって消えかかっていた。
「リト、コダイ……ありがとう」
私は笑顔でリトに微笑んだ。
「主……」
リトは穏やかに微笑みながらコダイと共に天に昇り、ランプの中に戻っていった。
「しかし、あの魔王を倒しちまうとはねぇ……」
「うん……夢でも見てるようだよ」
マルク達は未だに信じられずにいた。
「だが事実だ……魔王様は確かに倒された……この俺が言うんだ……間違いない」
ゴルゴは腕を組ながら言った。
「ラゴン、魔王軍も壊滅し、俺の居場所は無くなった……今度はお前達が俺の居場所を用意してくれるのだろう ?」
「勿論だ、宜しく頼むぜ」
ラゴンとゴルゴは笑みを浮かべながら握手を交わした。
魔界四天王の一人、ゴルゴは正式に爬虫の騎士団に仲間入りとなった。
その様子をルーシーは複雑な心境で眺めていた。
「ルーシー、どうしたんだ」
エルサは優しくルーシーの背中を叩いた。
「お姉ちゃん……」
「前にも言っただろ、罪は償うことが出来る、一緒に償っていこう、私と二人で……姉妹が二人いれば、不可能なんてない……」
エルサはルーシーの心情を察し、優しく励ました。
ルーシーはそんなエルサの瞳を見つめ、不器用に笑った。
「さ、皆さん帰りますよ !帰ったら祝杯を上げましょう !」
リリィは嬉しそうに皆に呼び掛けた。
「ああ、お前の料理、楽しみにしてるぜ」
ヴェルザードはリリィに向かって笑いかけた。
「爬虫の騎士団の皆さんもご一緒にどうですか ?」
「マジか !良いねぇ !俺らも参加しようぜ !」
「今夜は飲むわよ !」
「はい、姐さん !」
ラゴン達は喜んで参加を決めた。
「さ、家に帰るぞ 」
帰りはエルサを先頭に皆は元来た洞窟を抜けた。
こうして魔王を倒した私達は魔界から無事帰還した。
夜は皆で祝杯を上げ、夜が明けるまで盛り上がった。
仲間達と過ごしながら、本当に平和が訪れたことを私は実感した。
誰も居なくなった魔界。
瓦礫の山を一人の男が泥にまみれながら這い出てきた。
「ぷはぁっ !?はぁ……はぁ……」
ミーデだった。リトの放った熱線に巻き込まれ、消滅したかのように思われたが実は生き延びていた。
満身創痍のミーデの手には魔王の剣が握られていた。
「はぁ……はぁ……魔王様……」
ミーデは泣き出しそうな悲痛な表情で剣を見つめた。
彼にとって魔王とは希望の象徴。忠誠心を誓うに相応しい主。
その主が目の前で憎きイフリートに倒されたのだ。
彼の絶望は計り知れなかった。
「魔王様ぁ……兵士はやられ……幹部も……魔界四天王……デビッド様も倒され……魔王様まで居なくなられたら……私はどうやって生きていけば良いのですか……」
ミーデは剣を握り締め、涙を流した。
「貴様に涙を流している暇などないぞ……」
突然、謎の声がミーデの頭に響いた。
驚いて辺りを見回すミーデ。
「我は魔王サタン……我が忠臣ミーデよ」
「その声はまさか……魔王様…… !」
ミーデは剣の宝玉を見つめ、確信した。
魔王はまだ滅んでいなかったことを。
「魔剣サタンは辛うじて破壊を免れた……再び力を失ったが……問題はない……」
「魔王様……よくぞご無事で……」
ミーデは鼻水を垂らしながら歓喜した。
「ミーデよ……今や魔王軍は見る影もない……四天王も幹部も失い、藻抜けの殻だ……よって貴様が新たな魔王軍の統率者となるのだ」
魔王はそう告げると剣からエネルギーを放ち、
ミーデに浴びせた。
「うわぁぁぁぁぁ !」
ミーデは驚き、絶叫すると爆発により瓦礫が消滅し、跡形もなくなった。
「何ですか……無限に沸き上がるような……この力は……」
ミーデは掌を眺めながら自分の変化に戸惑っていた。
「ククク、偵察係である今の貴様では役不足だと思ってな……昇進祝いだ、我からの贈り物よ……」
魔王は自らの力を分け与え、ミーデを新たな姿へ進化させた。
ミーデは悪魔から上位互換である最高悪魔へと進化を遂げ、より筋肉質に、より禍々しい外見になった。
今のミーデは憤怒の災厄のヴェロスにもひけをとらないだろう。
「どうだ ?新たな統率者として貫禄が出てきたであろう ?」
魔王は可笑しそうに言った。
「はい、有り難き幸せにございます !」
ミーデは溢れんばかりの喜びを押さえながら剣に向かって頭を下げた。
彼は上級魔族の悪魔、そして代々魔王に仕える名家生まれでありながら劣等生で兄に虐げられてきた過去がある。
そんな自分が幹部や四天王に匹敵する力を得たのだ。天にも昇る気持ちになるのも無理はない。
「これからは貴様が新たな魔王軍を指揮し、我の復活に尽力するのだ……良いな ?」
「は !この最高悪魔ミーデ、必ずや魔王様のご期待に応えてみせましょう !」
ミーデは地面に額を擦り付けながら誓いを立てた。
その後ミーデは魔界中を探索し、魔王軍兵士の生き残りを探した。
城の崩壊に巻き込まれ、命を落としたり逃げ出したり、兵士の生き残りはごく少数だった。
唯一見つけた有力な兵士が悪魔三銃士の三人くらいだった。
ミーデは彼等に期待などしなかったが、居ないよりはマシだと重宝することにした。
「ミーデ様……あの時助けて頂き、感謝致します」
リリィに倒され、気を失っていたメイド、ペルシアがミーデの前で片膝をつき、頭を垂れた。
「いえいえ、これからも私の役に立ってくれれば十分ですよ、所で貴方……その姿は……」
ペルシアは焼け焦げたかつての顔を捨て、自分を倒した敵・リリィと同じ顔をしていた。
「これは戒めです、私はあの女に敗れ、顔を焼かれ、友達を奪われてしまいました……だから敢えてあの女と同じ顔になることで、恨みを忘れないようにする為です」
「成る程……殊勝な心がけですね」
ミーデは遠くを見つめながら言った。
ペルシアの種族はドッペルゲンガー。
他人の姿を模倣することが可能な種族だ。
「ミーデよ」
魔王の剣がミーデに語りかけた。
「貴様のすべきことは3つあるぞ……一つは神器全ての回収……二つは魔王軍の兵士を集めること……三つ目は我ら七人の魔王の復活だ……」
「はい、魔王様……」
ミーデは深くお辞儀をした。
「さ、皆さん、我々も行きますよ」
ミーデはペルシア、レヴィ、ライナー、サイゴを含めた十数人の部下を引き連れ、人間界へと向かった。
こうして魔界は誰も居なくなった。
この日、ミーデを統率者とする新たな魔王軍・ネオサタンが誕生した。
To Be Continued




